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邂逅嬉戯1

「なんだ? だんまりか変態め!」


 濡れた赤い髪が肌に張り付いて、腕を組みながら立っている。何なんだこいつはと思ったのが最初の印象だ。


「うるさいな。俺はただ水浴びに来ただけだ。あっちいけ痴女め」

「なにぃ!? ワタシのどこが痴女だ! 言ってみろ!」

「何言っているんだ。今も俺の身体をガン見してるじゃないか。この痴女め!」


 そう俺も裸だ。なんか腹が立つから前も隠していない。



「ち、違う! お前が裸なのが悪いんだろうが!」

「だったらそっちも同じだろう」

「ぬ? それは確かに――いや待て誤魔化されんぞ!」



 こっちを指さして喚いているが無視して身体を流し始める。魂が洗われるようだ。マジで臭かったからな。ついでに服も全部洗ってしまおう。



「おい無視するな! 人間()のくせに生意気な奴め!」

「なんだ。いきなり出会って人を屑呼ばわりか。魔人こそ屑だな。屑で痴女とか最低だぞ」

「くそ、まだ言うか。今が水浴び中でなかったら殺している所だぞ」

「はいはい。悪かった悪かった」

 

 そういって俺は湖の中に潜った。もう髪の毛まで汚れているためこうして一気に落とせるのはありがたい。さて、いい加減あの魔人について考えた方がいいな。肌の色、耳の形からみて魔人なのは間違いない。魔力量も随分高いみたいだしかなり強いんじゃないだろうか。ただ何て言うか気が抜ける奴なんだよな。過去何度か魔人と対峙してきたことはあるが、あそこまで能天気な奴は初めて出会った。大体は人間を見ると襲ってくるか逃げるかのどちらかだからな。

 そう思いながら水中にいると目の前にあの女がいた。何故か俺を見て不敵に笑っている。腕を組みながら何故か挑発するかのように俺を見ている。まさか――。



 水中に長い髪を漂わせながら腕を組み俺を見ているこの女。ああ間違いない。この俺に息止め勝負を挑んでいるな。舐められたものだ。かつて海龍と戦った時、30分近く潜っていた俺の肺活量を知らぬと見える。愚か者め。貴様では勝てぬわ!



「ばばばだばば(いいだろう)」

「べんばばびばべぶば(変態に負けるか)」



 






 奇妙な人間を見た。

 幼い頃から人間とは屑であり、我ら魔人を食い物にする邪悪な存在だと教えられてきた。だから王としての力を授かり今回の人類殲滅計画を立てたカリオンの言う通り侵攻を開始した。初めて出る外の世界。周囲が岩と森で囲まれていた以前のことを考えれば世界は本当に広く面白いもので満ちている。

 初めて人間と出会ったのは何時頃だろうか。隠れ住んでいた深淵洞穴ムルクミスを抜け出し、オルデナレニアの森を散歩していた時だった。普段オルデナレニアにいない人間と初めて出会った。ただあの時は人間がどういうものか理解出来ていなかった。でもワタシの肌と耳を見て怯え、怒り恐怖を表したのを見て「ああ本当にカリオンの言う通りなんだ」と理解した。そのまま血相を変えて襲ってきた人間がワタシに取って初めて人間を殺した日でもある。


 当初の作戦通り幾つかの街を落とし、大陸の人間を殺した。やはり出会う人間は全員ワタシの特徴を見ると血相を変える。まあそれは無理もないと思う。なんせ現在は人間と魔人で戦争をしているのだ。だからどこで人間と出会っても必ず戦闘になる。必死に恐怖や嫌悪感を隠して交渉しようとする人間もいるがやはり瞳の奥にある魔人への負の感情は隠しきれていない。だからこそ、やっぱり人間は屑なんだとワタシも納得していた。



 だというのにだ。




「うるさいな。俺はただ水浴びに来ただけだ。あっちいけ痴女め」



 本当に奇妙な人間だ。ワタシの身体を見ても一切嫌悪感を持っていない。最初は隠しているのかと思ったがどうやら違うらしい。最初魔人って分からないのかと思ったが、そうでもないようだ。面白いと思った。



「ぱぁッ!! はあはあうそでしょ!?」

「ふはははは! ま、間抜けが! こ、この素潜り世界王者であるこの俺に、ごほッごほッ! か、勝てると思うなよ!」



 息止め勝負に負けた。あり得ない。どの魔人の子にだって負けた事ないのに。でもまだだ。まだワタシは負けてない!



「水切りで勝負だ!」

「水切りだと? くっくっく。水切り世界王者である俺に勝てると思ってるのか?」


 なんですって。水切りですら王を名乗るというの? ワタシ達は裸のまま湖から上り手ごろな石を探す。出来れば平らな石がいい。だがそう都合の良い形の石が見当たらない。……なら仕方ない。大きめの岩を探し魔法を放つ。黒い閃光が一瞬走り、細かいブロック状に一瞬で分解する。その中の1つを取り出し石を加工する。出来るだけ飛ぶように理想的な形を形成していく。完成だ。まるで海のように広い湖だが、この石なら反対側まで届くはず。



「そっちはどうだ。ワタシは準備出来たぞ」

「こちらも大丈夫だ」

 

 男の手にも平らな石が握られている。僅かな魔力の残滓から考えるに奴も魔法を使って石を加工したのだろう。なるほど条件は一緒か。いいだろう。



「おい。ルールを確認させろ。石が飛んだ距離で競うのか? 水の上を跳ねた数で競うのか?」

「ぬ。そうだな。とんだ距離でどうだ? ただし必ず1度は水の上を跳ねる。どうだ?」

「――いいだろう」



 馬鹿め。水切り、しかも距離に特化した勝負でワタシが負けるはずがない。この勝負は貰ったな。水辺に立つ。身体に当たる風が心地いい。


「いくぞ!」


 足を大きく開く。腰を捻り腕を振るう。魔力を石に込め、出来るだけ水平に、可能な限り遠くへ飛ぶように思いっきり投げた。ワタシの手を離れた石が音速に近い速度で移動する。横回転しながら飛んでいく石が湖の中央で一度跳ねる。速度は維持出来ている。よし、そのまま――なに!


「跳ねさせる場所を誤ったな。それは悪手だぞ」


 見ればすぐそばにもう1つの石がある。間違いないあの人間の石だ。だが一度も跳ねていない。何を考えている? ルールとして1度跳ねる必要があるのを忘れているのか。


「よく見ろ。どうしても一度跳ねると速度が落ちる。そのため距離を重視するなら少しでも奥! 俺の目標は反対側の水辺付近、それが正解!」

「なんだって!」


 ええい。そろそろ視界で届く範囲から離れてしまう。空中を浮遊し飛んでいく石を追う。みると隣の人間も同様に追っているようだ。っていうかこの速度についてくるとかこの人間何者だ? いや考えるのは後だ。石はどうなった。



 飛んでいる2つの石。もうすぐ湖を超える。するとあの人間の石が一度跳ねた。美しい跳ね方だ。なるほど豪語するだけの事はある。だがまだだ。そのまま石の速度は衰えず湖を超えた。ここから森という障害物がある。先に障害物へ当たった方が負けになるか。

 

「ぬ!」


 2つの石の直線状に遮るような巨大な木がある。このままでは引き分けになってしまう。だがそうはさせるか!その木を吹き飛ばそうと魔力を込めた足で蹴りを入れようとした時。



「させないぜ」

「なにッ!?」



 ワタシの蹴りを片腕で受け止めた。本気ではないとはいえそれなりに力を込めた蹴りだぞ? それを涼しい顔で受け止めている。しかも蹴りの衝撃も完全に相殺している。いったいどうやって――。


「ぬぉおお!?」

「飛べやぁ!」



 蹴った足を掴まれそのまま投げられた。態勢を整え空中で静止する。慌てて石の行方を見て驚愕した。



「こ、これは……」

「俺の勝ちだな」



 ワタシの石は木に半分ほどめり込んだ所で止まっている。だが奴の石は木を貫通していた。もっと力を込めるべきだった? いやあれ以上力を込めたら水の上を跳ねさせるのが困難になる。だというのにその困難をやり遂げたあの人間。



「貴様、本当に水切りの世界王者だというのか――ッ!?」

「ようやくわかったようだな」

「ッ! 次は鬼ごっこ! 範囲は湖まで。魔法による攻撃はなし。湖から身体を完全に離してはならない。それで勝負よッ!!」

「いいだろう! 鬼ごっこ世界王者であるこの俺に勝てると思うなよ」


 

 絶対に負けられない戦いというものがある。見ていろ、その余裕の面を苦痛で歪ませてやるからね!

 

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― 新着の感想 ―
莉奈と栞のヒロイン圧が…消えた…?
[一言] ここのお話は3番目くらいに好き
[一言] 問題点はこの魔人が大人タイプか、子供タイプかだ! 希望は大人、コミカライズまちだな
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