閑話8 魔王城リフォーム(前編)
~前回のあらすじ~
梅干しづくりを楽しんだ。
魔王城は今日、リフォームが行われることになった。
流石に、メンバーが増えすぎた。
俺、ルシル、コメットちゃん、タラ、マユ、カリーヌ、マネット。
12畳の部屋でこれだけの人数の食事が辛くなってきた。
そのため、今日はリフォームをすることにした。
何故今日なのか? それは、今日、魔王城が崩壊したからである。
「ということで、何度目か忘れたが、ルシルの料理が暴走して魔王城が壊れたので、これをいい機会として魔王城改革を行う」
俺がそう宣言すると、空気を読んで皆が拍手をしてくれた。
ちなみに、拍手をしていない人が一人。
ルシルである。
彼女を見ると、じと目で俺を睨み付けてきた。そんな目で見ても許さないからな。
彼女は今、拍手をしたくでもできない状況にあった。
なぜなら、彼女は今、「反省中」という看板がつけられた紐を首からぶら下げ、水がたっぷり入ったバケツを両手に持っている。つまりはお仕置き中であるから拍手ができないでいた。
全く、料理をするときは俺かコメットちゃんがいるときにしろと、あれほど口をすっぱくして、梅干しを食べたときのようにすっぱくして言っているのに、俺を驚かせようと思って一人で作るなんて。
ちなみに、バケツの中の水は一定の高さまで下がると爆発する――とルシルには言っているが、中身はただのアルティメットポーションだ。
「いつもこのノリなのか? お前等は」
拍手が鳴りやむと、初めてにしてはなかなかいい空気の読み方をしてくれたマネットが俺に尋ねた。
ちなみに、操り人形の魔王である彼だが、自分で自分を操っているらしく、その糸はどこにもつながっていない。ただ虚空に向かって上方に伸びているだけだ。
「まぁな。ノリって大事だぞ。ゼ○ット爺さんに教わらなかったのか、マネットは」
「ゼ○ット爺さんって誰だよ! 教わってないよ、そんなもん」
マネットは良いツッコミをしてくれる。うん、育てがいがありそうだ。
でも、本当にノリは大事なんだぞ。マネットを仲間にしたのですらノリだというのに、こいつは気付いていないのか。
「とりあえず、キッチンは鍵付きの部屋にする。賛成の人は手を上げて」
それにルシルを除く全員が挙手。過半数の賛成が得られたので、キッチンは鍵付きに決まった。
「鍵を付ける意味なんてあるの?」
一人賛成票を投じなかったルシルは、バケツの重みで腕をぷるぷるさせながら、そう尋ねた。
もちろんだ。これである人物が勝手に料理を作るというリスクがなくなるのだから。
当然、その意味は、ルシル以外全員理解している。何故ならこのリフォーム会議は、別名「ルシル料理被害者の会」なのだから。
まぁ、それは3割ほどは冗談だけど。
「何か希望はあるか? まぁ、順番に候補を出してもらうか。まずはコメットちゃんから」
「え? 私ですか?」
コメットちゃんは、「えーと」と考え、
「いえ、特には何も」
と遠慮がちの首を横に振った。
「いや、遠慮しなくていいよ。コメットちゃんもわかってると思うけど、多少の無茶を現実にできるくらいの力はあるから」
「えっと、鏡付きのクローゼットが欲しいです……子供の頃から憧れていて」
遠慮する気持ちはわかる。鏡というものは、この世界では貴重品らしい。
でも、ガラスと銀と硝石があれば作ることができる。
銀も銀鉱石の状態ならそこそこ安く買えるから、鏡そのものは俺にとっては全然高級品じゃない。
クローゼットにいたっては木材さえあれば作れるからな。
鏡付きのクローゼットか。服とか入れておく……ん?
そういえば、コメットちゃんていつも同じ服を着ているイメージがあるんだけど。
「……コメットちゃん、服何着持ってたっけ?」
「これを含めて2着です」
「……あぁ、ごめん。今度一緒に買い物にいこうな」
俺が作ってもいいんだが、コメットちゃん好みのファッションというものはよくわからないからな。
「はい、楽しみにしています」
コメットちゃんは尻尾を振って頷いた。
「次に、タラは何か欲しいものはあるか?」
「…………そうですね。トレーニングルームなどがあれば。マネット殿のゴーレム相手にトレーニングさせてもらっているのですが、ゴーレムの残骸があちこちに飛び散るので、丈夫な建材で作られた室内なら助かります」
「へぇ、そんなことをしてたのか。わかった、考えてみるよ」
トレーニングルームか。いかにもタラらしいな。
「じゃあ、次はマユは何かあるか?」
「……私のこと覚えていてくれたんですか?」
「……いや、忘れて帰ったのは本当にごめん。梅の実に夢中で気付いたら転移陣に飛び込んでてさ」
「いえ、私はお風呂があればうれしいですね。といっても、魔王城に泊まりにくるのは週に一度ですから」
「あぁ、今はお風呂は魔王城の外にあるもんな」
男湯と女湯はもちろん別にしている。
ずっと室内にいるので、外とか中とかいう感覚が希薄になっているんだが、でもまぁ、普通はお風呂が必要だよな。
トイレの隣に作ろう。
設計図を書きはじめると、
「ねぇ、コーマ! 私の要望も聞いてよ」
バケツを持ちながら、ルシルが叫んでいた。
「なんだ、カリーヌの要望がまだなんだが」
「カリーヌはみんなの部屋が欲しい」
「あぁ、リビングか」
「ううん、スライムみんなが入れる部屋」
「そうか。カリーヌは兄弟思いだなぁ。でもスライム達は30階層から39階層の防衛をしているから、ここに来られたら侵入者がいたときに困るからな、無理なんだよ」
俺は笑顔でそう言うが、内心は「無理だ」と言いたかった。
スライム全員入れる部屋なんて東京ドームくらいの広さが必要だぞ。
「ねぇ、コーマ。そろそろ限界なんだんだけど」
「え?」
見ると、ルシルの手がぷるぷるを通り越して、ばたばた揺れていた。
揺れすぎてアルティメットポーションが零れている。
「あぁ、もう下ろしていいぞ?」
「何言ってるの。下ろしたら爆発するんでしょ?」
「さっきから水をこぼしてるのに爆発してないだろ? 中身はただの水だ」
ようやく騙されていたことに気付いたルシルはゆっくりとバケツを地面に置いた。
「もう、いいじゃない! あれは私の家なんだから一回や二回壊しても」
「建てる側の身にもなってみろ」
全く。
材料費は無料同然でも、家を建てるとなると時間がかかるんだぞ。
だいたい10時間くらい。
今度はルシル料理に壊されない家を作らないとな。
とはいえ、俺のせいで初代魔王城を壊してしまった手前、ルシルの要望は聞いてあげたい。
「で、ルシルはどんな家がいいのか?」
「もちろん、私が求めるのは一つよ! 伝説のタタミの部屋を作って!」
「で、伝説のタタミの部屋だってぇぇぇっ!?」
すみません、次の本編に入ったらこんなバカなことができないので、もう少し、バカな話が続きます。




