コーマのギルド試験~昼食編~
~前回のあらすじ~
なんとか危機を乗り越えた。
地下12階層に俺達はいた。今のところ、敵の気配はないが、さっきみたいに突如魔物が現れることもあるからな、油断はできない。
本当は10階層に戻るはずだったんだが、俺が先頭で走っていたら、なぜか12階層にたどり着いていた。
10階層に戻るには、もう一度11階層を抜けないといけないのか。
「コーマ、トヴィの様子はどうだ?」
「あぁ、魔力は回復している。直に目を覚ますだろう」
コーマはまだ意識が朦朧としているトヴィにマナポーションを飲ませ、彼女の頭と地面の間に枕を差し込んだ。
枕までアイテムバッグに入れているなんて思わなかった。枕が変わると眠れなくなるタイプなのだろうか?
「ん……ここはどこですか?」
「トヴィ、大丈夫か? 今は迷宮の12階層だ」
「……12階層ですか? あ……うっすらとですが覚えているです。オーガさん、ありがとうです」
トヴィをここまで背負ってくれたオーガに対して、彼女が礼を言い、コーマにもマナポーションの礼を言う。
「いや、俺達もトヴィの結界に助けられた。あの結界のおかげで俺達も休憩できたからな」
「だな。それに、あれで30体はボーンゴーレムを戦闘不能にして、ゴーレム核をぶっつぶすことができたんだ。問題ねぇよ」
「私も、あのまま強行突破していたら、間違いなくスタミナ切れで動けなくなっていました」
「感謝する」
コーマ、オーガ、ヨンイチ、シグレがそう言って、トヴィに礼を言う。
実際、あの結界は凄かった。もしもトヴィの他に遠距離攻撃ができる人間がいたらと思う。
まぁ、間違いなくあのボーンゴーレムの包囲網を突破できたのは、コーマの魔法の杖のおかげだろう。
回数制限がある貴重なアイテムだとヨンイチが説明してくれた。彼が言うには、店で似たような杖を見たとき、その値段は5回使えて金貨5枚。
つまり、1回金貨1枚分の攻撃となる。
コーマは俺達のためにその貴重な1回を使ってくれたらしい。
金額に関係なく、必要な時に必要なアイテムを使うのがアイテムマスターなんだとコーマは、苦笑して言った。
あの思い切りの良さは加点対象だな。
「とりあえず、飯にしようぜ」
「コーマ、もしかしてアイテムバッグの中に飯も入れてるのか?」
「あぁ、作ってもらってな」
コーマは笑顔で、アイテムバッグからランチボックスを出した。
あれは間違いない、手作り弁当だ。しかも女の子が作った感じの。
くそっ、うらやましくなんかないぞ。
それより、今は確かに腹が減ったからな。
そして、コーマはランチボックスを開けると――中から二十羽ほど白い鳥が飛び出していった。
明らかにランチボックスの中に入るような数じゃないんだが。
奴らが出てきたと同時に同時に、俺の脳内から警戒警報が鳴り響く。
なんだ、あれ――あんな小さな鳥なのに、ドラゴン並みに脅威だと思ってしまう。
鳥は周囲を飛んで一周すると、11階層に続く階段の奥に飛んでいった。
一体、あれはなんだったんだ?
その姿が完全に見えなくなっても俺達は警戒を解くことができなかった。
現況を生み出したコーマもまたその鳥を見送ったあと固まっていたが、
「…………あぁ、間違えた。こっちが正解だ」
コーマはそう言って、別のランチボックスを取り出した。魔物が飛び出したランチボックスはなかったことにするつもりだ。
ウインナーや肉団子などの素材が挟まっているロールパンが入っていた。
うまそうだ。
「って、ちょっと待て! 何を間違えたらランチボックスから鳥が出てくるんだよ!」
「だから、間違えたって言ってるだろ。今見たことは忘れろ!」
「どう間違えたらアイテムバッグの中から魔物が出てくるんだ?」
「あれが魔物ならいいんだがな」
コーマが遠い目になる。
なんだ、この雰囲気。これ以上聞いたらいけない、そんな雰囲気にさせる。
「私も握り飯を用意してきた。この湿気だと痛むのが早いからな、今のうちに食べてしまおう」
シグレが、腰の袋から乾燥した植物の葉っぱに包まれた米の塊を取り出す。
俺とヨンイチ、トヴィ、オーガは四人とも保存のきく食糧だったため、今日は食べないことにした。
コーマのアイテムバッグの中には他にも食べ物が大量に入っているそうだが、さっきみたいに不慮の事故でアイテムバッグが使えない、とならないとも限らないからな。
「おぉ、ウメニギリだ!」
コーマが何故か感動してそう叫んでいた。
「見ただけでわかるのか?」
「あぁ、鑑定スキルのおかげでな。一個もらっていいか?」
「種が入っているから気を付けろよ」
コーマは「わかってる! いただきます!」と言って今までで一番うれしそうな顔で食べ始めた。
「ウメって確かカリアナの果実ですよね? カリアナではごはんに果実を入れて食べる習慣があるんですか?」
ヨンイチが訊ねた。二人とも博識だな、俺はそんな果実があることすら知らなかった。
俺はとりあえず、コーマのロールパンを食べる。
手で直接米を触るという感覚がどうもなぁ。
潔癖というわけじゃないんだが、あのべたつく感じは好きになれない。
「おぉ、旨いな、これ」
パンの中に入った肉とトマトソースがよく合う。
「だろ? でも、このおにぎりもうまいよ」
コーマは自分の事を褒められたかのように自慢げに言うと、口からウメという果実の赤い種を取り出して、紙にくるんでアイテムバッグの中に入れた。
種ならそのあたりに捨てておけばいいのに律儀な奴だ。
「コーマ、その髪の色といい、主ももしかしてカリアナの出ではないのか? 名も本当はコウマでは?」
「いや、俺はカリアナ出身じゃないよ。行ったことはないが、行ってみたいとは思ってる」
指についた米粒を口で取りながら、コーマは否定した。それに、シグレはそれ以上は問わず、防毒マスクをはずして自ら作った握り飯を食べ始めた。
防毒マスクを外した姿は初めて見るが、可愛らしい顔をしているな。
ヨンイチは果敢にも握り飯に手を伸ばし、それを食べた。
「すっぱ、なんですか、これ」
「それが梅干しだよ。梅の実を塩漬けにした後で、天日干してるんだ」
「なるほど、これは慣れないと少しきついですね」
口を窄めてヨンイチは言った。
「作り方は私が持っている干し肉と同じなんですね」
トヴィはロールパンを食べながら、興味深そうに尋ねた。
そんな感じで、一時の休息を得たのだが――ゆっくりできるのもここまでだった。
その気配に気付き、コーマがランチボックスをアイテムバッグにしまい、シグレも乾燥した葉に包み直し、腰の袋に入れた。
「来るぞ!」
俺達は各々武器を構え、階段から降りてくるそれらを待った。
下りてきたのは、ボーンゴーレムだった。
階段を下りてから追ってこないと安心していたが、そうは問屋が卸さなかったらしい。
「階段正面で迎え撃つ! 俺、シグレ、オーガの三人が壁になる、ヨンイチ、トヴィ、コーマはサポートを頼む!」
降りてきたのは、さっきと同じ獣型のボーンゴーレムだ。
それ以外のゴーレムはいない。
「いくぞ!」
俺は剣でボーンゴーレムの身体を薙ぎ払い、オーガの斧が頭を砕き、シグレの短剣が確実に脆い部分だけを砕いていく。
「風よ、刃となれ! 風刃!」
「封魔弓!」
「火炎球!」
後衛の三人も攻撃をしてくれている。って、コーマ、お前、水だけじゃなく炎の魔法も使えたのかよ!
などと言っている暇はない、勢いが違う。
ボーンゴーレムは、感情がないはずなのに死にもの狂いで俺達に目もくれず、後衛の三人を襲おうとしている。
その時、一匹がオーガとトヴィの間をすり抜け、ヨンイチへと向かった。
「しまった!」
咄嗟にコーマが拳でボーンゴーレムの頭を砕いた。
……コーマ、本当に何ものなんだ?
いや、それより、まずい!
このままじゃ――
刹那、波のように迫ってきたボーンゴーレムが俺達の隙間を縫い後衛を……襲わずに後ろに走り去っていった。
「はっ?」
一匹の異変に気付き、俺達の手が止まった。
ボーンゴーレムは明らかに、俺達を避けてどこかに逃げるように去って行った。
もしかして、ボーンゴーレムが逃げ出すような何かが11階層に現れた?
恐怖を感じるはずのないボーンゴーレムが逃げ出す何かが?
そう思った時、俺達の上空を白い鳥が飛んでいった。
そして、鳥たちはボーンゴーレムを追いかけて飛び去る。
「あぁ……骨なしフライドチキンだから食べられることよりも完全を求めて骨を求めるのか。でも、フライドチキンのフライの意味が違うだろ。なんで鶏が空を飛ぶんだよ」
コーマの意味不明の独り言が俺の耳には届いたが、脳はそれを理解できなかった。
~閑話 料理下手はなぜか味見をしない~
魔王城の一室で、私は逆さ吊りにして血抜きをしていた鶏の羽をむしり、捌いていた。コメットに、間違っていないか見てもらいながら作っている。
「ルシル様は本当に料理スキルはあるんですよね。包丁さばきとか見事です」
「当たり前よ! 一生懸命練習しているんだから」
私は料理の技術はある。でも、最後に何故かちょっとだけ失敗しちゃうだけなの。その原因が何なのかはいまだにわからない。
手に魔力を纏わせて集中しながら、私はコーマが食べやすいように骨を取り除いて肉に小麦粉をつけて油で揚げる。
いつもここで失敗しちゃうのよね。なぜか動き出しちゃって。
でも、今回こそはと願いを込めると、本当にこんがりキツネ色に揚がった骨なしフライドチキンができあがった。
「やりましたね、ルシル様」
「ふふふ、コーマの驚く顔が目に浮かぶわ! こっそりアイテムバッグに入れておきましょ」
蓋を閉じると、何かランチボックスが揺れた気がしたけど、私は無視して、外でタラと一緒に剣の訓練をしているコーマのアイテムバッグに入れた。
今から冒険者ギルドで試験らしいから、帰ったら教えることにするわ。
あの、目が飛び出すくらい美味しかったと思うフライドチキンを作ったのは私なのよ! って。
だって、今回のフライドチキンは、完全なものを求めて作った最高の一品なのよ、味見をしなくてもおいしいってわかるわ。
※飛び出したのは目ではなくフライドチキンそのものでした。
※ちなみに、コーマがあのトリが骨なしフライドチキンだとわかったのは、鑑定スキルのおかげです。




