呪いの贄を捧げる水の魔王
~前回のあらすじ~
新たな魔王さんと出会った。
島が沈む。その原因は一角鯨にある?
待て、全くわからない。
まず、第一に一角鯨はマユの配下の魔物じゃないのか?
(違います。一角鯨は突如現れました。おそらく、他の魔王の配下の魔物です。私の配下の魔物は全員魚の魔物ですから)
マユの思念が伝わる。
そうか。だからワニに追われていたのか。鯨が魚ではなく哺乳類だというのは今更確認する必要はない。
そういうことなら、アイランドタートルもマユの配下の魔物じゃないのか。
(ええ。ですが、アイランドタートルは私とは友達です)
再度マユから思念が伝わってきた。
友達か……でも、島の呪いはアイランドタートルのせいなんだよな。
ということは、呪いはマユの命令で撒かれていたのか?
(はい、その通りです。彼女は、私の頼みを聞いて、己の身を犠牲にして呪いを撒いていました)
彼女……北のアイランドタートルは雌だったのか。
って、そんなことはどうでもいい。なんでそんなことをしたんだ?
フリードって奴に監禁されていたのなら、フリードに無理やりさせられたのか?
(この島の人を守るためです)
守るため? どういうことだ?
やっていることは――
「なぁ、二人とも、いつまで語り合ってるんだい?」
マユはメアリに視線を向けた。
そして、おそらく二人は何かを話しているのだろう。
「本当かい? コーマ、みんなを治す方法があるのかい?」
あぁ、そういえば、俺がマユに言ったんだった。
呪いをなんとかできるって。
「え、ええ。俺の仲間が今、薬を作っています。それを使えば治る可能性が」
「薬は何本あるんだい?」
「今は15本くらいはあると思う」
「あたい達に譲ってくれないか! 礼は必ずする! なんなら身体で払ってもいいよ」
「魅力的な提案だが、礼はまたの機会にとっておくよ。薬はこっちだ」
「貸しは早く返したいんだよね。うちの家訓らしいからさ」
海賊なのに律儀な家訓だな。どこかの女勇者にも見習わせたいよ。
その彼女も、今頃は北の島で薬を配り歩いている頃だろう。
「まだ効くと決まったわけじゃないからな」
錬金術師になって数日のクルトが作った薬だ。
最高品質ではない。
解呪ポーションの説明にも、「ただし、強い呪いは解くことができない」と注意書きがあった。
即死の呪いなどではないうえ、完全に動けなくなるまで時間のかかるものなので、それほど強いものではないだろう。
とりあえず、マユとメアリを海の家へと案内した。
……あれ? そういえばタラがいない。
さっきまでいたはずなのに、あいつ、どこにいったんだ?
まぁ、タラなら一人でも大丈夫だろう。
これがルシルなら心配で心配で仕方ない。
どこかで料理をしてるんじゃないかと思ってしまう。
暫く歩き、海の家に着くと、すでにクルトは調合を再開していた。
コメットちゃんは桶に一度煮沸させた海水を入れて食器を洗っている。あとで真水で洗い流すと言っていた。
蒸留水を作ってあげたいが、クルトの前ではあまりアイテムクリエイトは使いたくない。
コメットちゃんも別に辛そうではない、というか家事をしているときは尻尾が揺れて楽しそうなので助かっている。
「コメットちゃん、ルシルは?」
「ルシル様でしたら、タタミが恋しいと戻られました」
「そっか……あ、メアリは前に紹介したっけ? こっちの白い髪の人はマユさん」
「初めまして、コメットと申します」
コメットちゃんはマユさんに挨拶をした後、
「え? この声」
あ、マユさんはコメットちゃんに話しかけているようだ。
そして、みるみるうちにコメットちゃんの顔が赤くなる。
一体何を話しているのだろうか?
「コメットちゃんどうしたんだ?」
「い、いえ、何でもないんです! コーマ様には関係の……関係のないことです!」
ここできっぱり関係ないと言われると少しショックだが。
まぁ、プライバシーに関することだろうからな。深くは追及しないでおこう。
「メアリ、紹介する。こいつがクルトだ」
「え? あ、あの」
俺はクルトに近付き、耳元で囁くように命令した。
(俺が作り方を教えたことは誰にも言うな。命令だ)
そういうと、クルトは「どうして?」という目で俺を見てきた。
まぁ、最近悪目立ちしすぎたからな。人身御供的なものになってもらいたい。
「それが作りかけの薬かい?」
「え、いえ、今完成しました。17本目です」
クルトは解呪ポーションの入った薬瓶を木箱に入れた。
「これが薬かい?」
「ああ。さっそく使ってみようか」
俺は木箱を持ち上げて、メアリに渡した。
それほど重くはないので女一人でも十分に持てるだろう。
「あと、店で売ってた普通のポーションだ。10本入れてあるから体力のない人に飲ませてくれ」
俺はそういって、アイテムバッグから取り出した木箱の中に普通のポーションを詰めていき、クルトに渡した。
「あの、ご主人様、この薬、何に使うんでしょうか?」
クルトが恐る恐る俺に尋ねた。
それに、俺はニッと笑って答えた。
「この薬はこの島を救うんだよ」
でも、救う前に沈むかもしれないんだけどな。
それは言わない。
なぜなら、俺が島を沈ませない。
そのためには……まずは情報だ。
去り行く二人を見送りながら、俺はマユに向かって念じた。
俺もこの島を救いたい。マユ、まずは全部話してくれ! 島の領主はいったい何をしようとしている!?
(……フリードくんは……食べさせようとしているのよ)
食べさせる?
誰に? 何を?
(アイランドタートルを一角鯨に食べさせるのです。アイランドタートルの身体は呪いの反動で、呪詛そのものになっている。
その肉を一角鯨が食べたら、一角鯨そのものも無事では済まない)
…………は?
そんなことになったらアイランドタートルはどうなる?
いや、アイランドタートルだけじゃない。北の島に住む人はどうなる?
早く全員南の島に避難させないといけない。
すぐにクリスに連絡を取らないと。
(すでに避難は開始しているわ。呪いの発生源が北の島にあると気付いた多くの人は南のこの島に避難している)
でも――とマユは続けた。
(北の島の住人全員を受け入れるほどの余裕は南の島にはない。資源が足りないの。そのために、フリードくんは領民を呪いで選別することにしたの)
ふざけるな! 人の命をなんだと思っている!
そんな思いが俺の中に溢れた。
だが、事実はどうなんだ?
フリードが全てを打ち明け、全員で最初から南の島に避難したらどうなる?
食糧難が起きるのは、マユに言わせたら明白だそうだ。
魔物が出ない北の島のほうが、農業、漁業を含めた産業が多く発展してきた。
その島が無くなるのだから、少なくとも数年は大飢饉が起きる。
多くの人が餓死することになる。
それを防ぐためにフリードは……いや、しかし。
くそっ、クリスじゃないが、こんな時は下手に考えてもだめだ。
マユ、教えてくれ。一角鯨はいつ現れる!?
(三日後。そう彼女……アイランドタートルは告げたわ)
俺にその一角鯨を倒すチャンスをくれ。
アイテムマスターの名にかけて、いろいろ作戦を用意してやるよ!
何、安心しな。こっちは魔王に魔王の娘、ついでに天然勇者がいるんだからな。




