クリスと女二人旅~帰路編~
~前回のあらすじ~
水浴びした。
つ、疲れた。
往復一週間程度の行程のはずが、なぜか片道で一週間かかってしまった。
そりゃ、最初の村で干ばつで苦しんでいたんだ。
これから行く村が無事なはずがない。
結局、クリスのお人よしに巻き込まれ、俺は水を作ったり肥料を撒いたりして、聖女とあがめられる生活を送って……正直疲れに疲れていた。
そのためか、さっきから背中にあたっているそれが、マシュマロなのか肉まんなのかの区別もつかない。
でも、その結果採取できたのが、
……………………………………………………
カナマベ草【素材】 レア:★★★
男は女らしく、女は男らしくなれる草。
毛生え薬の材料になるといわれる。
……………………………………………………
これだった。これが、性別反転薬の材料だ。
もちろん、俺の手にかかれば毛生え薬も作ることができるんだが、それは別の話。
あまり数はなかったが、20本ほど採取できた。後は帰るだけなんだが、クリスに無理言って、帰り道はできるだけどの村にもよらないように頼んだ。
幸い、クリスは野宿には慣れているということで「コーリーちゃんがいいなら」と了承してくれた。
「本当に大丈夫? コーリーちゃん」
「あぁ、大丈夫だ」
「目の下の隈酷いし、口調もなんかおかしいんだけど」
「……大丈夫」
大丈夫なんかじゃない。
ストレスが溜まっている。コーマだとばれてはいけない緊張感や、聖女としての振る舞いにも限界を感じていた。今は野宿などで肉体的にも疲れている。
早く、元の身体に戻りたい。
にもかかわらず、トラブルが続くらしく、気が付けば男10人に囲まれていた。
「ようよう、お嬢ちゃん二人か?」
「ここは俺達盗賊団″黒虎″が通さねぇぞ」
「ひゃっはー、命を助けてほしければ有り金全部置いていきな! そうすればその可愛らしい体を蹂躙しておかす――ぶはっ」
俺の投げた岩が盗賊Cに命中。盗賊Cをやっつけた。
「こっちもいろいろ疲れてるんで、通してもらえませんかねぇ?」
「や、やばい! あっちの女、目が据わってやがる!」
「うるさい! 誰が聖女だ!」
俺はアイテムバッグからユグドラシルの杖を取り出し、
「火炎球 火炎球 火炎球」
炎の魔法を使った。
ユグドラシルの杖によって巨大化した炎の球が前方の盗賊たちに降りかかる。
「んなもん俺達は誰も言ってねぇぇぇっ!」
その叫び声とともに、盗賊達6人が消し炭になる。
残りは3人。
そして、俺はニヤリと笑って後ろを向き、
「な、俺達にも炎の魔法を使おうっていうのか!? だが、俺達の後ろは森だぞ! そんなもん使って――ぐはっ」
「殴る」
ユグドラシルの杖で思いっきり盗賊Gの頭を叩きつけた。
「何しやがる、このあまっ!」
「もう疲れたぁぁぁぁっ!」
俺はそう言って杖の先を盗賊Hの口の中に突っ込み、
「ここで火炎球を使えばどうなるのかなぁ。どうなると思う? どうなるでしょうねぇ。ふふふ」
「は、はへほ……」
「わからないなぁ。わからないから、試してみよう、火炎球! なんちゃって」
俺の杖からは炎が出てくることはなく、あまりもの恐怖に気を失った盗賊Hは失禁したままその場に崩れ落ちた。
「ひ、ひえぇぇぇぇっ!」
逃げ出す盗賊Iをクリスが捕らえ――彼女は俺を見て嘆息を吐いた。
「……コーリーちゃん、やりすぎですよ」
「……うん、自分でもそう思う」
消し炭となった盗賊たち、一応生きてるよな? あぁ、生きてた。
とりあえず、ポーションをぶっかけて、最低限の治療をして、縄で縛る。
「じゃあ彼らは放っておいて行きましょうか」
「そうはいきません。盗賊を捕まえたのなら、冒険者ギルドにつれていかないと」
「……ですよね」
んー、まぁ、この先にあるらしい町には、俺は立ち寄っていないとはいえ、聖女と勇者が女二人で旅をしていることは結構この国の中に広まってしまった。前に立ち寄った村では、俺達が何も名乗っていないのに、聖女と勇者の歓迎会が開かれたほどだ。こうなったら、奥の手を使うか。
「あ、メイベル店長から通信です。ちょっとすみません。――はい、はい、え? あぁ、そうなんですか、それはちょうど都合がいいです、はい。え? コーマ様が? あぁ、わかりました、クリスティーナ様にも伝えておきますね」
独り言をつぶやき、
「実は、今から行く町から乗合馬車に乗ってアイランブルグに商談に向かうことになりました」
「え? そうなんですか?」
「はい。それと、コーマ様が近くにいるそうだから、クリスティーナ様と合流して二人で帰ってきてくださいとのことです」
「え? それじゃあコーリーちゃんはどうするんですか?」
「アイランブルグからはまた冒険者ギルドで護衛を雇って移動します」
乗合馬車があるのは事実だが、アイランブルグに行くのはウソだ。俺は次の町でコーマに戻り、何食わぬ顔でクリスと合流する。それで一件落着だ。
「クリスティーナ様、急なことで申し訳ありません。これ、少ないですがお納めください」
そう言って、俺は金貨10枚が詰まった袋をクリスに渡した。旅立つ前にメイベルに訊いたら、勇者への報酬の相場はこのくらいなんだそうだ。もっと渡さなくていいか? と訊ねたら、それ以上渡したらコーリーちゃんがコーマさんだとばれてしまいますよ、と言われた。
「こんなに要らないですよ。私も楽しかったですし」
「いいえ、これはクリスティーナ様への感謝の気持ちです、ぜひ受け取ってください。受け取ってもらわないと私がメイベル店長に怒られてしまいます」
「そうですか……では、ありがたくいただきます。では、次の町まで、よろしくね」
「はい」
これでやっと元に戻れる。
盗賊を引き連れているので歩いて進むことになったが、それでも足取りは軽かった。
※※※
目的の町、ピーオネにはその日の昼過ぎに着いた。
流石に、乗合馬車の中継地点として有名な町だけあって、多くの人が来ていた。
町の小さな門に近付くと、
「ようこそ、ピオーネへ」
門番はそう言って笑顔で迎えた。
どうやら、俺達が聖女と勇者とは気付いていないらしい。
でも、これならどうだ?
「すみません、道中盗賊に襲われまして。彼らを冒険者ギルドへ引き渡したいんですが」
クリスが連れている盗賊たち、彼らは全員びくびくしている。
あぁ、俺がさんざん脅したからなぁ。今にも泣きだしそうだ。
「おぉ、それは災難でしたね。もう少ししたら勇者様が退治なさったんですが。あぁ、でも勇者様の手間が省けたとしたら大手柄ですね。冒険者ギルドに案内いたします」
どうやらクリスがこのあたりにいることは門番も知っていたらしい。
だとしたら、どれだけ察しが悪い門番なんだ?
ここで盗賊を連れて剣を持った女と、杖を持った女が来たということで、勇者と聖女だと気付くと思うんだが。
まぁ、そのほうが助かるのは助かるんだが、なんというか肩透かしだな。
門番の男は「そうだ」と一応聞いておかないといけないことを訊ねるように口を開いた。
「あと、町に来た理由だけ伺いたいんですが、やっぱり今、町にいらっしゃっている聖女様目当てですか?」
『え?』
思わぬ質問に、二人で変な声を上げた。
「え? 知らんかったんですか? 今、いらっしゃってるんですよ。奇跡の聖女様と勇者様がこの町に」
いや、俺達がこの町に来た事は知ってますよ。
でも、そうじゃないよね?




