天空墓標9
あれから左足を最初の一歩として踏み出す事に注意して進んだ。石像は俺たちの方へ視線をずっと向けているが攻撃してくる気配はない。恐らく正解なのだろうと思う。
石像の視線は常に俺に向いている。空中を飛んでいる3人には意識が向いていないようだ。前から考えていた事ではあるけど、これで確定だ。空中を浮遊しているとこの領域のギミックに認識されない。
法則にはかかるだろうが、踏破するためのギミックが動かないのであれば恐らく1階層さえ超える事は出来ない作りになっている。
つまりはだ。
俺に万が一の事があれば他の3人はここから出る事さえできなくなるという事になる。
とはいえこの程度で死ぬつもりもないし大丈夫だと思うがこの事実に恐らく鮫田さん辺りは気付いてるだろう。あえてその話題を避けているのであれば俺から話す事もやめよう。
「ん、少し風が出てきたね」
「――そうだな。くそ調整が難しくなる」
そういえば鮫田さんは重力操作で浮いているだけだったか。僅かな操作しかできないと言っていたが、それを使って浮遊している以上、風の影響は馬鹿にならないのかもしれない。
「お、あれじゃないかい?」
「みたいだな」
大きな足場がありその中央に光の渦がある。俺達はそこへようやくたどり着いた。
「少し休憩にしようぜ。霊力を回復させたい」
「賛成だ。私もくたくただよ」
「では少し休みましょうか」
「おう。幸太郎は悪いがそのままだ。流石にここでベルトを外すのはちと怖いんでな」
「はい。わかりました」
鮫田さんとうおさんは目を瞑った状態で座り込み、そのまま背中を倒して横になった。
「随分大胆に休むんですね」
「ここは敵もいないし、落ちもしない。上さえみてりゃ大丈夫なんだ。別にいいだろう?」
「まあ悪くないと思いますよ」
そうして休憩していると俺はふと思った事を聞く事にした。
「そういえば鮫田さん。この領域は下を見ると落ちるんですよね。それってどうやって落ちるんです?」
「ん、ああ。なんつうかな。まるで何かに引っ張られるみたいに落ちてくんだ。まるで突然足場を失ったみたいにな」
「完全にホラーじゃないか」
「ここは一応悪霊のいる霊界なんだ。今更じゃねぇか」
「違いない」
そう言っているうおさんに向かって鮫田さんは何かを投げた。投げたものは寝ていたうおさんのお腹に落ち、それを寝ていたうおさんがキャッチしたようだ。
「ほら、勇実さんも」
そう言って鮫田さんは黄色の箱と赤いビニールのものを手渡してきた。受け取った物を見ると、カロリーメイトと魚肉ソーセージのようだ。
「ほら幸太郎も食え」
「ありがとうございます」
俺は受け取ったカロリーメイトを開封し、取り出した1つのブロックを口に運ぶ。初めて食べたが意外にうまい。この手の飯は味が微妙だと思ったんだが意外におやつ感覚で食えそうだ。
「ありがたいけど何でカロリーメイトなんだい? 喉乾くだろう」
「俺が好きなんだ。悪いかよ。一応人数分の水も用意してるさ」
あの抱えているリュックは結構大きい。恐らく結構な量の食料などがあるのだろう。
「実際どの程度攻略に時間が掛かるか、わからねぇからな。一応目安として手持ちの食料が半分以下になった時点で撤退しようと思ってるぜ」
「それは賛成だ。流石に神経使うからねぇ」
話を聞きながら俺は近くにある光の渦を何気なく見て1つ気になった事があった。
「そういえばなんだけど、今回のこの渦。前の階層より高い位置になるのは何ででしょうね」
「確かに1、2階層の渦は腰くらいの高さにあったが、今回は随分高いな」
そう何故か今回の光の渦は俺の頭よりも高い場所にある。まあ触ればいいので手を伸ばせば届くし、ジャンプすれば余裕なわけだが、何故位置が変わっているのだろう。
「案外ゴールが近いのかもね」
「なら気を引き締めようぜ。何度も言うが下を見るなよ。特に……」
「一番最初に下をみる奴が多いんだろう。もう耳にタコができるって」
「死ぬよりはマシだろうさ。さて、そろそろ良いだろう。行こうぜ」
俺たちは立ちあがった。ちなみにゴミは鮫田さんが回収している。ここでごみを捨てた場合、地上に落ちていく可能性が高いからだ。
「おし。準備はいいな? 行くぜ」
鮫田さんの声に合わせて俺たちは光に触れた。
「これは――」
俺が目を開けて見た光景。それは一面が夜の帳に覆われ、僅かな星が輝くだけの真っ暗な世界であった。
俺の予想が当たった。ここまで暗いと足場が殆ど見えない。いつもなら正面を見ていても僅かに見えるはずの足場が今は完全に闇に包まれている。
「こりゃまた面倒だね、おい福部。例の光る蟲って奴が必要そうだね……ん鮫田?」
うおさんの疑問の声が聞こえ俺も鮫田さんの方へ振り向く。鮫田さんは上を見ていた。そして上を見て固まっていたのだ。
「鮫田さん?」
俺がそう声をかけた時。
「あ――ああああああ!!!! くそ、くそ、くそぉ!!!」
そう突然叫びだした。
「ちょ、どうしたのさ。上に何が――」
うおさんがそう言いかけた瞬間に鮫田さんはうおさんを髪を掴んで地面に押し倒した。うおさんの小さな悲鳴が聞こえ俺も慌てて近寄ろうとする。
だがうおさんを抑え込んだ鮫田さんが転んでいた。前のめりに転んでおり、抱えていたリュックがクッションとなっている。
「ああああああッ! 幸太郎ォ ベルトを外せすぐにだ!」
そう言いながら鮫田さんの足が宙へ浮き始めた。鮫田さんは必死に爪を立て、床にしがみつこうとしている。俺はすぐに近くへ行こうとしたが静止した。
鮫田さんは今床にいる。目を開けたまま床を見た場合、どうなる? と考えたからだ。だがすぐに宙へ浮き始めた鮫田さんの足を掴んだ。そして驚く。
「上に引っ張られている?」
それも段々と力が強くなっている。まだ俺の力で抑え込めるがこれ以上強くなってしまうと掴んでいる鮫田さんの身体が持たない。
「くそ、痛いじゃないか! 何がどうなってんだい!」
「うおさん、目を瞑って! 何かやばい」
「はあ!? 何が起きてんだ!」
背中に背負われていた福部は混乱した様子だが、必死に自身の身体に巻き付いているベルトを外している。
「鮫田さん、どうしたんです! 上を見て何があったんですか!」
段々と上へ引っ張られる力が強くなっている。このままだとマジで鮫田さんの身体が不味い。上に何があるんだ?
「あああ、いてぇ、いてぇなくそ! なんだよあのバカみたいな数の手は! こんな風に落ちていったのかよ……勇実さんッ! 手を放せッ! このままだとあんたも道連れだ!」
「待て、何言ってんですか! このまま抑えていれば」
そういった瞬間、俺の身体が浮き始めた。おいおいマジかよ。どうなってんだ?
「いいか! よく聞いてくれ。ここは逆転してる! 俺たちは天井にいる。上が下だ! だから上を見るのは下を見る事になる! 幸太郎、俺の鞄を預けるぞ!」
何とかベルトから解放された福部はアイマスクをしたまま床に投げ出された。
「大樹さん!? 一体何が起きてるんですか!?」
「勇実さん手を放せ! アンタまで巻き添えになる! 大丈夫だ、このまま落ちたとしても俺ならギリギリ重力操作で助かるかもしれねぇ! だから心配すんな、わりぃ後は――くそ止めろ! 俺を掴むな、離せぇぇえ!!!!」
宙に浮いた鮫田さんは俺の手を払い、上へ落ちていく。状況が整理出来ない。だが――。
「キィッ! 付いていけ! 絶対に死なせるな!」
俺は指輪からキィを召喚。子猿程度の大きさで召喚されたキィは上へ落ちていく鮫田さんの背中にしがみ付いた。そして最後まで離せと叫び続けた鮫田さんは空へ落ちていった。




