最初からそこにある最後の武器
~前回のあらすじ~
コーマ降臨! クリスも頑張った。
空気の抵抗を感じながら、俺は一角鯨の背中へと落下していった。
そのまま、剣の切っ先を一角鯨に向ける。
落下速度もあり、竜殺しの剣グラムが深く一角鯨へと刺さった――刹那、強大な雷があたりにまき散らされた。
いまのでどのくらいのダメージを与えたのか、診察眼鏡を使用していない俺にはわからないが、それでも致命傷には至っていないだろう。
このままここで剣を振るい続けるか、そう思った時だ。
「あの……」
声をかけられた。クリスだ。無事だったのか。
だが、こんなところにいられたら、攻撃の邪魔になるし、一角鯨に暴れられ、海面に振り落されたらクリスも無事で済むかどうかわからない。
とすれば、急所を狙わなければいけないな。
俺は嘆息を漏らし、一角鯨の頭部を目指した。
脳に一発どでかい雷をくらわせてやる。
そして――あの手で――
《殺せ、殺せ、壊せ、今すぐ殺せ、殺せ、潰せ――》
脳内にまだ殺戮への誘いがコダマする。
今すぐこの場で一角鯨を攻撃せよというメッセージが。
だが、俺はそれを無視し、前へと進んだ。
一角鯨の頭に到着したその時、一角鯨が上体を持ち上げた。
グラムを突き立てて、耐えようとしたのだが――それが失敗だった。
グラムの切れ味が良すぎて、一角鯨の身体を大きく切り裂きながら俺は海面へと落ちて行った。
(やばっ!!)
一角鯨は身体の向きを変え――あろうことか俺が落ちた海面にその大きな灰色の腹を向けた。
そして――俺を押しつぶしにかかった。
(がぼっ)
身体から空気が一気に抜ける。
どれだけ深く押し込められたのかわからない。
やば、このままだと窒息してしまう。
そう思った時だった――
「コーマ様!」
声が聞こえた。
思念ではない、声が聞こえた。
マユの声が。
海の中、俺はものすごい勢いでこちらに向かってくるマユを見た。
そうか――
何故、マユが魚の魔王なのか?
そう思ったこともあった。だが、そうだったのか。
俺はマユの下半身に目を向けた。
スカートをはいているマユには――足が生えていなかった。
下半身が――ピンク色の魚のものだった。
マユ……人魚だったのか。
マユは俺の身体を抱きかかえると、凄い勢いで海面へと向かった。
潜水病にならないか? とか思っている暇も与えない速度だ。
「がほっ……助かった」
水を吐きだし、俺は礼を言った。
だが、礼を言うのははやかったかもしれない。
海面に浮かんだ俺達の場所は、一角鯨のすぐ目の前だったから。
一角鯨は大きく口をあけ、俺を飲み込もうと前へ泳ぎ出した。
やば、食われ――
(大丈夫です)
マユの思念に、俺は気付いた。
間に合った。
一角鯨の尻尾を――それが噛みついていた。
(ええ、来てくれました。彼女が――)
彼女――この戦いの中のキーキャラクターでありながら、いままで戦闘に参加しなかった戦力が。
ルシルに頼んでエリクシールによる治療をしてもらい、体力全快で彼女は参加し、一角鯨の尻尾に噛みついていた。
島から伸びた巨大な首が、一角鯨の尻尾に噛みついていた。
一角鯨もまたアイランドタートルを見て、怒りの咆哮を上げ、再び巨体を持ち上げる。
鯨の尾を意地でも離すまいとしたアイランドタートルはその顔を水中へと引きずり込まれた。
そして、尻尾を噛まれたままにもかかわらず、一角鯨はその長い角をアイランドタートルへと叩きつけた。
何かが砕け散る音が35階層に響いた。
ルシルとクリスは大丈夫だろうか。
そう思ったら、クリスが宙を舞っているのを見つけた。
先ほどの勢いのせいで吹き飛ばされ、遠くに着水した。
《壊せ殺せ潰せ殺せ殺せ殺せ殺せ――》
マユにクリスを任せ、俺は念じる。
《殺せ殺せ殺せ――違うだろ! 殺せ 違うっていってんだろ! 潰せ! 俺はアイテムマスターだっていってんだろ!》
俺は壊すんじゃない! 俺はただ、作るだけだ!
俺は水蜘蛛改を使い、大きく跳んだ。
【破壊衝動制御率が100%まで上昇しました】
叡智の指輪からシステムメッセージが流れる。
俺は一角鯨の背に乗り、駆けていく。
【破壊衝動制御を完全に行ったことにより、一時的にスキル吸収スキルを覚えました】
スキル吸収スキル? もしかして、よくある他人のスキルを奪うアイテムか?
そう思ったのだが――
【叡智の指輪のスキルを吸収しますか?】
背中を駆けながら、俺は思った。まさか、装備アイテムのスキルを吸収するアイテムか?
そんなことを思いながら、俺はYESを選択。
【叡智スキルレベル10を覚えました】
【魔力が50上昇しました。MPが100上昇しました】
まじか。スキルを覚えたのか。そんなことを思いながら、俺はさらに走る。
【通信イヤリングのスキルを吸収しますか?】
NOだ! 通信イヤリングは2つで1組、吸収したら何があるかわからない。
途中で、クリスが突き刺したプラチナソードを見つけた。
あいつ、頑張ったな。
【雷の護符のスキルを吸収しますか?】
YESだ!
【雷耐性スキルレベル8を覚えました】
【魔法抵抗が160上昇しました】
【水蜘蛛改のスキルを吸収しますか?】
YESだ!
【水上歩行レベル6を覚えました】
【脚部筋力が90上昇しました】
【アイテムバッグ改のスキルを吸収しますか?】
NOだ! 何があるかわからないから、今はダメだ。
そこで、システムメッセージは途切れる。
俺は今度はアイテムバッグから眼鏡を3つ取り出した。
【索敵眼鏡のスキルを吸収しますか?】
YESだ!
【索敵スキルレベル6を覚えました】
【反応速度が120上昇しました】
【スキル眼鏡のスキルを吸収しますか?】
YESだ!
【スキル把握スキルレベル5を覚えました】
【反応速度が100上昇しました】
【スキル把握と鑑定を覚えたことでスキル鑑定スキルを覚えました】
【反応速度が10上昇しました】
【診察メガネのスキルを吸収しますか?】
YESだ!
【診察スキルレベル7を覚えました】
【反応速度が140上昇しました】
その時、俺の目の前に、それが浮かび上がった。
【HP7777777/40230000 MP0/0】
おぉ、7並びじゃないか! 偶然にしては偶然すぎる。
こりゃ運が向いて来たぜ!
俺が大きく跳びあがると、かなり面白い光景がそこにあった。
一角鯨の角を――巨大な氷が受け止めていたのだ。
氷の大半は砕け散っているが、それでもアイランドタートルを守り、しかも角が抜けないようだ。
その氷の正体はすぐにわかった。
なぜなら、氷の真横にルシルが立っていた。
(相変わらず、お前の氷魔法は素敵過ぎるぜ!)
かつて本物の魔王城を氷の城へと変えた極大魔法を思い出しながら、俺は跳んだ。
一角鯨の角へと。
剣を振り下ろし、一角鯨の角の根元を一刀両断した。
角を失い、一角鯨の悲鳴に似た咆哮が俺の鼓膜を痺れさせる。
でも、ここで止まってはいられない。
俺は海面へと着水し、再び大きく跳んだ。
最初からそこにあった、最後の武器を握るため。
……………………………………………………
一角鯨の巨大牙 レア:★×7
一角鯨が一本だけ生やす巨大な牙。
長ければ長いほど力のある一角鯨と呼ばれる。
……………………………………………………
おい、角じゃなくて牙なのかよ!
名前に偽りありじゃないか!
そんなツッコミを入れながら、その一角鯨の巨大牙の折れた部分に手をかけ、脳内のレシピから、それを見つける。
「アイテムクリエイト!」
そう叫んだ刹那、その角は三つに分裂し、三又の巨大な槍へと姿を変えた。
……………………………………………………
ポセイドントリアイナ レア:★×9
海の神ポセイドンが使った三又の槍。
その大きさのため、使える人間は少ない。
……………………………………………………
そして、俺はその槍に向かって
「雷剣!」
雷を帯びさせて、一角鯨の眉間へと突き刺した。
このまま逝け!
【HP4819421/40230000 MP0/0】
角を折られたことでHPが200万以上減っていた。
【HP2478425/40230000 MP0/0】
最後のあがきにと一角鯨がその身体を大きく振るわせる。
先ほど海に落ちたときのダメージが残っているため、そのまま意識を失いそうになっていたんだ。
ちょうどいい気付けになる。
【HP1242631/40230000 MP0/0】
【HP924895/40230000 MP0/0】
よし、100万を切った。
もう少しだ。一角鯨も生きようと己の頭をアイランドタートルへとぶつけようとした。
【HP548240/40230000 MP0/0】
【HP237319/40230000 MP0/0】
「コーマ!」
ルシルが俺の名前を呼んだ。
アイランドタートルと一角鯨に挟まれた。
ポセイドントリアイナが深く一角鯨へと突き刺さり、柄の部分がアイランドタートルの甲羅の中にめり込んでいく。
わずかな隙間のため、俺は助かっているが、圧迫されているのには変わりない。
内臓が潰されていく。竜化により体が強化されていなかったら間違いなく死んでいた。
【HP97413/40230000 MP0/0】
もう少し。ここで、クリスが僅かに与えていたダメージがとてもありがたいものだと感じられる。
【HP6913/40230000 MP0/0】
もう少し。
【HP2319/40230000 MP0/0】
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頼む……倒せていてくれ。
第四章に関するアンケートを25日まで行っています。
予想以上に多くの回答をいただいておりまして、とても感謝しています。




