食糧難と芋畑
~前回のあらすじ~
勝者:鶏 敗者:将軍
砦内は歓喜に満ちていると思われたが、そうではなかった。
「申し訳ございません、神子様」
頭を下げるザッカ。戦死者1名、重傷者の数はもう数えていない。それは多すぎるから――ということではなく全て俺が治療したから。それに比べ、敵の死者は37名、重傷者は300名を超え(うち8割はフライドチキンを食べたことによる謎の腹痛)、そして、重傷者を含め800名以上を捕虜として捕縛した。残りの敵は逃げのびたが、本当に大勝利と言えるだろう。
だが、その800という数が問題だった。
足りないのだ、食糧が。
ニコライ率いる第三部隊。彼らが持っていたはずの食糧はサクヤ達が攻撃を開始したと同時に食糧庫ごと謎の炎上に見舞われて焼失した。しかも、3ヶ所に分けていたはずの食糧庫全てが、だ。
当然、サクヤやザッカ達が燃やしたわけではない。燃やしたのはニコライの部下だ。
俺達に食糧を渡さないため、万が一の時は食糧庫を燃やすように命令を受けていたらしく、それはニコライも知らないことだったそうだ。
「妙だな、敵は最初から、私達がザッカ隊と合流することを知っていて行動している。それなら、砦を早々に攻め滅ぼせばよいはずなのに」とサクヤは言ったが、その理由はわからない。
元々砦の中の300人でさえ食糧はギリギリだったにもかかわらず、それにシルフィア率いる100人が加わり、さらに捕虜が800人。にもかかわらず敵から手に入る目論見だった食糧は消え失せた。
そのため、砦の中から湧きあがるのは捕虜の処刑案だった。
捕虜に食べさせる食糧などあるはずがない。だがこのまま放置しておけば、空腹のあまりに怒り狂った彼らが何をするかわからない。それならば、もう今すぐに殺すべきだという意見だ。
それは仕方がないだろう。とは、俺は言えない。
日本という甘っちょろい世界で生きてきたから、敵にも味方にも死んでほしくはないと思っている。
だからこそ、フライドチキンを食べて生死を彷徨っている敵にも解毒ポーションを与えて治療した。何故かアイテムバッグの中には解毒ポーションが大量にあった。俺が大量に毒物を食べることでも想定していたのだろうか?
アイテムバッグから食糧を出すにしても、無限にあるわけじゃない。
「コーマ殿、見回りですか?」
目の前にいたのは、片目を眼帯で覆った白髪交じりの男だった。60歳くらいのようだが、その隆々とした筋肉は凄い。異世界チートを貰う前だと絶対に腕相撲はしたくない相手だ。
「……はい。ザッカ将軍も見回りですか?」
「ええ。ワシが見回りをしないと、食糧庫からつまみ食いをする兵がでかねませんゆえ」
あぁ、ここは食糧庫だったのか。
「それにしても、コーマ殿、お見事でした。単騎で敵軍に突撃し、敵将軍を倒した。その姿はまさに神話に出てくる闘鬼そのものです」
鬼って……そこは闘神とか言ってほしいもんだが。
まぁ、俺は鶏から逃げていただけで、敵軍に突っ込んだとか、将軍を倒したとか、そんな自覚は全くないんだけど。
最後は、アイテムバッグから見つけた、轟雷の杖というアイテムで雷を呼び出してすべての鶏を撃破し、そのころにはすでに戦いは終わっていた。
「食糧はそんなにやばい――少ないのですか?」
「……ご覧ください」
ザッカが食糧庫の扉を開けた。
そこには、恐らく食糧が入っているだろう麻袋が部屋の隅に摘まれていた。
反対側の隅には芋が数十個転がっている
一人で食べるには食べきれないくらいの量だが、これが400人、ましてや1200人分となれば確かにこの量は心もとないだろう。戦争はいつまで続くのかもわからないのに。
「畑も敵兵に荒らされてしまい――なんとも」
「畑があるんですか? 見せてもらってもいいでしょうか?」
「ええ、御案内しましょう」
「お偉いさん自ら案内してくれなくても」と言ったところ、「年寄りの話に付き合ってください」と自虐的に言われたので、俺はお言葉に甘えることにした。
畑は砦の中ではなく外――森の反対側にあった。
いや、畑だった、というべきか。
そこは穴だらけで、引きちぎられた蔦がある。
「屑芋は少しは残っているようですが、これだと畑が元の状態に戻るまでどれだけかかるか」
ザッカは落ちている草の蔦を拾う。蔦も途中で引きちぎられており、その先にあるはずの芋はない。
とても悲しそうだ。
なんとかならないものか。
そうだ、そういう時のためのアイテムバッグじゃないか。
何か、そう、何か畑を生き返らせる道具出て来い。
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すごい肥料【薬品】 レア:★★
植物が育つために必要な栄養が凝縮されている。食べても害はない。
スイカの種と一緒に飲み込んでも体から芽は出ません。
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そう思って取り出せたのは、こんなアイテムだった。
栄養ドリンクのような茶色い瓶の中に入っている液体。
レア度は2か。あまり効果はないだろうが、ないよりはマシというレベルだろう。
四本の“すごい肥料”が出てきたので、とりあえず、全ての瓶のコルクを抜き、無造作に肥料を撒いた。
当然、そんなことをしてもすぐに畑が復活するわけではないので、何か手段を考えないとな。
そう思った時だった。
大地が大きく揺れた。
「なんだこれは! 新手の魔法か!」
揺れる大地にザッカが騒ぐ。
どう考えても地震だろう。
それともこの地方には地震が起こりにくいのか?
だが、これは地震ではなかった。ましてや魔法でもなかった。
大地が膨れ上がった。
そう見えた。
そして、その大地から大量の草が、蔦が伸びていく。
「畑が――畑が生き返る……そんな、奇跡か」
「効果ありすぎるだろっ!」
どんなチートアイテムだよ!
なおも伸びる蔦――試しに一つ蔦を引っ張ってみると、蔦にサツマイモのような芋が大量についてきた。
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パリス芋【食材】 レア:★
西大陸で多く栽培されている芋。生では毒がある。
茹でたり焼いたりすると毒成分がなくなる。
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あぁ、これがパリス芋か。
シルフィアとサクヤが毒があるから生では食べられないと言っていた芋だな。
確かに、説明文でも同じことが書いてある。
「これは立派な芋じゃ……すぐに兵を集めてきます! 収穫じゃぁぁぁっ!」
ザッカは大笑いして兵を集めに行き、ザッカの命令で集まった兵たちは、見事に生まれ変わった芋畑に興奮し、収穫を始めた。
そして、夜が来るころには、食糧庫が芋で満たされていた。
「凄いなぁ……芋だらけだ」
と俺は驚くようにつぶやいた。
芋を運んできたサクヤも埋まった倉庫を見て感慨深げに言う。
「あぁ、これだけあれば干し芋がどれだけできるか」
「なんで干し芋限定なんだよ……芋の煮っ転がしや蒸かし芋、焼き芋でも別にいいじゃないか。干し芋にするのは保存用だけで十分だろ」
「ほう、流石は神子様たちが認めた料理の達人じゃ。ぜひともワシにもその神の料理とやらを馳走していただきたいものじゃ」
「いや、俺は料理なんてできないって」
一応は琵琶湖で魚料理の作り方とかいろいろ教わったけれど、基本は実家暮らし。芋の煮えたも御存じないような男だ。少し意味は違うけれど。
料理の知識があっても、あのルシルが用意してくれたような料理は作れないって。あんなの作れるならミシュランで星の一つや二つ、既に取っているわ。
「またまた御謙遜を」
ザッカは笑って俺の肩を叩いた。
「本当に下手なんだけどな。そこまで言うなら10本の芋を貰うから、見せてやるよ」
俺がどれだけ料理をできないのかを!
全力で作ってこの程度だってことを見せてやる!
……やる気でねぇな。




