全ての力の放出
~前回のあらすじ~
ルシファーの力が圧倒的だった。
ベリアルを瞬殺した俺の身体は、塞がっていこうとする壁を殴り続けた。
何がしたいのか、全くわからない。
【……迷宮を壊そうとしているのだろう。再生していく迷宮は生物としての魔力を持つから、私達はそれを感じ取っているのだろう】
「私達って――」
【もちろん、私と、君だ。だが、迷宮は壊せば壊すほど再生速度が上回っていく。そして、完全に再生したら、おそらく君の身体は次の獲物を探し求める。近い者から順番に――】
それって――ルシル達じゃないかっ!
俺の身体があいつらを殺す!? 冗談じゃないぞっ!
「そうだ、ルシル! 俺の封印が解けたってことは、今のあいつも元の状態に戻っているんだろ! それなら再封印が可能だ!」
絶対零度封印術弐式というルシルの最高の魔法だ。
俺も力は上がっているそうだが、ルシルの魔力も前とは比べものにならないくらい強くなっているはずだ。
水魔法や火魔法、魔王のくせに光魔法まで覚えたし、それに伴う複合魔法なんてのも覚えた。
魔力の神薬も飲んできたし、今は魔力の妙薬も飲んでいる。
この状態なら、俺の再封印くらい容易いだろう。
【ダメだ。あの時の君は僅かに僕に抗っていたこと、それに加え、魔王城の全ての魔道具の力をエネルギーに変えることで封印ができた。だが、今の君の身体は、僕の力に支配されている。この状態での再封印をするには、彼女の力では不可能だ。もっとも、だからこそベリアルを倒すことができたわけだが】
ベリアルを倒せても、ルシル達が死んだらなんの意味もないだろ。
くそっ、何かいい方法が――そう思った時だった。
俺の身体の視界が見ていたのは――再生を速め、完全に塞がっていく迷宮の壁だった。
そして、俺の身体はゆっくりと後ろを向く。
そこに立っていたのは、ルシルだった。
この世界で俺が最初に見た、大人のルシル。
「コーマ、お願い、元に戻って! 絶対零度封印術弐式!」
突如、周囲の空気が無数の氷の破片へと変わり、俺の身体に突き刺さっていく――だが、その氷が俺の動きを一瞬止めたかと思ったが――その氷が砕け散る。
効いていない、本当に。
「おい! ルシファー! 何か方法は! 方法はないのか! このままだとあんたの娘も死んじまうんだぞ!」
【そんなに彼女を助けたいのか?】
「あぁ、助けたい!」
【わかった。ならば、私が一瞬だけ私の力を拘束する。その時に、コーマ、お前はお前が為すべきことを為すんだ】
為すべきことを為す?
どういうことだ?
「もっと具体的に説明してくれ!」
俺が叫ぶと、ルシファーは語った。
【その時が来ればわかる。その時になれば――いいか、君の身体は完全に力に乗っ取られている。だが、彼女の封印が完全に効いていないわけではない。封印の力と君の力の差がありすぎて、封印の力が全く役割を果たしていないだけだ】
つまり、俺の力が弱くなればいいってことか?
そうか――弱化の泉だ! あの中に入ればいいってことだ。
それなら確かに納得だ。
弱化の泉が湧くまで残り何分だ?
その時だった。
俺の身体が動いた。
手から高密度の魔力の刃が現れた。
そして、俺の身体はルシル目掛けて歩いていく。
おい、ルシファー! 時間がないぞ!
【聞け、コーマ! 弱化の泉に浸かってもすぐに私の力が失われるわけではない! あれで消せるのはせいぜいゴブリン王の力くらいだ!】
はっ、なんで今更そんなことを言うんだよ!
「コメット! クリス! アルティメットポーションをありったけ出して上に投げて!」
ルシルの指示で、クリスとコメットちゃんが上に計10本のアルティメットポーションを投げた。
一体、何をする気だ!?
そう思ったら、ルシルはコメットちゃんのアイテムバッグからユグドラシルの杖を取り出した。
「絶対零度封印術弐式」
叫ぶと同時に、杖から力が溢れ、ユグドラシルの杖もまたルシルの力に耐え切れずに真っ二つに折れた。
そして、上に投げられたアルティメットポーションが氷の刃へと姿を変え、俺の身体に降り注いだ。
アルティメットポーションの中の治癒力を封印の力に変えたってことか!
――これならもしかしたら!
そう思った――だが、俺の手の魔力刃がその氷の刃を全て薙ぎ払った。
……これでもダメなのか。
そして、俺の手の魔力刃がさらに大きくなった――その時だった。
【コーマ! 今から君に身体を返す! 時間は30秒! その間に全てを終わらせろ!】
そう言った直後だった。
俺は――俺の意識は身体とシンクロした。
自分の体の中の魔力と、その使い方を理解する。
そして、俺がするべきことも理解した。
これが、為すべきことを為すってことか。
畜生、ふざけてやがる!
「ルシル! 悪い!」
「え、コーマ、意識が戻ったの?」
ルシルが叫んだが、俺は彼女に背を向け、全力で走る。
壁へと向かって。
力があるから俺を封印することができない。
ならば、力を全て放出させたら、俺の力を封印することができる。
でも、こんな場所で力を放出させたら、間違いなくこの迷宮全てが吹き飛ぶ。
ならば、どうしたらいいか?
そのヒントは、さっきベリアルが、そして俺の身体が教えてくれた。
俺は魔力の刃を魔力の塊へと変え、壁に殴りつけた。
「じゃあ、ちょっと行ってくるわ! 晩飯はいらねぇから!」
俺はそう言うと、壁の向こう側――虚空へと飛び込んだ。
そこは、完全な無――何もない空間。
ここで力を暴発させる。
そこで、俺は一人だった。
【コーマ、もう私も限界だ。頼む!】
「わかった。ルシファー、悪いな、お前の力を使いきれなくて!」
そして、俺は全ての力を、塞がりつつある迷宮の入り口の反対方向へと放出し――そして意識を手放した。




