クリスの変身
転移石でルシル迷宮への移動はできないが、ルシル迷宮から繋がっている遺跡の奥に転移することはできた。
「ここがその遺跡か。本当に迷宮そっくりだな。でも――」
魔物の気配が全くない。いや、魔物だけではない。生きている者の気配がない。
それもまたそっくりだ。
俺たちの迷宮も、最初はそんな感じだったんだよな。
だだっ広い迷宮の中、たったふたりと二匹で頑張ってきたっけな。
それから、ゴブリンとミノタウロスを召喚して、そして次に仲間になったのが、マユだった。
「マユのことはたまに忘れることはあっても、いなくなっていいだなんて思ったことは一度もない」
「いいことを言いたいということはわかりますけど、忘れないであげてくださいね」
「いいんだよ。マユは忘れられてようやくキャラ立ちができるんだから」
俺は笑いながら通路を歩いて行き――思わず穴に落ちそうになった。
穴の底は針山地獄だった。
「なんじゃこりゃ!」
「あ、忘れてました。そこ、穴があるので危ないですよ」
「見ればわかる。どうするんだよ、これ。クリスの多段ジャンプで登っていくのは――あぁ、そうだ」
俺は万能粘土をアイテムバッグから取り出し、それを壁に貼り付ける。
「こんなこともあろうかと、大量に作っておいてよかったぜ」
そうして、階段を作っていった。
「コーマさん、ここに階段を作るのはいいですけど、そんなことをしたら迷宮に侵入者を招くことになるのでは?」
「大丈夫だろ。ほら、下を見てみろよ。針はあっても遺体はないだろ? 誰もここに気付いていない証拠だよ。まぁ、今後はこの遺跡にもセンサーを設置して、侵入者がいたら知らせが入るようにしておくからよ」
「……そうですね」
こうして、俺は階段を作りながら登っていく。
万能粘土は、本当に俺の想像した通りの姿へと変わってくれる。
そして、階段を上がる間も、俺は索敵スキルをビンビンに働かせる。
戦闘準備が整っていない状態で、あいつと戦うことはできない。
力の妙薬を飲んだうえでの竜化第二段階。
武器は――属性武器である草薙の剣も捨てがたいが、やっぱり一番手に馴染んでいるエクスカリバーか。そして、戦いに応じてエントキラーに持ち変える。
魔法や杖による攻撃は、牽制程度にしかならないだろう。
使えるとしたら、エレキボムか。でも、あれは使いすぎてもう1個しか残っていない。
あの電気鯰の髭が生えるまでもう少し時間がかかるそうだからな。
階段を登りきると、部屋に出た。
「コーマさん、それでこの先なんですが――扉が閉まっていて開かないんですよ。いくら叩いても壊せないんですよ」
「クリスが叩いても壊せないのなら、ただの扉じゃないな」
鑑定しても結果はでない。
となれば、素材が特殊なのではないだろうか。
「迷宮と同じ感じか――それに――」
と、俺はその気配を感じ取る。
この扉の奥に奴がいる。
俺はアイテムバッグから、力の妙薬を飲む。相変わらず不味いが、ルシル料理に比べたら五つ星をあげてもいいくらいだ。
「クリス。お前は帰っていろ。ベリアルの影との戦いとなると、お前を守っている余裕はない」
「確かに、今の私では彼と戦えませんね」
クリスは大人しく引き下がる。かと思ったが、
「コーマさん、ちょっと失礼しますね」
そう言うと、俺のアイテムバッグを漁り、それを取り出した。
「……炎の宝玉?」
俺がそう思うや否や、炎の宝玉から、サランが飛び出て来た。
『ふぅ、やっと出られた。カガミったら、クリスがいなければ全く僕を出してくれないんだから』
「待て、クリス。お前、もしかして炎の宝玉を勝手に持ち出してるのか?」
「はい。コーマさんが寝ている間に、ルシルちゃんに頼んで――」
ルシルもグルだったのか。
きっと、お菓子にでも釣られたのだろう。
『ちなみに、カガミ。一応、アイテムバッグの中にいても僕の意識はあるんだし、声も聞こえてくるんだよ。カガミが魔王だってことも魔王軍のことも、現状も全部把握してるから、竜化だっけ? 気にせずにやっていいよ』
「え? アイテムバッグの中って時間が止まってるんじゃないのか?」
『それを言ったら宝玉の中でも時間は止まっているけどね。詳しいことは僕にもわからないよ』
そういうと、サランはゆっくりと動いていき、クリスの胸の中に吸い込まれていく。
と同時に、クリスの力が大きく増した。
髪が炎のように赤く染まる。
「では、コーマさん、いきましょうか。ちなみに、この状態を保つのは一時間が限度ですが、自分の身は自分で守れます」
「そうか――じゃあ行くぞ」
俺は通信イヤリングを使い、ルシルに合図を送った。
すると、俺の中の破壊衝動が膨れ上がり、竜化が始まる。
鱗が生え、翼が生え、そして力が体の底から湧き上がる。
「じゃあ、行くぞ、クリス」
「はい、コーマさん」
そして、俺は拳を握りしめ、力の限り突きつけた。
すると、扉に罅が入り、そして粉々に砕け散る。
その扉の先に見たのは――
「よぉ、コーマ。面白い成長をしてるじゃないか」
「ベリアルの影――いや、最強の魔王ベリアル。八カ月ぶりの再戦といこうじゃないか」




