68、小さな古代魔道語マスター
村の中には、大きな家、木の上に作られた家、立派な家、そして、土だけで作られたような家など、様々な種類の家があって、不思議な雰囲気を醸し出している。
セイジが狐獣人に連れていかれた先には、こじんまりとした可愛い家があった。
狐獣人がドアを開けると、いきなり小さなものが飛び出してきて、目の前の狐獣人に体当たりしてきた。
「おとうしゃんおかえりなさい!」
可愛らしい声が響き、その声の主と思われる小さな狐獣人が、狐獣人の肩越しにセイジを覗く。
「おとうしゃん、おきゃくさま?」
「ああ。父ちゃんの弟子だ」
「でし? おとうしゃんのでしさん? ごはんつくるひと?」
「弟子はご飯作るやつじゃねえよ。父ちゃんが魔法を教えるんだ」
「そうなの? おとうしゃんすごいね。あのね、ユイルっていうの。でしさんのおなまえは?」
円らな瞳をキラキラとさせて、小さな狐獣人が小さな手を差し出す。セイジはその小さな手を取って「セイジだ。よろしくな」と小さく握手した。
「あ、俺はケインっていうんだ。中にカミさんがいるけど気にせず寛いでくれ」
「ああ。サンキュ」
二人に促され、セイジが家に足を踏み入れると、奥から小さな栗鼠の獣人が顔を出した。
「あら、お客様? いらっしゃいませ」
ユイルと同じ反応をする栗鼠の獣人に、セイジの顔が綻ぶ。
「アリア、俺らちょっと屋根裏にいるから」
「はいはい。じゃあ夕飯になったら呼びますね」
ニコニコと返事をした栗鼠の獣人は、セイジにごゆっくりと声をかけると、ケインからユイルを預かって奥に引っ込んだ。
奥に進んで梯子を登ると、沢山本が平積みになっている部屋があった。
「セイジはどれくらい魔法陣魔法つかえるんだ? 見たところ熟練そうだけど」
「ある程度の応用は利く程度だな」
ケインの言葉にセイジが返答すると、ケインは頷いて部屋の本をゴソゴソと探し始めた。
しばらくすると、セイジの前には数冊の本が並んでいた。どれも高度な古代魔道語の本で、難解な文章がつづられている。
「これが全部すらすら読める様になったら魔法陣魔法の応用を教えてやるよ」
ケインがにこやかに出してきた課題は、だいぶ骨が折れそうだ、とセイジは肩を竦めた。
古代魔道語をすらすらと読めるようになったのは、それから一月ほど経ってからだった。その間、セイジはケインの家の屋根裏部屋で、ひたすら古代魔道語の読解をし続けていた。
たまにアリアが掃除をしに来たり、ユイルが日向ぼっこをしつつ古代魔道語の本をすらすら読んでいたりし、部屋にこもっているとはいえ、静謐とは程遠い毎日だったが、不思議とそれが不快ではなかった。
何より目を瞠ったのが、ユイルの古代魔道語の知識の深さだった。まだ幼いはずのユイルが、セイジが読めずに悩んでいる古代魔道語の単語の意味を教えてくれたのはかなり衝撃的だった。
「ユイルはすげえな。こんなのどこで覚えたんだ? 父ちゃんがすげえからか?」
まるで絵本を読むかの様に難解な古代魔道語を読み解くユイルの頭を撫でながらセイジが思わず質問すると、ユイルは首を横に振った。
「あのね、ぼくね、ずっともじをよみとくおしごとしてたの。じをかくのもよむのもすごくしゅきなの。そしてね、えいゆうが、ぼくがじをかくと、すごくあったかいじとぶんだってほめてくれたの」
「ほう……?」
にこ、と幼い姿に似つかわしくない笑顔を浮かべたユイルは、一息にそう言うと、ふと視線をどこか遠くに向けた。
セイジが古代魔道語をマスターすると、ようやくケインから魔法陣魔法を教えてもらえることになった。
語彙の知識量が豊富になったセイジは、ここにきてようやく自身の魔法陣魔法の欠点に気付いていた。
ケインに指摘されて、それを改善していく。それを繰り返し、繰り返し、身体に刻み込んでいく。
気付くと、セイジが獣人の村に来てから、すでに二月程経っていた。
ケインに魔法陣魔法のお墨付きをもらったセイジは、ここに来て初めて、ゆっくりと獣人の村を見て回ることにした。
村を歩いていると、ちらほらと異邦人たちを見かける。
急激な世間の流れに完全に置いていかれていることを自覚したセイジは、これからは頻繁にエミリの元に顔を出して、情報を手に入れようと心に決めた。
村から森に足を進めると、道を歩いていた獣人が「ここから先は魔物が出るから気を付けろよ」と忠告をしてくれた。
礼をいいつつ、セイジの足は止まらない。散歩気分で森を歩き、魔物が出ると叩き込まれた魔法陣魔法の試し打ちをした。
そこで気付く、次元の亀裂。
「こっちにも亀裂はあるのか……」
セイジの目の前には、シークレットダンジョンへの入り口があった。
さてと、と辺りを見回す。
ぽつりぽつりと異邦人たちが歩いている気配を感じたセイジは、目の前の亀裂に視線を向けながら、「誰かいるかー」と声を上げた。
その声に反応してやってきたのは、金色狼の姿をした異邦人と、エルフの姿をした異邦人、そして人族の姿をした異邦人二人の4人パーティーと、豹の獣人だった。
「どうしたんだ? なんかあったのか?」
木の間からセイジの元に駆けつけてくれた異邦人達と獣人に、セイジは肩を竦めながら、目の前の皆には見えない亀裂を指さした。
「ここにシークレットダンジョンがあるんだけど、一緒に入ってくれるやついねえ?」
セイジの言葉に、異邦人たちが目を見開いた。




