霊能者試験5
仕事が多忙になり、更新が遅くなって申し訳ありません。
――福部幸太郎 視点――
昼が明けて次の試験が始まった。筆記試験の結果に関しては思い出したくもない。あれだけ勉強したというのにまさか合格点ギリギリの点になるなんて思いもしなかった。
それもこれもあの黒ずくめの2人のせいだ。しかも被害は多分僕だけじゃない。昼明けのまたあのフロアに集まった人数が明らかに半分以下になっていた。筆記試験自体大して難しい問題じゃない。しっかりと対策をして勉強をすれば9割は合格できる内容だ。だというのに今回の筆記に関しては合格者5割を切りそうな状況になっている。
(あの霊力に当てられた直後だ。筆記どころじゃない奴も多かったんだろうな)
倉敷さんは当てがあると言っていたけど、どうするつもりなんだろうか。呪魂玉を持っている以上、何かしらの組織と繋がっている可能性が高い。そう考えれば慎重になった方がいいだろう。この危機を事前に察知しているのは僕たちだけなのだから。
時間となりフロアにいた僕たちはいっせいに移動を開始した。場所はここから少し移動した隣の建物らしく渡り廊下を渡って移動するそうだ。一番後ろで集団についていく。僕の視線には例の2人組が映る。いやその隣には懐柔されたと思われる桐島もいる。何か談笑しているようだがここからでは聞こえない。もう少し近づくべきだろうか。そう思っていると肩を叩かれ思わずびくっとなってしまった。
「驚きすぎでは?」
「きゅ、急だからびっくりして……」
倉敷さんだった。よく見ればその横に真理もいた。
「さて、ここからの流れを説明しますね。いいですか、このあと霊力測定検査があります。福部さんはこの測定が2段階ある事はご存じで?」
「あ、ああ。知ってますよ。ランクⅤ以上は小さな霊石で測定できないからもっと大きな霊石で検査するって奴ですよね」
僕がそういうと倉敷さんは頷いた。
「そうです。一般的な小さな霊石では測れる霊力はランクⅣまで。ランクⅤの可能性がある人はさらに2次検査を受けます。お2人は自分の霊力は把握しておりますか?」
「僕は――Ⅳ以上だ」
見栄を張ったと思う。少し前の僕なら間違いなく断言出来ただろう。でも桐島やあの2人組を見ると正直もうそんな自信は湧いてこない。Ⅳまであるのは間違いないけど、それ以上の霊力が自分にあるかと言われると多分ないだろう。
「私はⅣね。そういうあんたは?」
「わたくしもⅣでしょう。ここの霊石は優秀ですから見込みがあるかは1次検査で分かると思います。とはいえ、わたくしの所感ですと3人共2次検査までは行かないでしょう」
ぐ……本当にはっきり言ってくれるな。
「それで、だからどうするって話だよ」
「ええ。本当は2次検査までに倉敷事務所に所属しているランクⅥの霊能者を呼んで検査に参加して頂くつもりでした」
「ランクⅥだって!?」
「声が大きいよ、幸太郎」
思わず大声を出してしまい、注意を受けて周囲を見回した。集団から少し離れて歩いているせいか、それともそこまで声が響かなかったのか分からないが、僕に注目している人はいなさそうだ。少し安心し肩を下ろす。
「ごめん……でも倉敷所属のランクⅥっていうともしかして姫島さん?」
「あら、よくわかりましたね。もしかしてファンですの?」
「い、いや。有名だし――」
姫島舞花。日本で9人しかいないランクⅥの霊能者だ。少し近寄りがたい雰囲気だがその美貌も相まってファンは多い。こんな事態でも生で見れるかもしれないのは少しうれしいな。
「あの、話ちゃんと聞いてる? 幸太郎」
「え、聞いてるよ。姫島さんが来るって話だろ」
「はぁ……」
そういうと真理は大きくため息をついた。どういう訳か倉敷さんの目もどこか冷ややかな気がする。
「倉敷は”本当は”って言ったでしょ。って事はこれないって話じゃないの」
「えぇ! なんで!」
「実は30分ほど前にここから10キロ離れた山中で異常霊力が感知されたの」
「それって……」
「そ。悪霊の仕業でしょうね。しかも中心地と思われる場所から数キロ離れた町に届くレベルだもの。正直異常事態よ。だからその調査に舞花さんが向かったの」
数キロ先の悪霊の霊力が届くって――そんな楽観的に構えてていいんだろうか。そう思っているとこちらの考えが読めているのか倉敷さんはこちらを見ていった。
「舞花さんからの報告をグループチャットで確認した限りだとどうもその元凶となった悪霊はもういないそうよ。霊力の痕跡は残っているけど、まるで消えたみたいにいなくなったんですって。だからその消えた霊の調査をしているって感じね。いい? 心配しているみたいだけど、気にしても仕方ないわ。霊なんていつどこで出るか分からないものなんだし。ほらいつ来るか分からない地震に怯えるようなものよ」
「いや。流石にそう楽観的にはならないでしょ。だって実際十キロ先にいたのは事実なんでしょう?」
「それこそよ。それだけ強力な力を持った悪霊なら多分土地に縛られている可能性が高いわ。幸い山の中みたいだし、舞花さんが調べれば多分痕跡はすぐ見つかるはずよ。少なくともこっちまで来ないわ」
確かに強い霊ほど何かに縛られる傾向がある。人であったり、場所であったりと。自由に浮遊する霊に限ってそこまで強くない場合が多い。まあ例外もいるけど。
「黒丈淵みたいな例外もいるでしょ」
「それを持ち出すのはどうかと思いますよ真理さん。アレは例外中の例外でしょう」
「まあそうでしょうけどね」
半年前に霊能力者の界隈で話題になったとある悪霊。人型の霊であり、その姿がまるで闇を切り抜いたかのような異様さから黒丈淵と呼ばれるようになった。この黒丈淵の異常さは2つ。まずその強さ。ランクⅣ以上の霊能者が束になっても祓う事が出来ず、あまつさえ、ランクⅤの霊能者さえ凌いだと言われている。
そしてもう1つはなぜか人を襲わない事だ。黒丈淵はどういう訳か自ら人を襲う事はない。もちろんこちらが襲えばそれに対して戦うが、黒丈淵に襲われたという話は聞かないのだ。むしろ悪霊を斬り伏せている場面を見たという話すら上がっている。とはいえ相手は悪霊だ。いつ人を襲うかなんてわからない。だからこそ、早急な討伐を求められているんだけど――。
「そういえば最近は目撃報告がなくなりましたね」
「……そうですね。舞花さんも随分探していたようですが、今月に入ってから目撃情報が消えたわ。どこへ行ったのかしらね……」
そう話していると渡り廊下の終わりに近づいた。その先には体育館程度の広い空間が広がっているようだ。いよいよか。
「さて、脱線しちゃったけど霊力検査なんだけどね。代替案としてここの職員にちょっと無理言って2次検査の見学をさせてもらう事になったわ。といっても完全に中の様子はみれないわ。検査を担当する職員の後ろにパーテーションがあるからその後ろから様子を伺うっていう程度よ」
「それって意味あるの? 話し声程度しか聞こえないんじゃない」
「まあね。測定されるランクって結局は国際心霊機関に登録されちゃうからね。だからあくまで何か異常事態があれば分かる程度って感じよ。あくまで疑惑なんだもの。流石にそこまで無理は出来ないわ」
精々話し声が聞こえる程度か。それでも何かわかるかもしれない。そう考え僕は拳を握る。
でも本当にこんなことしてもいいんだろうか。僕のやろうとしている事は正義感によるもの? いや……ただ自分にはない”特別”を持った人に対する妬みなんじゃないか。そう問いかける心をぐっと押し殺し、僕は心の中で免罪符となる言葉を唱える。
何かあってからじゃ遅いのだ、だと。




