バタフライ効果
「わ、わたくしとしたことが魔王陛下になんて失礼なことを――どうかこの首でお許し下されば――」
「首でって、メディーナ、既に首が切れてるじゃない」
とりあえずメディーナが五月蠅いのでこのままにしておけないため、ルシルの正体を暴露したところ、ここまで下手に出てきた。
いや、未来でも下っ端気質はあったが、ここまでじゃなかったと思うんだけど。
ちなみにだが、
「仕方ないわよ。この頃はメディーナは魔力はいまいちだったし、雑用係としてしか使っていなかったから」
「そうなのか……にしても、どうしたものか。メディーナに俺たちの正体が知られちまうなんて」
「いいんじゃない? メディーナくらいなら」
「と言ってもな。バタフライ効果くらい、ルシルも知ってるだろ?」
と俺が尋ねると、ルシルは少し考え、
「バタフライって実際に使う必要があるのかわからない――ってこと?」
と尋ねた。
ちげぇよ。こいつ、どこまで知識が偏ってるんだよ。
「蝶が羽ばたくだけで、その風が遠くでは竜巻を巻き起こすかもしれないってことだよ。大体、時間旅行の話ではこういう些細な過去の変化が未来に大きな変化を引き起こすかもしれないって話だ」
「んー、でも、大丈夫じゃない? もしも過去に私たちが来たことで未来が大変なことになっちゃうのなら、私たちがこの時代に来ることもできないんだし」
「お前、タイムパラドックス論を永遠に語るつもりか……記憶を消す薬ってあったかな?」
「あぁ、それなら最後に魔法でメディーナの記憶を差し替えておくわよ」
「それって、大丈夫なのか?」
「ええ、自分で実証してるから大丈夫よ」
ルシルは自信満々に言った。
そう言えば、こいつは記憶を操作する魔法によって、自分のことをルシファーの娘だと思い込んでいたんだよな。自分がルシファーであることなどすっかり忘れて。
ルシルも今ではルシファーの力を時間制限はあるもののかなり使う事ができるようになってきた。
ならば大丈夫だろう。
「あ、あの、それでは私は――」
「そうね。とりあえず私たちが未来に戻ったら自動的に私たちのことを忘れてしまう魔法をかけておくから、今日一日は一緒に行動しなさい」
「今すぐ放り投げていけばいいんじゃないか?」
生首のメディーナを持っていくのってデメリットしかない気がするんだが。
「それでもいいんだけど、過去の私ならメディーナから私たちの存在を嗅ぎ取って襲い掛かってくるかもしれないでしょ? ならばいっそのことこのまま連れ去ったほうがいいと思うの」
「過去のお前って怖いなっ!?」
それなら仕方ないか。
俺も全力のルシファーと戦うのはふたつの意味で怖い。
負けないとは思うが、ルシファーに一生モノの傷を残してしまえば、それは未来のルシルの傷になっちまう。まぁ、そんな傷、エリクシールを使えば一瞬で治るんだけど、自分で自分が許せない。
ということで、仕方なくメディーナを持ったまま十階層に上った。
「…………ん?」
いつも通り、梯子の上には宝箱があり、その底をずらしたのだが、何か違った。
そう、宝箱の中に何か入っていたのだ。
いつもは空っぽだったのに。
「……銀貨?」
そう、宝箱の中には銀貨が大量に入っていた。千枚はあるんじゃないかっ!?
そうか、最初から空っぽじゃなかったのか。
銀貨の絵柄は今と一緒か
「ちょうどいいわね、コーマ。持っていきましょ」
「いや、ダメだろ。バタフライ効果バタフライ効果。それに、金には困ってないだろ」
「でも、コーマ。流石にコーマのお金を使うのってこの時代の人に申し訳ないんじゃない?」
「え?」
「だって、一日経過したら未来から持ってきた道具もお金も全部未来に戻っちゃうんでしょ? それって、結構まずくない?」
「あぁ、それなら問題ないぞ。そのあたりは結構曖昧でな。人や生物を対象として過去に戻った場合、この場合は俺とルシルを対象として過去に戻った場合、所有権を放棄した物は過去に残るんだよ。だから、こいつに魔力の神薬を飲ませても、上昇した魔力は残るぞ」
と俺はアイテムバッグから魔力の神薬を取り出してみせる。
「魔力の神薬っ!? なんでそんな伝説の薬を持ってるんですかっ!?」
メディーナがぎゃーぎゃー騒ぐが、うるさいので魔力の神薬の蓋を開けて無理やり口の中に飲み口を差し込んで黙らせる。
そう言えば、こいつは生首なのにどうやって飲み物を飲んでいるんだ? と思うが、一瞬で薬を飲み切った。
「コーマ。魔力の神薬飲ませてよかったの?」
「大丈夫だよ。考えてみれば、メディーナってもうすぐルシファーに封印されるんだし、影響もほとんどないだろ」
「あぁ、そういえばそうだったわよね」
「え!? 私ってもうすぐ封印されるんですかっ!?」
メディーナが騒いでいる。教える理由もなかったんだが、どうせ記憶を消すのでどうでもいい。
ということで、とりあえず銀貨は全部宝箱の中に入れたまま、俺たちは地上に向かった。
「ねぇ、コーマ。地上に行かなくても、ここでじっとしていたら――って、コーマがじっとしているわけないよね」
ルシルがため息をついた。
当たり前だ。
俺は最初に言ったはずだ。
時の揺り籠を作った時、俺は神の領域に足を踏み入れたと。
「ルシル、お前にはわからないだろうな。コレクターにとってタイムマシンってのは至高のアイテムなんだよ。過去の期間限定商品、生産中止商品、初期生産版。どれを手に入れるにもタイムマシンがあれば楽になるんだ」
つまり、この時代ならば、未来の世界で手に入らなかったアイテムがこの時代ならば手に入るってわけだ。
「ルシル、久しぶりにやってきたぜ。これからはコレクターの時間、つまりは俺の時代だっ!」
と俺は高らかに笑って宣言したっ!
「……ねぇ、コーマ。過去のアイテム買いまくるのって、バタフライ効果とか――」
「いや、考えてみれば一羽の蝶が竜巻なんて起こせるわけないからな」
よし、これから買い物タイムだっ!




