竜の涎とコーマの涙
~前回のあらすじ~
一角鯨のHPが・・・
「……ん………………い」
誰かが何か言っている。
この声、クリスの声か。
「コーマさん…………ださい」
誰がダサイだ。確かに索敵眼鏡や診察眼鏡といった眼鏡のセンスの悪さには定評があるが、あれは俺のセンスじゃねぇ!
文句を言おうと起き上がろうとするが、なんだ、身体が全く動かない。
「コーマさん、起きてください」
その声に、俺はゆっくりと……重いまぶたを開いた。
目を開くと、そこにいたのは髪や服が濡れたクリスがいた。
「……クリス……服がスケスケでやらしいぞ」
最初に思ったのがそれだ。白いブラが透けて見える。
鎧は脱いでいるから、大きな胸が余計に大きく見えた。
「コーマさん、よかった、無事で」
「無事じゃない」
喋るたびに胸が痛む。内臓が傷ついているようだ。
こんな状態でクリスをからかう発言をする俺もさすがだと思うが。
俺は首を動かし、辺りを見回した。
「一角鯨は……」
「はい、コーマさんのおかげで、倒せました! 私達、倒せたんですよ!」
そうか。一角鯨……死んだのか。
強かったな。今度もし会うことがあれば、できれば関わりたくない相手だ。
まぁ、今度会うときのために俺はもっと強くならないといけないが。
ぐっ、痛みがぶり返してきた。
「クリス……バッグ、薬、出して」
「はい!」
俺のアイテムバッグからアルティメットポーションを出してくれ、と頼もうとしたのだが、クリスは自分のアイテムバッグから普通のポーションを出して、俺に飲ませてくれた。
それでも助かる、身体が僅かだが回復していく。
いや、おそらくだが、俺が気を失ったときから最低限の治療はされていたのだろう。ルシルのやつ、最低限だけ治療してから俺の力を再封印して、どこかに転移したのだろう。もしかしたら、転移してから離れた場所で再封印したのかもしれない。
おそらくは、クリス達に俺の評価を上げさせるため。
俺が死にもの狂いで戦ったことを認識させるために最低限しか治療しなかったのか。とは考えすぎか。
「コーマさん、コーマさんがアイランドタートルを治療してここまで連れて来てくれたんですよね。この槍もコーマさんが作ったんですよね」
クリスはそう言って、俺の横に置いてあった巨大な槍を見た。
柄の部分に大きな海蛇が巻き付いた形の巨大な槍。
ポセイドントリアイナ。それと一緒に、巨大な……魔王城ほどの大きさの肉の塊があった。
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鯨肉 レア:★★★
鯨の肉。刺身から唐揚げまで用途は盛りだくさん。
魚肉か獣肉かの議論は永遠に終わらない。
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ははは、こんなん食べたら欧米の人に怒られちまうかもしれないな。食べるけど。
それと、その横に巨大な灰色の石があった。
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一角龍涎香 レア:★×6
灰色の琥珀とも呼ばれる石。一角鯨の胆石。
一角鯨の主食であるシーダイルの一部部位が消化しきれずに結晶化した。
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一角鯨の主食ってシーダイルだったのか。
もしかしたら、この海に住むシーダイルは、一角鯨のために養殖されていたのかもしれないな。
胆石って……消化しきれなかった排泄物の塊か……糞じゃないのは知っているとはいえ、あまり気持ちのいいものではない。
だが、レアアイテムには代わりないから、しっかりもらっておこう。
そんなことを思いながら、俺は自分のアイテムバッグから、アルティメットポーションを取り出し、一口口に運ぼうとし……
「…………っ!」
驚いた。アルティメットポーションを飲んでいたら絶対に吹き出していた。
なぜなら、クリスの後ろに、巨大な亀の頭があり、こちらを見ていた。
アイランドタートルだ。
戦闘中も離れた場所から見ていたが、顔もこんなにでかいのか。
大きさだけなら、一角鯨の比ではないな。
【HP1504384/2000000 MP0/0 甲羅損傷(軽度)】
……ん?
診察結果が表示された。竜化していなくても覚えたスキルは使えるようだ。
甲羅損傷……あぁ、俺の作ったポセイドントリアイナの柄の部分が、一角鯨に押されて甲羅に突き刺さったんだった。
俺は、アルティメットポーションを一口飲むと、アイランドタートルを呼び、口の中に振りかけた。
HPがほぼ回復し、甲羅損傷のバッドステータスが消えた。
呪いの後遺症は全くないようだ。エリクシールを使ったおかげだろう。
そして、俺は自分のスキルを確認した。
【×××レベル10・鑑定レベル10・炎魔法レベル3・雷魔法レベル3・雷炎魔法レベル1・叡智スキルレベル10・雷耐性スキルレベル8・水上歩行レベル6・索敵スキルレベル6・スキル把握スキルレベル5・スキル鑑定スキルレベル1・診察スキルレベル7】
スキルの数増えすぎだ。まだまだ増えるな。
魔王城に終わったら試してみるか。
「コーマさん、どうしたんですか? ニヤニヤして」
「いや、なんでもない。ところで、メアリは無事か?」
「メアリさんなら、あそこにいます」
メアリだけではない。もともと病人だった者で、生き残った者たちが海に向かって手を合わせている。
そうだ、この戦いは決して完勝などではない。
多くの犠牲の上での勝利だった。
フリードをはじめ、戦いに参加したものの半数以上がこの勝利の時間を迎えることができないままこの世を去った。
特にフリードの攻撃がなければ、おそらく俺は一角鯨を絶命させる前にくたばっていただろう。
そもそも、戦う前に逃げ出していたかもしれない。
頭の中で、コメットちゃんやタラのような例を考えてみる。
でも、ルシルがいないと俺には彼らの魂すら見ることができない。
そして、彼らの魂と共鳴する身体を見つけることができない。
人は死んだら生き返らない。
そんな当たり前のことを、前例のせいでどうにかならないかと思ってしまう。
俺のせいで彼らは死んだ。俺の力不足で。
その罪をなかったことにできないかと思ってしまう。
そんなことできるわけない。俺は償わなければならない。
彼らだけではない。本当は、コメットちゃんが死んだことも俺は償わなければならないのだ。
生き返ったからといって罪が無くなるというわけじゃない。
「コーマ、目を覚ましたのかい?」
海を見たまま、メアリが俺に声をかけた。
俺が起きたのに気付いていたらしい。
「ああ、おかげで。気分は最悪だけどな」
「そうか……ありがとうね。助けてくれて」
「いや……俺は何も……」
「あんたがいなければ、ここにいる皆も死んでいた。あんたが動かなければ、アイランドタートルも死んでいた。あんたがいなくても、父さんは……ここにいる皆は死んでいた」
彼女は言った。「あんたがいなければ、私は何も知らないまま、誤解したまま父さんを失ってた」と。
だから、ありがとうと。
辛いはずなのに、父を、旧友を失ってつらいはずなのに、メアリ達は俺に笑顔を向け、「ありがとう」と言った。
それがどれだけ俺の心を抉り、そして俺の心を癒したのか。
俺はその「ありがとう」に何も答えられない。
ただただ、涙が溢れてきた。
恥ずかしいな……くそっ。
だから、ごまかすようにこう言った。
「……南の島に勝利の報告に行こう。みんな、きっと心配して――」
南の島の方角を向き、俺はそれに気付いた。
索敵スキルを身に付けたことで感じ取ってしまった。
……ウソだろ……おい。
そうだ、気を付けるべきだった。
一角鯨にばかり気を取られていたが、この戦場に向かっていたのは一角鯨だけではなかった。
シーダイル。
白い鰐が全てここに向かっていたはずだった。
そのうち、最初にここに来たシーダイルは一角鯨に食われたが……残りのシーダイルにまで目がいかなかった。
「やばい、シーダイルの群れが……南の島に向かっている。その数、1000を余裕で超える」
海の中で戦いが始まり、獣の本能で海の中にいたらいけないと、彼らに告げたのか。
生きているアイランドタートルに近付くことのできないシーダイルが唯一近づける陸地。
つまり、南の島に、全てのシーダイルが集結しつつあった。
タラとコメットちゃんが護衛として守っているとはいえ、二人でさばける数じゃない。
「そうだ、マユさんは!?」
マユなら配下の魔物に命じて戦わせることができる。
そう思ったが――
「マユ姉さん、どこか行っちまったんだ……」
どこか? 戦いにいったのか?
それとも……
「メアリ! ボートを出してくれ! 南の島に急ぐぞ!」
泣いている場合じゃない。
俺にはまだまだやるべきことがある。
~龍涎香~
マッコウクジラが主食にするイカやタコの嘴が結石となり排泄されるものです。
その香りはとてもいい匂いであり、竜の涎のような香りだと言われています。
名前の通り、お香として使われるのですが、価値は金の10倍。
英国の子供が海岸でたまたま拾って持って帰ったらうん百万円の価値になったとかニュースになりました。
大阪で21日に放送された探偵ナ○トスクープにて龍涎香が出てきていました。偶然ってあるんだなー。
龍涎香は、三崎龍牙様のアイデアを参考にさせてもらいました。
ありがとうございます。




