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27、解放


 誰もいないところから転移でエミリの所に飛ぶと、エミリは半眼で書類とにらめっこしていた。


「どうした」

「この間の申請した奴あったじゃない。クラッシュを助けるための申請。アレの請求書が来てるんだけど。どうしたらいいと思う」

「は?」


 セイジは最初、エミリがナニを言っているのかさっぱりわからなかった。


 確かに、エミリはクラッシュ奪還のために王に騎士団を貸し出す旨の申請書を書いていた。

 でもその日のうちににセイジがクラッシュを連れ帰ってきたはずだ。

 騎士団が出てきた話など、全く聞いてもいない。

 それがなぜ、請求書。


「なんでもね、クラッシュが見つかった情報を私たちが伝えなかったから、後日騎士団を派遣したんだって。それにかかった費用を請求されてる」

「その請求先は王か?」

「王の署名が入った、セィの御貴族様よ。あ――丸めて捨てたい。滅ぼしたい」


 エミリの呟きに、セイジはそれだ、と声を上げた。


「エミリって昔、世界の守り人だったのか?」

「え、うん。誰から訊いたの?」

「アルだけど。エミリ、お前、必死で魔法を使わないようにしてるけど、使っても大丈夫みたいだぞ?」

 

 エミリはその言葉を聞いて、目を丸くした。


「え、でも、私が力を使うと、呪いが発動するって。なんか血筋を辿ってクラッシュまで攻撃するって」

「その契約の石にそんなクラッシュまで縛る力はねえよ。それにな。契約時、『本来の力』って契約したんだろ?」

「うん、多分」


 二人とも「多分」とかいうあたり、ちょっと不安を感じたセイジだったが、はぁ、と一つ溜め息を吐くにとどめて、肩を竦めた。


「エミリの『本来の力』ってのは、その守り人の力のことを指してるってアルが言ってたぞ。あいつは脳筋だが、そこらへんはちゃんと嗅ぎ取る野生の勘を持ってるから、多分間違いはねえ」

「えと、でもその力、私とライアスがラブラブになった時点で消えたんだけど」

「だから、契約の石との契約はほぼ無効だ。暴れてもなんも問題ねえってことだろ」

「……そっか」


 エミリは目から鱗が落ちたような顔つきで、そっかそっかと繰り返した。そして立ちあがり、ドアに向かう。

 セイジもそのあとをついていくと、エミリはギルドにいる冒険者たちの間を抜けて、建物の外まで出た。

 少しだけ広くなっている冒険者ギルド前の広場で空を見上げ、「そっか」ともう一度呟いた。


「よし」


 エミリは深呼吸して、ハッと息を吐く。

 周りにいた冒険者たちが、なんだなんだとエミリに注目した。


「皆危ないから下がっていてね」


 エミリの本来の力を使ってあたりを攻撃したら、契約の石の呪縛が身体を束縛し、呪いが身体を蝕んでいく。

 そう、大臣は言った。

 あんなものを持ち出してきた大臣だったが、討伐メンバーとして集められた時も、あまりにも巨大な力のため王都に縛り付けられそうになっていた時も、陰から何かと力を貸してくれた人物だった。唯一と言っていい、味方だった。そう思っていた。

 信頼していたのに、大臣が持ち出した石と、その契約内容に、エミリは愕然とした。でも、これからはライアスとクラッシュと一緒に、荒事は冒険者たちに任せて幸せに暮らすということを信じていたエミリにとっては、力はもういらない物だったから、おとなしく契約の石に誓った。クラッシュが攫われ、ライアスが命を落とすまで。あの時は、本気で契約の石を持ち出した大臣とそれを許可した王を恨んだものだ。

 でも。


 手に魔力を集め、深呼吸する。久しぶりの魔力の高まりに、精神も高まっていく。

 そして、息を一つ短く吐くと、力任せに天に魔法を放った。

 エミリの手から、炎の身体を持った生き物のようなものが、空に向かって勢いよく駆け上がっていく。周りの冒険者たちには、そう見えた。

 

「違ったのね。守り人の力を使うのがダメだったなんて知らなかったわよ。もうそんな力消えてなくなっちゃったのに。こんな風に魔法を使っても、呪いなんて発動しないじゃない」


 もっと早く気付いていたかった。そうしたらライアスもまだ隣に立っていたかもしれない。

 でも、あの契約の石を大臣が出してこなかったら、そもそもこんなところで悠長に暮らしていれなかった。

 気付けなかった自分がバカだったのだ。


 思いの丈を込めて、もう一発空にありったけの魔力を放出する。

 もう一体の炎の生き物が、空を駆け上がっていった。


 はぁ、と息を吐いて、契約の石の埋まっている自分の手首を見ると、そこは全く何の反応もしていなかった。

 アルの推測は正しかったんだ。そして、大臣はエミリの力を封じることなく、王都から外に逃がしてくれたのだ。


「もう、ほんと、バカ……」

「いいじゃねえか。これからは自分の力でクラッシュを守れるんだからよ。なんなら景気づけに王都でも破壊しに行くか? 連れてってやるよ」


 俯くエミリの肩をポンと叩いて、セイジが軽口を言う。

 エミリはそれにちょっとだけ笑うと、「嫌よ」と首を振った。


「せっかくセイジが自由に動けるのに、私の一過性のエゴでセイジを動けなくしたら、サラが帰ってこないじゃない。私の親友を返してもらうまでは我慢するわ。これ以上クラッシュに何かするようだったら、ピンポイントでそいつを容赦しないけどね」

「アルの方も動くらしいぜ。楽しそうだから俺も見学するかな」

「あなたはまずオーブ探しが先決よ。さっさと探し出しなさい」


 そうだな、とセイジは軽く笑った。そして、すっきりした顔をしているエミリに軽く手を上げ、周りで歓声を上げているギャラリーに紛れていった。





 ざわざわと周りが騒がしい中、エミリが手を振って冒険者ギルドに入っていく。

 受付では、ギルドの職員の女の子が、驚愕の目でエミリを見ていた。

 エミリが魔王討伐メンバーだったのは、ギルド内の誰もが知っている。しかし、エミリが剣を持ち、魔法を使うところを見た者は今まで誰もいなかったからだ。


「……統括、あの、あんな大きな魔法を使って、魔力の方は大丈夫ですか……?」


 恐る恐るというように声を掛けられて、エミリはすっきりした笑顔をその子に向けた。


「ぜーんぜん。あんなの初歩の初歩よ? これからは、私に歯向かうやつはバンバンなぎ倒していくことにするわ。覚悟しておいてね」


 にっこりとそう宣言するエミリの言葉は、ギルド内の職員だけではなく、登録しているメンバーや、裏方で魔物の素材などを扱っている者まで震撼させた。

 後日、弟子にしてください、とギルド前で土下座をする異邦人が何人も出てきたことに、エミリは苦笑するしかなかった。


 


「あれ、受付の人、変わったね。俺、あの子の仕事丁寧だから気に入ってたのに」


 カウンターで依頼完了の報告をしていた異邦人が、ふと気付いて目の前の受付嬢にそう声を掛けた。

 受付嬢は、申し訳なさそうな顔をしながら、依頼完了処理を進めている。


「すいません。なんでも、田舎の両親の体調が芳しくないらしく、看病をしないといけないと言って辞めてしまったんですよ」

「そっか。残念だね。仕事の早いできる子だったのに」

「贔屓にしていただいてありがとうございました」


 異邦人に頭を下げながら、対応をした受付嬢がこっそりと溜め息を飲み込んだ。

 彼女は、統括の放った魔法を目にして、その後の宣言を聴いて、慌てて暇を乞う申請を提出していた。その後、ギルドをやめる理由を聞くためと統括に呼び出され、その後彼女の姿を見かけていない。

 たぶん、彼女は何かをしてしまったのだ。

 両親のもとになど帰っていない。と、その申請書を手にふらりと階下に来た時の統括の表情を見たギルド職員は、誰も口にしないが、誰もが気付いていた。


更新頻度が激低下してすいません。

いつも読んでくださってありがとうございます。

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