霊能者試験12
――生須京志郎 視点――
「どういうつもりだ。天羽殿」
誰もいない空き部屋で向かい合いながら座っている。目の前にいるのは天羽家の現当主である天羽琴葉。事を成すために人を利用する事に躊躇がない女だ。
「だから言ったでしょう。たまたまここのジャガイモカレーが食べたくて来ていたら、偶然にも例の異常霊力の件で連絡が入ったからちょっと顔を出しただけよ」
「そのような虚言が通じると?」
指をテーブルの上で1度叩く。それだけで窓ガラスが叩かれたように音を出しテーブルと椅子が軋むように動いた。
「わかったわかった。そう何度も強い霊力を受け流すのも大変なのよ。とりあえず京志郎君の質問にちゃんと答えるからその霊力抑えて貰えるかしら。一般人なら気絶するわよ」
「何故ここにいる。何を視た」
「理由は単純。あの彼。勇実君だったかな。彼に出来るだけ本気を出してほしかったから。もっとも彼の力は殆ど見れず、恐らく漏れ出した霊力だけであのざまだったっていうのは驚いたわね。でもこれで彼の力量はあれでも底が見えないレベルだという事は確認できたし、まあそれで今回はよしと思っているわ」
「もっと具体的に話せ。そもそも何故お前が勇実殿に本気を出させようとしていた」
そう睨みつけると、天羽はどこ吹く風と笑みを浮かべる。
「あたしが介入しなかったら、あの子は力の一端を出さず、ここの職員だけでは正当に評価が出来なかったわ。恐らく出来るだけ力を隠して精々ランクⅦとかになっていたでしょうね」
「それは――」
「分かるでしょう。ランクⅧ以上は日本でも海外でも貴重な存在よ。どの国でも喉から手が出る程欲しい人材。でもあそこであたしが介入しなければ正当な評価をされず本来の能力とかけ離れたランクになってしまうわ。そうなると困るのよ。今後の事を考えるとね」
今後ね。一体どんな未来を視たのか。
「ある程度の顛末は勇実殿から聞いている。何やら挑発したらしいじゃないか」
「ええ。どうしてもちゃんとあの子の力を見ておきたかったの。だからわざわざ色々準備したわ。うちの一族の若い連中を用意して職員に偽装したり、改装工事予定だったフロアを使わせて貰ったりね」
「もしやあそこで倒れた職員は天羽の者か」
「そうよ。本物の職員はカメラ越しで検査してたわ。あの場にいた人は全員うちの一族よ。もっとも霊力を受け流せず、もろに正面から受けちゃってみんな気絶しちゃったけど」
「ではあの青年は?」
「桐島の坊やの事かしら。勇実君が来る前に呼び出して交渉していたの。免許取得後の1年間天羽が後ろ盾になるから少し協力してほしいってね。彼がいれば説得力も増すでしょう」
「……なるほど」
この女。いつから準備していた。今の話だけでも国とセンターへの根回しは相当なものだ。数日で出来るとは思えない。あまり能力を使う方ではないはずだが今回のために随分無理をしたという事か。
「なら試験はどうなる?」
「勇実君の方はもう終わり。もう一人のお嬢ちゃんはこの後他の人と合流して今頃能力測定を受けている頃でしょうね。牧菜のお嬢ちゃんと一緒にいるのでしょう? 見かけたら案内するようにお願いしてあるわ」
それも予定通りという訳か。
「だがまだ詳しい理由を聞いていない。何故そこまで彼にこだわる」
「……そうね。京志郎君には勇実君のフォローをお願いしたいし、話しておこうかしら。任せてもいいでしょう? 彼ったら貴方の姿を見たらあそこまで膨れ上がっていた霊力を一気に抑え込むんだもの。随分懐かれているのね」
「フォローはするが貴方のためではない」
「ええ。わかっているわ。さてどこから話すべきかしらね。ちょうど1年前。この世界がおかしくなった日。元々おぼろげな未来が視える程度だったあたしの未来視の精度が急激に上がった日。あたしは決して遠くない未来を視たわ」
天羽の未来視。直近の未来であればはっきり視えるそうだが、遠い未来の場合はまるで夢のように朧気で下手すればすぐに忘れてしまうようなもの……だったか。
「その時に見た未来をメモした内容がこれ」
そういうと天羽は小さな鞄からスマホを取り出し何か画面を表示してこちらに見せてきた。そこにはノートに書きなぐったような文字が書かれている。
知恵の迷宮が奪われる。だがそれは始まりに過ぎない。
人を殺め、それを束ねた悪意が生まれ、人は自ら天に堕ちる。
死を望まれた者。その刻まれた印は感染する。
自死を強制する病が流行る。
悪意は凝縮され、野に放たれる。
やがて星の毒は浄化されるだろう。
「――なんだこれは。どういう意味だ」
「それがあたしにもさっぱりなのよね」
「ふざけているのか。天羽殿がみた未来だろう」
「覚えてないのよ。多分これを書いた時は覚えてたんだけど今はさっぱり。ただ漠然と覚えているのは神様がいたって事くらいかしらね」
神だと? いや霊というものが明確化された今を考えればそういった存在さえもいると仮定されるのか。ただでさえ様々な国に多様な神がいるとされているくらいだ。
「あ。言っておくけれど、京志郎君が考えているような神様じゃないわ」
「何? どういう事だ」
「京志郎君が考えた神様って人のための神でしょう。そうじゃないわ。ほら山とか海とかってそういう自然が集まる場所には神様がいるっていうでしょう。それと同じ。あたしが覚えているのはね。この星、地球の神がいたって所ね」
この星の神か。段々話がオカルトになってきたな。そもそもあの予言のような文章とどう繋がる? 星の毒という所か?
「この未来がいつの話は分からないわ。1年後かもしれないし10年後かもしれない。でも遠くない未来で何かがおきるわ。それも日本で。そんな時1人でも信頼できる霊能者は欲しいでしょう」
「信頼か。貴方からそんな言葉が出るとは思わなんだ」
「ええ。信頼ですよ。だって京志郎君がそこまで入れ込んでいる子ですもの。何者なのか、彼の本当の力とか色々疑問は尽きないけれど、少なくとも人嫌いの京志郎君が好む何かがあるのでしょう。だったら大丈夫よ」
さてと、そういって天羽は立ち上がった。
「じゃあ、あたしは色々頭を下げに行かないといけないからこの辺でお暇するわ。彼の力が見たくて色々無茶しちゃったからね」
「これ以上彼らにちょっかいを――」
「出さないわよ。今はね」
そういうと静かに天羽は部屋から出て行った。




