71、聖獣からの情報
6個目のオーブを手に入れた後は、順調にシークレットダンジョンが見つかった。が、しかし、クリアオーブは出てこなかった。
先程一緒にシークレットダンジョンに入った『トランス』と共に食堂で酒を煽りながら、セイジは目の前で小さく丸くなっている聖獣を見つめた。
話を聞くと、ノワール同様、中央の山脈から降りて来たらしい。聖獣としてかなりの時間を生きているというディーと呼ばれた白い熊の姿をした聖獣は、最近では中央山脈にも黒い魔物が出るという情報をセイジにもたらした。
『封印されしケガレモノが力をつけているのかもしれん』
「けがれもの……ねえ」
顔を上げてセイジを真っすぐ見つめるディーは、まるでセイジの行動の意味を知っているかのような表情を浮かべている。
「なんだよ穢れ物って、穏やかじゃねえな」
ディーの主である閃光がエールを煽りながらちょっとだけ眉を顰める。
「これってそんなゲームじゃねえだろ、ディー」
『主にとってはこの世界は遊ぶところだが、我にとっては死活問題。主は我に力を貸してくれるということは我はわかっている』
「そりゃわかるけど。力を貸すってどうすりゃいいんだよ。俺だってやることがあるんだっての」
『ちょっと向こうの大陸に行ってケガレモノを消してくれればいい。簡単なことよ。ただし、この目の前の男と、他の異邦人どもが何十人も寄ってたかって主の言葉でいう『ボコる』ことをしないと倒れはしないが』
「待て、ちょっと待て。俺らが寄ってたかってボコるって、そんなやべえ魔物があっちの大陸にいるのかよ」
『いるな。力は衰えているが、確実に息を吹き返そうとしている。そうだな、賢者よ』
ディーは閃光から視線を移し、セイジに答えを促した。
それにセイジは苦笑すると「まあ、な」と曖昧に答えた。
むむむ、と唸り声を出した、閃光のパーティーメンバーの鉄骨が、もしや、と口を開く。
「あれじゃねえか。よくあるラスボス後の隠れボスってやつ」
「このゲームにゃラスボスなんて設定されてねえけどな」
「だったら、そいつが実はラスボスだとか。なんせ自由を謳ってるんだ。俺らみたいな戦闘好きにとっても不自由しねえ強いボスってもんがあってもおかしくねえだろ」
限りなく正解に近い答えを呟いた鉄骨の言葉に、もう一人のパーティーメンバーである女性のユーカリが、「はいはいはーい」と可愛らしく手を上げた。
「私、ラスボス戦でたーい。なんかドロップ品すっごいの出そうじゃん」
「お前な……時間が合わなかったら参加できるわけねえだろ。そういうのって大抵レイド戦じゃねえか。俺は暇じゃねえんだよ」
「暇じゃないとか言いながらレベルカンストしてる閃光ってどうかしてると思うの」
「その言葉遣いやめろ、キモイ。それにてめえだって同じだろ」
「ひっどーい。同僚を捕まえてキモイとか、モラハラよ!」
「いい加減にしろお前ら。そしてユーカリはキモイ。本人を知ってるから余計に。っていうか、実は魔大陸実装済みとか言わねえよな。公式からそういう発表あったか?」
「ねえよ。でもADOってそういうの多いじゃん。限界突破の神殿にしても獣人の村にしてもさ。今回のもそれじゃねえの?」
「まあ、そうよね。なんにせよ、可愛いディーの頼みなら、断れないわよねえ、閃光」
「時間が許す限りはな。もしかしなくてもセイジも魔大陸行くんだろ。大丈夫なのか? こっちのやつらは壁向こうに行くと狂うって聞いたんだけど」
異邦人たちの異邦人特有の話を黙って聞いていたセイジは、いきなり振られて「んあ?」と間の抜けた声を発した。
目の前の三人は、一様にセイジを心配そうに見ている。こういう風に、自分たちこの世界の人間に心配そうな視線を向ける異邦人はそう多くはないことは、セイジは嫌という程知っている。まさにこういう人物を見極めダンジョン攻略の手伝いを打診しているのだから。でも、そうは言っても実際に全面で心配されるとセイジとしては嬉しい反面、面映かった。何せ、自分は異邦人たちを使えるやつかそうじゃないかで見ている節があるのだから。
「まあ、ディーの願いがなかったとしても俺らで力になるなら声をかけてくれよ」
「ああ、サンキュ。頼りにしてるよ」
セイジがグラスを上げると、三人が同じようにグラスを掲げて、乾杯した。
あと一つ。あと一つでサラを。
そんな想いが、焦燥感を生む。
今までは気楽に考えていたセイジだったが、焦りは余計な隙を生むことを知っているはずなのに、もうすぐ悲願が達成されようとして、浮足立っていた。
6個目のクリアオーブを手に入れてから5度目のシークレットダンジョン。ボス魔物を倒した場所に落ちていたブルーオーブを拾いながら、セイジは届きそうで届かないもどかしさに、歯ぎしりをした。
いったん持ち物をクラッシュの店に持って行こうと、セイジはトレへと向かった。
セイジの移動は、シークレットダンジョンを探しながらということで、急ぎじゃない場合は基本徒歩がメインだ。クワットロからトレに向かい、森を抜けた辺りで、大きく口を開けた刻の亀裂を見つけたセイジは、そのままトレの街中に入っていった。
トレの街は、いつも以上に異邦人たちでにぎわっていた。
特に、クラッシュの店の付近に人だかりがあり、セイジは少しだけ眉をひそめた。
今までともにシークレットダンジョンに行ったパーティーもちらほらと目に入る。
何が起きた、と足を進めると、クラッシュが笑いながら店の外で異邦人たちと歓談していた。
「ほんとごめん。特売はまた今度ね。これを見せてくれたら次に来た時に優先的に売るから許して」
「仕方ねえなあ」
「今度は辺境で実演販売してくれよ」
「辺境かあ。あっちはあっちで雑貨屋さんがあるからなあ。俺はトレの街の雑貨屋なんだよね」
「辺境からここまで来るの骨なんだよ」
「何いってんの今はギルドで転移できるじゃん。明らかにすぐ来れるよね?」
「雑貨屋さん情報通?」
「うちの母さんを誰だと思ってるんだよ」
「なるほど」
クラッシュと異邦人たちの会話を聞いていて、セイジは思わず吹き出しそうになる。なるほど、冒険者ギルドの転移魔法陣を、異邦人たちはかなり活用しているらしい。あまり必要性を感じなかったが、そんなことはないんだと、セイジは転移魔法陣を置くという英断をしたエミリを心の中で称賛した。
「さてと……あのシークレットダンジョンは、誰に手伝ってもらうか……」
人ごみを見回し、セイジはある一点で視線を止めた。




