ロストマジック
アーデに連れられ今回の指揮を執っているらしい部屋へ着いた。扉を開け中に入ろうとすると全員の視線が俺を射抜いてくる。その表情は困惑、戸惑い、恐れ、喜び、警戒と様々だ。人気者になったもんだよ、まったく。
「あーごほん。イサミ殿。貴方は――」
「先代勇者であるレイド・ゲルニカ。でお間違いございませんね?」
近衛騎士団長のアベルの言葉を遮るようにミティスが質問を投げてきた。さっきの話を聞いたせいか妙に言葉に棘があるように感じてしまう。
「まあ……そうだな」
ここで隠すのはもう無理だろうし、その辺はいいだろう。そう思って返事すると全員が息を飲むように静かになった。
「この10年一体何をされていたのでしょうか?」
ミティスは当然の疑問を投げかけてきた。一応それについては対策済みだ。
「私から説明しましょう。先ほどレイドと話し合い色々と確認が取れました。まずレイドですが、10年前魔王オルダートを討伐したのち、邪神の手によって別の異世界へ封印されていたようです」
「それは――本当なのですか?」
アーデの言葉に全員が驚愕した。それもそうだろう。歴史上はじめての出来事なのだし、半分嘘なのだから。
「はい。つい先ほど創造神より神託を授かりました。どうやら3度に渡り魔王を討伐したレイドの力を恐れた邪神が動いたようです。そして創造神は封じられていたレイドを救出するためにそのお力を振われたそうなのですが、どうやら邪神の力は思ったより強力でレイドを完全にこの世界に戻すことはできないという事です」
「それはどういう……」
「簡単に言えば、しばらくすると俺はまたその違う世界へ移動してしまうって訳だ。どうやら俺っていう存在がもう違う世界に固定されているらしくてな。今は創造神の力で何とかこっちにいられるってだけなんだ」
当然嘘である。俺を別世界――地球へ飛ばしたのは創造神であって邪神は関係ない。正直いつまでもこっちに居られるが、この問題が解決すればとんずらする予定なのだ。変なしがらみをつくらないためにこういった予防線は必要かなと思ってアーデと考えた設定である。
もちろんアーデにもその後の話の説明を済ませた。その際に爺からもぎ取った話もしてあるから納得はしている。
「もしかして地球の事に詳しいのって……」
何かに気付いたのかリコがゆっくり話始めた。
「イサミさん。その邪神に封印された場所って地球なんですか?」
「ああ。そうだ。魔王を倒してからしばらくして、気づいたら地球へ送られてな。何がなんだか分からず色々苦労したよ」
これも嘘である。ちゃんと戸籍とお金を与えられていたのでそこまで大変じゃなかった。どちらかというと仕事を始めてからの方が大変だった気がする。
「それでレイド殿は……」
「ああ。出来れば俺が生きているとあまり広めてほしくない。どういう結果であれ、俺はこっちでは既に故人だ。だから呼び方もイサミで統一してくれないか?」
「……承知した。イサミ殿。しかしまさか伝説の勇者とこうして会えるとは思ってもいなかった。だがこれで状況は大きく好転したとみて間違いあるまい」
そういうとアベルは壁に貼られている世界地図を指さした。
「イサミ殿の伝説は多くの者が知っている。イサミ殿、貴方なら魔大陸の結界を破壊出来るのではないか?」
俺をまっすぐ見てアベルはそう言った。そうしてまた全員の視線が俺に集まったため聞かれたことに正直に答える。
「どういう物か知らないが多分問題ない」
室内に驚きの声が満ちていく。ただ――。
「ただ、俺はすぐに魔大陸へ向かうつもりはない」
湧いた希望の光がまるで目の前で消えたかのように一気に暗い雰囲気に包まれた。っていうかいくら何でも一喜一憂しすぎではないだろうか。
「何故ですか!? 貴方ほどの力の持ち主であれば魔大陸の攻略は容易のはず! この戦いには人類の存亡がかかっているんですよ!」
手を震わせながらアベルは声を大きくして叫んだ。その声に同調するように頷く者もいる。だが俺はこいつらの希望通り動くつもりはない。
「はっきり言おう。俺の中で決めている守るべき優先順位の話だ。俺はこの世界の住人よりも地球から召喚された3人の日本人の命を最優先に守る」
俺の話が余程以外だったのかアベルは口を開けて固まっている。そしてゆっくりと視線がこの場にいるリコへ向けられた。
「え。私たち……ですか?」
「そうだ。俺は地球の日本で生活したからよくわかる。あそこは、本当に争いとは無縁の場所なんだ。戦う手段を持たなくても夜間に普通に出歩く事が出来る。そのくらい平和な場所だ。そんな場所から連れてきたんだ。当然その理由もアーデルハイトから聞いているし、人類を守るためにそうせざるを得なかったのも理解できる。だったら俺くらい彼らを守るために尽力してもいいだろう?」
「しかしそれならイサミ殿が魔王を早く倒す事が一番の――」
「キルシウムに捕えられている日本人がいるんだろ? ユイトって奴だったかな」
「それは……」
アベルは何かを話そうとして口を閉ざした。そしてアーデルハイトの方へ視線を向ける。恐らく自分に加勢してほしいという意味合いなんだろう。
「アベル団長。申し訳ありませんが私も同意見です。当初の手順通りキルシウム攻略、そして魔大陸の攻略へ進むべきでしょう。仮にレイドが先に魔王を倒してしまうと、残った幹部であるトラディシオン達が何をするかもわかりません」
しばしの沈黙の後ミティスが口を開いた。
「決まりでよいと思います。元々キルシウムの攻略は必須です。それに彼ならばそれほど時間をかけず攻略して下さるかと思いますよ?」
どこか挑発されているような気もするがとりあえず乗っておくか。
「ああ。よっぽどおかしなことになってなければすぐ終わらせてやるさ」
「――わかりました。取り乱してしまい申し訳なかった。では現状分かっている事を説明いたしましょう。この説明はミティス卿に預けた方がよいかな?」
少しだけ落ち着いたアベルに変わるようにミティスが一歩前に出て話始めた。
「トラディシオンが使う魔法について共有したい事があります。恐らくですが――彼らは天外魔法の使い手たちかと思います」
全員が驚愕の表情を見せた。かくいう俺も同じ顔をしていたかもしれない。
「イサミさんは当然ご存じかと思いますが、知らない方のために説明をいたします。天外魔法とは属性魔法の枠から外れた理を操る魔法の事を指します」
やっぱり妙に棘がある気がする。こいつ父親がボコられたって事がよっぽど気に入らなかったのか。
「あの……学園で習いましたが、天外魔法って確か失われた魔法と呼ばれているものですよね?」
静かに手を挙げたリコが戸惑いながら言葉を投げかける。それをミティスは受け静かにうなずいた。
「はい。私とヤマト君が交戦した魔人キノルは随分おしゃべりな魔人だったので色々教えて下さいましたよ。トラディシオンには天外魔法の使い手が3人いると」
そしてそのうちの1人がキノルって魔人だったって感じかな。しかし天外魔法ね。ヴェノから雑学程度にしか聞いてないが実際に使い手がいたのは驚きだ。
「ちなみにそのキノルって魔人はどんな魔法を?」
「彼女は重力魔法を使っていました。その影響で今も城塞都市テセゲイトは空中へ浮いたままになっています。いつ崩落するのか、このまま浮いたままなのか分からず念のためヤマト君に現地を任せておりますが、油断できない相手であることに間違いはありません」
重力魔法か。密かになんかかっけぇなと思ったのは秘密だ。重力の檻とか作れるんだろうか。
「そしてキルシウムにいる魔人レヌラですが、今までの報告から考えてかの魔人が使う天外魔法は――」
時間に関するものではないかと考えます。
どうやら俺は時を止めそうなやつと戦わないとだめらしい。




