料理に大事な素材はかつてあなたが持っていたもの
~前回のあらすじ~
サンライオンが食べられた。
白い怪鳥の巨大な鉤爪が、空飛ぶ巨大な白蜘蛛の足へと襲い掛かろうとしたが、巨大蜘蛛が糸を吐いたので、怪鳥は急旋回して糸を避けた。
旋回して後方から怪鳥が白蜘蛛に襲い掛かろうとするが、白蜘蛛は先ほど吐いた糸を闘技場の外壁にくっつけ、糸の伸縮性を利用して避けた。
そして、闘技場の外壁に降り立った白蜘蛛は外壁の反対側に糸を吐き、中央に移動すると、糸を吐いて巨大な巣を作り上げた。
その巣の上で怪鳥を迎え撃つ気なのだろう。
怪鳥もそれを理解したようで旋回して様子を窺っている。
怪鳥が白蜘蛛に襲い掛かったとき、白蜘蛛に避けられた場合、己の身体は蜘蛛の糸に捕らわれてしまうだろう。
勝負は、次の一撃で決まる。
鳥か……蜘蛛か。
闘技場の観客は、その世紀の対決を見上げていた。
手に汗握る戦いだろう。
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砂糖【食材】 レア:★★
テンサイダイコン等から取れる甘い調味料。
塩とよく間違えられる。
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そして、
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ローストチキン【料理】 レア:★★
鶏を一匹丸ごと焼いた料理。
見た目の豪華さでフルコースのメインとなる。
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が鑑定結果で表示される。
つまりは、綿飴 対 ローストチキンの対決というわけだ。
殺人料理大会もすでにメイン料理。
ルシルの作ったローストチキンは、白い怪鳥となり、空へと逃げ出した。
そして、それを見ていたのが、ルシルが昨日作った綿飴。
綿飴は一日の間に、雲になり、蜘蛛になったというわけだ……どういうわけだ?
蜘蛛の糸に見えるのも、おそらくは砂糖の繊維なんだろう。
ローストチキンと綿飴の対決、それを眺める観客。
そして、実況も、この世紀の糞試合の実況に夢中のようだ。
『おぉっと、怪鳥が仕掛けた! 白蜘蛛は……なんと避けない!』
蜘蛛は糸を二方向に飛ばした。
二本の糸が怪鳥の両翼へとへばりつく。
蜘蛛はその糸で怪鳥のバランスを崩させ、巣へとつっこませようとしたのだろう。
だが、怪鳥は無理やり蜘蛛へと飛んでいこうとする。
蜘蛛の糸が勝つか、怪鳥の翼力が勝つか……どっちでもいいけど。
『どっちでもいいです。神の息吹!』
仮面の少女の放った強力な風魔法。
巨大な空気の塊が怪鳥と蜘蛛を捉え――二体は混ざり合い舞台の中央へと叩きつけた。
そして、食事の達人Sはその怪鳥を食べていく。
『……甘いですね』
そりゃ甘いだろ。砂糖塗れになってるんだから。
蜘蛛は砂糖の繊維に変化し、怪鳥にまとわりついていた。
結果、怪獣大戦争級の戦いは、仮面の少女によって幕を閉じた。
それにしても、彼女はもくもくと食べているけど、怪鳥になった鶏肉は大きいのに、よくあれだけ食べられるな。
「それが食事の達人なのだよ」
「食事の達人は決して料理を残さない」
「食事の達人にかかれば、この程度朝飯前どころか、常に朝飯中ってところだな」
なんでお前たちが偉そうなんだよ、ガヤ三兄弟。
仮面の少女は怪鳥をぺろりと平らげ、
『甘いと言っているのは、ルシルさん、あなたの料理に対する姿勢です』
「私の料理に対する姿勢のどこに問題があるのよ!」
ルシルが文句を言うが、
……あれ? 問題ないところが全く見つからない。
だって、あの料理を食べるはずだったサンライオンは、さっきの怪獣大戦争を見て、借りてきた猫どころか、生まれたての猫のように大人しくなってぷるぷる震えている。
『ルシルさん。あなたは料理に一番大事なものが抜けています。それを理解しないようなら、あなたには料理を作る資格はありません』
「……大事なもの」
ルシルはそう言うと、押し黙ってしまった。
何か考えているようだ。
『きっとあなたも最初は持っていたはずです。それを思い出してください』
仮面の少女はそう言うと、ルシルの前から去っていき、他の人が作ってサンライオンが食べなかった料理を食べきるために歩いていった。
ルシルは無言で選手控室へと入っていく。
大事なものって言われてもな。
俺もわからない。
ルシルが最初に作ったのは、パンか。
いきなり俺に襲い掛かってきた。ルシルにとってのもてなし方だったんだろうな。
思えば、あれが俺の人生を大きく変えた一因であった。
次に作ったのは薬草汁。ドラゴンになって勇者試験を無茶苦茶にした。
全く、地上から疲れて帰って来たときのあれには本当に参ったよ。
そして、ハンバーグ……俺のために焼いた料理だったが、あれはひどかった。
……あれ? そういえば、この頃の料理って、誰かに食べてもらうために人を襲っていたんだな。
最近の料理は、逃げ出したり、逆に噛みつこうとしてくる。
サンドウィッチに襲われたときは本当に参ったな。
「……もしかして、ルシルは……そうか」
俺は立ち上がると、
「コメットちゃん、ちょっと待っててね。ジュースでも買ってくるよ」
「あ、ジュースなら私が」
「いいからいいから」
そう言って、歩いていく。
そして、関係者専用の通路を見つけてそっと忍び込んだ。
イメージで、警備員を敵と認識させると、索敵スキルによって警備員の配置が手に取るようにわかる。
俺はその警備の裏をかき、選手控室のあるだろう場所を目指した。
そして――そこはすぐに見つかった。
ルシルが座っている。
「よぉ、ルシル。元気ないじゃないか」
「……コーマ、何しに来たのよ」
俺が声をかけると、ルシルが口を尖らせてそう言った。
他の選手はいないようだ。
まだメイン料理を作っているのか、審査中なのか、他の選手の料理の様子を見ているのかはわからない。
でも、二人きりなのは助かった。
「元気ないだけじゃなく、不機嫌みたいだな」
俺はルシルの横に座り、そう声をかけた。
「…………料理に足りないものが何かわからないのよ」
「俺にもわからないよ。たださ、ルシルが変わったのはわかってる」
「変わった?」
「ルシル、最初はいつも俺のために料理を作ってたからな。もてなすためのパン、疲れた俺のことを思って薬草汁、ハンバーグに至っては料理名に俺のためとか言ってたしな」
俺はルシルの頭を撫で、
「言ってなかった。ありがとうな、俺のために料理を作ってくれて」
「……でも、コーマ食べてくれなかったじゃない。パンしか」
「そりゃ、死にたくないからな」
俺は笑いながら言い、
「だから、死なない料理を作ってくれ。俺のために」
俺はそう言って、一本の薬瓶を渡した。
「……コーマのため?」
「ああ。ルシルの料理が毒じゃなかったら、俺もあの化け物料理を倒すくらいの力は身に付いてると思うんだよな」
「毒って……毒を作ってるつもりはないのよ」
「でも、毒だから仕方ないだろ。で、これだよ」
俺はルシルに渡した薬瓶を指さす。
「解毒ポーションだ」
「解毒ポーション?」
「ああ、最初から解毒剤を仕込んでおけば、どんな毒だろうと無効化できるだろ?」
「……本当に私は毒を作ってるつもりはないのよ」
ルシルはその薬瓶を大事そうに抱え、
「でも、頑張ってみるわ。コーマのためじゃないけどね。とりあえず、今はあの貧乳金髪ハーフエルフをぎゃふんと言わせてやるんだから!」
ルシルは笑顔でそう言った。
あの仮面の少女、ハーフエルフだったのか。まぁ、それはどうでもよく、ルシルが元気になって本当によかった。
これでルシルの料理が毒じゃなくなったら、俺も覚悟を決めないとな。
幸い、胃腸薬は十分な量を用意している。
「頑張ってくれよ、俺の大事な御主人様」
「頑張るわよ、私の仕える魔王様」
ルシルは会場へと向かい、俺は観客席へと向かった。
ジュースを持って帰った俺に、コメットちゃんは笑顔で、「お疲れ様でした」と言ってくれた。それは、絶対にジュースを買ってきたことに対する礼の言葉ではない。
あぁ、さすがコメットちゃんだ。全部お見通しか。
そして、殺人料理大会はいよいよ最終章。
フルコース、最後のドリンク&デザート作りが始まる。
~ルシルが前回作ったスライム~
ポン酢×寒天 (ポンズはコーマがアイテムクリエイトで作成)
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ポン酢ジュレ【食材】 レア:★★
ポン酢を寒天で固めた調味料。
刺身に乗せても、サラダのドレッシングに使っても。
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これなら、まだドレッシングからスライムが作られても……おかしいよね。




