90、二人強制離脱
「さっきの浄化で魔王の防御力が低下するから、あの胸に見えている装飾品を攻撃してくれ! あれはあの肉体を構成する魔石の一部だ!」
ヴィルの言葉に、皆が気合いを入れる。
しかしかなり大きな魔王の胸の魔石は、かなり高い位置にあった。
魔法か剣か、とセイジが確認していると、魔王の斜め前にいたヴィデロが何ごとか呟いた。
途端にマントの横から大きな翼が現れた。
その翼を繰って、ヴィデロが浮き上がり、手に持った剣で胸の石を狙い始めた。
なるほど空中戦、と『飛翔』を使える『高橋と愉快な仲間たち』が宙に浮いて、ヴィデロに続き魔王を攻め始める。
セイジも魔法陣魔法を描いて、前衛を飛べるようにすると、自身も宙に浮いて全体を見た。
アルもセイジの魔法陣魔法で宙に浮くと、「不安定だな。踏ん張りが効かねえ」と言いつつ、宙を蹴って魔王に剣を突き立てる。
セイジは補助魔法を飛ばしながら、目の前で大きく開くヴィデロの羽根に目を向けていた。
その羽根は停止するたび大きくひらかれ、まるで後衛から魔王の意識を逸らそうとしているように見える。そのおかげか、魔法攻撃を受けても、魔王の視線は後ろに向かず、戦場を飛び交う魔法は魔王の体力をかなり削った。
高橋と海里は空中戦は慣れたもので、難なく動き、魔王を牽制。
ガンツはどっしりと地に足をつけて、体重を乗せた攻撃を繰り返し。
アルはすぐにコツを掴んだのか、地面からの攻撃と同程度の攻撃を繰り出し始め、エミリは魔法と剣を自在に操る。
魔王の爪は前衛の剣に弾かれ、魔法はセイジの防御魔法陣で防がれる。
実体化したとはいえ、順調に魔王の命を刈り取っている、かに見えたそれは、異邦人曰く「HPバーが黄色から赤に変わる」ときに起こった。
魔王の咆哮をヴィルのスキルでかき消し、その反動を受けた魔王に皆が一斉に攻撃を仕掛けようとしたその時。
皆の前から魔王が忽然と姿を消した。
一斉に皆の視線が彷徨う。
と共に、後方で短い悲鳴が聞こえた。
皆が一斉に振り返ると、ユーリナとマックがいるその目の前に、今まさに掻き消えた巨躯があり、その爪が二人を引き裂いていた。
全員が息を呑む。
そして、ここまで誰一人欠けていないことの奇跡がたった今途切れたことをセイジは知る。
「今の動きなんだよ!」
「消えた、ってか、瞬間移動!?」
驚愕の声を聞きながら、セイジは消えゆく二人の身体に蘇生魔法陣を飛ばした。
2人の身体が実体に戻るのを確認した瞬間、魔王がセイジを振り返り、ものすごいスピードで移動してくる。二人を治したセイジはとても危険だとでも言うように。
咄嗟に間に入った月都と高橋がその剣で魔王を牽制しながら「あっぶねえ! あぶねえよこいつ!」と叫んでいる。
「回復できるやつを優先にとか、何知恵使ってるんだよ! 単なる魔物のボスのくせに!」
「瞬間移動とか反則もいいところだろ!」
「高橋の今の空振りすげえ威力だったもんな!」
「うるせえよ月都さん!」
軽口を叩きながら魔王と剣を交わす二人はしかし、少しずつその爪による傷を増やしていく。
「死に戻り出来るのは知ってるが、やっぱり見るのは嫌なもんだな」
「全くだぜ……」
アルが盛大に顔を顰め呟いたその言葉に、セイジが同意する。
確かに何人も何人も死に戻りすると言ってキラキラと消えていった異邦人を見た。けれど、それは一緒にダンジョンに入った、一時的にとはいえ仲間となった異邦人達だった。それを見送るセイジは、何度生き返って元気になった姿を見ても、到底慣れることは出来なかった。
爪攻撃、魔法攻撃に加え、先程よりもさらに上がったスピードと力、そして瞬間移動という動きが加わったせいか、魔王の体力を削ることはぐっと難しくなった。
闇魔法も、今までの様にただやみくもに飛ばすのではなく、一つ一つが皆の動きに合わせる様に接近し、避けるのが格段に難しくなった。
セイジの魔法陣での防御で数度は躱せても、過度の衝撃で壊れ、すぐに張り直さないと次々着弾してしまう。
きりがない、と舌打ちしていると、魔王の魔弾が着弾したユキヒラが宙から地面に落ちてきた。
咄嗟にドレインが回復する。
「ユキヒラ!」
「わり、俺、闇属性がほんと苦手だから……」
『聖騎士』であるユキヒラは、聖属性なせいか、闇に対する攻撃力はとても高いが、逆に闇に対する耐性はとても低いらしく、魔王の魔法攻撃は下手すると一撃で戦闘不能になってしまうらしい。
それでも一番魔王の体力を削っているのはユキヒラの聖剣であり、今倒れられると魔王への攻撃手段のメインがいなくなってしまう。
サラは器用に魔王と同じような追撃型の魔法を使って体力を削っていたけれど他の者たちの攻撃はなかなか当たらず、最後の最後で、苦戦を強いられることになったことに、セイジは焦燥感に駆られ始めた。
地に足をつけていると、いきなり魔王が目の前に現れて攻撃を繰り出してくるので、皆が空中からの攻撃を余儀なくされた。
そうなると今度は魔王も魔法攻撃メインとなる。セイジたちを見上げる目が、魔王自体は宙に浮くことは出来ないんだと教えてくれて、皆目に見えて安堵した。が、その分魔法攻撃が苛烈を極めた。
闇属性の魔法は、たとえ避けたとしても軌道を反れて迫ってくるので、打ち消すしかなくなり、セイジは魔法防御の魔法陣を描くのをメインに切り替える。
下から魔法を飛ばす魔王は一所には留まらず、宙から攻撃する魔法はなかなか魔王に当たらない。剣を繰りだしても、全ての攻撃を防がれ反撃を食らい、早々に距離を取る。力も格段に増えているらしく、切り結んだ高橋の剣は一撃で耐久値がぐっと減った。
異邦人たちは直接攻撃ではなく、スラッシュ系のスキルを使い始め、ようやく少しずつ魔王の体力を削った。しかしやはり半分は外れるほど、魔王の動きは早かった。
「くそ、埒が明かねえ……!」
舌打ちしたアルが、剣を握り直し飛び出し地面に足をつけると、一瞬で魔王が目の前に現れる。それを予測していたアルが剣で爪を受け流し、返しざまに魔王の腹の表面を薙ぐ。
その間にも魔王の爪がアルを切り裂こうと動いたけれど、セイジの魔法陣魔法でそれは防がれた。しかし一撃受けるごとにパリン、とガラスの割れるような音がし、瞬時にまた魔法が飛んでくる。一瞬でも魔法陣での防御が切れた時に攻撃を受けたら、勇者といえど致命傷を受けかねない状況で、動きあぐねいていた者たちもその背中に剣を突き立て始めた。
魔王が剣を薙ぐ。その風圧によって、鎧が切り刻まれる。
受けた傷を治そうとドレインが詠唱を始めた瞬間、魔王が宙にいるドレインの目の前に現れた。と同時にドレインを爪で切り裂いて地に降りていく。
ドレインの身体が宙に消えていく。
アルに魔法陣を飛ばしていたセイジは、咄嗟にドレインに蘇生を使うことが出来なかった。
次に狙われたのは、ユーリナだった。同じように爪で刻まれ、消えていく。ユーリナは咄嗟に何かを出そうとしていたようだったが、間に合わず身体が消滅した。地に落ちたのは、マックが作ったと思われる蘇生薬だった。
マックは咄嗟に二人に蘇生薬を使おうとしていたようだったが、魔王を挟んだ対極にいたためならず、その手にしていた蘇生薬は使われることはなかった。




