父娘の再会
「……お父さん、なんですよね?」
私の問いかけに、お父さんは何も言いません。
そのまま立ち去ろうとするお父さんに、私は叫びました。
「勇者たるもの、辛い事があっても逃げてはいけない」
その言葉に、お父さんは足を止めました。
「覚えていたのか。それを教えたのは、クリスがまだ五歳のころだったはずなのだが」
「お父さんは私の理想ですから、忘れるはずがありません」
「……理想……か」
感慨深げに呟きます。
「……理想……なのですか……?(あれが?)」
リーリエちゃんが眉間に皺を作って尋ねました。
「クリス、話はジューンから聞いているよ。勇者になったそうだな」
と、お父さんは顔を隠していた服とズボンを取り、それを着て言いました。
その顔は私の思い出の中のお父さんと全く変わっていません。あと、パンツの趣味も全く変わっていません。一体、あの真っ赤なパンツはどこで売っているのでしょうか。
そして、お父さんの胸に輝くブローチを見ます。
「お父さん……生きていたんですか?」
「いや、クリス。私は既に死んでいる。今は魂の状態――しかも断片として残っているだけだ」
「そうなんですか……」
そうですよね。期待をしていなかったと言えば嘘になりますけど、その覚悟はできていました。
「私の友達なんですけど、死んでから魂の杯という道具を使ってコボルトと融合して、第二の人生を歩んでいる女の子がいます。お父さんも同じように――」
「クリス、たしかにそれは生き返ったともいえる。だが、それは同時に私が私でなくなることでもあるんだ。その女の子は、その女の子のまま生き返ったというわけではないのだろう?」
「それは……」
その通りです。コメットちゃんはグーと呼ばれるコボルトと一緒になり、彼女はコメットちゃんでもありながら、コボルトのグーでもあるようになりました。それと同時に、コメットちゃんでもグーでもない存在になったそうなのです。
「クリス、私は幸せだよ。死んでもこうして成長したクリスに会えたのだから……本当に大きくなったね」
「お父さん、友達が見ているから」
「おっと、そうだったね。リーリエ女王陛下ですね。娘が世話になっているようで……」
「いえいえ、女王陛下なんておやめください。私もお父様の義娘になるんですから」
とリーリエちゃんは三つ指を突いて挨拶をした。
「……はい?」
「お父さん。リーリエちゃんのことは気にしないで大丈夫だから」
説明しても納得してもらえないと思いますし、説明したらさらに厄介なことになりそうですからね。
「あぁ、そういえば、コーマさんがお父さんに謝って欲しいって言っていましたけど」
「ん……いや、それはいい。確かにこんな姿になった私をクリスに見せまいと思っていたようだが、クリスの言う通りそれは逃げだった。コーマくんには感謝しないといけないようだね。クリス、コーマくんから私に関して何か聞いているかね? 私がどうして死んだのか」
「いいえ、何も聞いていません」
「そうか。クリスに全て話そう。クリス――真の神子の役目を」
「……私の……役目?」
「そうだ……私はその役目を担う真の神子を探すために世界中を旅した。そして、その真の神子がクリスだと知った時、私はクリスにその役目を担わせまいと、ルシファーの迷宮の魔竜の姿をした化け物と戦った。それが神の力だ。もっとも、あのギルドマスターとグン爺だけはそれをルシファーだと思っていたようだがね」
「お父さん、教えてください! 私の役目っていったいなんなんですか!?」
「……ついてきなさい。ジューンが置いていったお茶がある。それを飲みながら話そう。リーリエ女王陛下もどうぞこちらへ。何もないところですが」
と言うと、お父さんは真っ直ぐ歩いていきました。




