永劫回帰のキルシウム8
身体を心配して下さるコメントなど大変うれしく思います。
引き続き無理のない範囲で書いていきますので、お付き合いいただけますと幸いです。
「なんなの……あいつ」
目の前の光景を見ながら私は無意識にそう呟いた。この都市を時の牢獄へ変え私の天外魔法の熟練度は目標値までは達成したと考える。そのため、いつ撤退しても構わないとカリオンから連絡を受けた。どうせ去るなら最後にキルシウムをめちゃくちゃにしてやろうか、そう考えた矢先だ。
暴力的な魔力を感じた。
今この都市で暴れているあの大精霊の魔力じゃない。確かにあいつらは無秩序で無遠慮な力の結晶体のような存在であり、人が測れる物差しで動いていないのは闇の大精霊の性格を知っている私から見ればうなずけるものだった。あれらは天災の一種のようなものだ。大精霊が暴れるというのはもはやどうしようもない災害であり、人間も魔人もそれに対しただ逃げるか、近づかないという選択肢しかない。
だからこそ大精霊が私の領域内に来た時、慎重に行動し観察した。抗おうと思えば抗えるはずの私の魔法も受け入れているようなのでこれ幸いと厳重に魔法をかけていた。
しかし新たな侵入者が来てからどうだ。真っ向から大精霊と戦い、あまつさえそのうちの1体を封印紛いの事までしている。その時に発せられた魔力。大精霊が災害であれば、あの人間が放った魔力はただただ暴力的なものであった。
一度都市全体を覆う程の魔力を展開された時、間違いなく私の存在を感知されたと自覚する。あれと戦うのか。一瞬だけそう考えすぐに否定した。とてもじゃないが私の手に負える相手じゃない。すぐにこの場から逃げた方がいい。
人間相手に逃げるなどとも思いもしたが、あの魔力を思い出すだけで逃げるという選択肢しかないのは明白だ。あの人間が残りの大精霊と戦っている間に、少しでも意識がそがれている間にここから離れる。そう決意し先ほど以上の魔力が空間を侵食する気配を察知した。
「”極光霊耀”」
遠くにいるはずの人間からそんな言葉が聞こえ、気が付けば私は白い空間にいた。
「なに――ここ」
知らない4階建の建造物が1つ。それ以外は何もないただ真っ白な空間。そして先ほどまで都市を囲んでいた巨大なゴーレムも同じくこの白い空間にいる。困惑しているとあの人間がこちらに視線を向けていた。
「お前がここにいる魔人だな」
「ッ! お前何者なのよ」
「普通の人間だ。とりあえずあの木偶の坊を倒したら次はお前だからな。とりあえずこれの相手でもしていろ」
そういうと地面から何か突然生まれた。小さな小人で猿のような顔をしている。そして手に小さなナイフを持っている。銀色に光る小さなナイフを持った猿たちが一斉にこちらに向かって走ってきた。
使い魔の召喚能力? ならこの結界はどんな効果があるの? 疑問は多いが今は目の前の露払いが必要だ。魔力を漲らせ魔法を展開する。
「時よッ!」
私を中心にすべての時間を停止させる。すると凶暴な笑顔でこちらに向かってきていた小人たちの動きが停止する。走っている最中のもの、空中に飛び跳ねていたものそれぞれがまるで1枚の絵のように静止していた。
そしてそれは当然小人だけではない。遥か向こうにいる巨人も片足を上げた状態で静止し、それを撃退しようとしていた人間も同じく停止している。
その結果に私は笑みを浮かべ、次の手を考える。とりあえず術者の人間を殺せばおそらくここから脱出できるはずだ。ならまずはあの人間を殺そう。確かに恐るべき魔力量の持ち主だがこうして時間を止めてしまえば恐れる必要はない。
「ふん。このちびっこい奴らもなんなのかしら。ホント気味悪い」
そういって私は近くまで歩き停止中の小人を蹴り飛ばし、踏み潰した。そうして砕け割れた様子を見た感じでは、どうやらこの小人は生き物ではなく人形のようであった。
適当に踏み潰しそのまま術者の人間の方へ足を踏み出そうとして突然起きた痛みによって私は思考が停止する。
足に激痛が走っている。理解できない。完全に時は静止している。私を攻撃できるものなんていないはず。そんな考えが頭を埋め尽くし、さらなる痛みによって私は否応なく無意識に見ないようにしていた足元に視線を移した。
そこには、先ほどまでいなかったはずの新しい人形が手に持ったナイフで私の足の皮を削いでいる所だった。
『次は……生け作り~♪』
言っている意味が理解できない。何故動いているのか、いやそれより先ほどまでこの人形はいなかったはず! 様々な疑問が頭を過るも真っ先に私がした行動はその人形を振りほどく事だった。
「このっ! 離しなさい!!」
思いっきり足を動かしそのまま跳躍してその場を離れる。見れば真っ赤な血が付いたナイフをもった人形が空中で静止している所だった。完全に止まっている。ならどうやって動いたの?
「きゃッ!」
痛みが走る。次は右腕だ。見ればどこから現れたのか分からない人形が2体、私の腕の皮を剥いでいる。すぐに腕を振るい人形を投げ飛ばす、そうしてまた空中で人形達は静止した。
「もう……なんなのよッ!!」
足と腕から流れる赤い血を見て私は今起きている事態を整理しようと必死に頭を回転させた。
「これはまさか幻覚? そうかこの結界は閉じ込めた相手に幻覚を見せる能力って訳ね――」
そうだ。そうとしか考えられない。まさか私の魔法にこんな弱点があるとは思ってもみなかった。
「痛ッ!」
次は左腕だ。3体の人形が私の皮と肉を薄く切り刻んでいる。まるで何か調理でもするかのように。
『次は……生け作り~♪ 生け作り~♪』
不快な声が人形から聞こえる。すぐに叩き落しまた破壊した。幻覚だと理解してもこの痛みはまるで本当に切られているかのような感覚だ。流石にこれが続くと頭がおかしくなる。すぐにあの人間を殺さなければならない。幸い人間の方には時間停止の魔法は効いて――。
「……嘘でしょ」
そうして前を見た私の視界には、空中で砕け散り、その砕けた状態で静止した巨人と右手に眩い光を掴みこちらを見ている人間の姿だった。
「な、なんで――時間は今も確かに静止してるはずなのに――」
「やっぱ喰らってたか。道理で大精霊が動かないと思ったんだよ」
そういうと男は掴んでいた光を圧縮し小さな石へ変えていった。それを懐にしまっている。私は視線だけ動かし空中で放射状に砕ける途中のゴーレムを見る。まだ時間は静止しているはずだ。
「魔法ってのはどこまでいっても結局は元の魔力が強い方が強い。ただそれでも確かに時止めは俺に効いてたみたいだし、お前の敗因は時間を止めた時に真っ先に俺に攻撃を仕掛けなかったことだな」
もっともそれでダメージを受けるかは別問題だが。そう口にする男を見て私は一歩後ろに下がる。まさかこの天外魔法に対抗できる生き物がいるなんて想像もできなかった。
「キャァアッ!」
身体に激痛が走る。足と手に4体の人形が私の皮と肉と爪を剥いでいる。
「――なんなの……なんなのよ! こいつらは!!」
大声を出し叫ぶ。痛みを打ち消すように、疑問をすべて吹き飛ばすようにただただ叫んだ。
「夢さ。ただ逃げられないように俺の方で手を加えた悪い夢だ」
目の前が真っ暗になる。何が起きたか分からない。ただ今まで感じたことがないような激痛を目に感じ私は声にならない叫びをあげた。その中でまた無機質な声が響く。
『次は……抉りだし♪ 抉りだし♪』




