クリスと女二人旅~聖女編~
~前回のあらすじ~
聖女になった。
その日、俺は村長の家の客間で休ませてもらった。
村の奇跡は止まらなかった。
朝日が昇り、村人達がみたのは、井戸から溢れようかとするほどの澄んだ水、そして作物がたわわに実った野菜の姿があった。トウモロコシ畑とトマト畑だったのか。昨日の時点ではわからなかった。
(あぁ、これを一緒に撒いたんだけど、やりすぎたかな)
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すごい肥料【薬品】 レア:★★
植物が育つために必要な栄養が凝縮されている。食べても害はない。
スイカの種と一緒に飲み込んでも体から芽は出ません。
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かつて、ルシル迷宮11階層を草原にするために使った肥料、これを薄めて使ったんだけど、それでも凄かったようだ。
「聖女様、ありがとうございます、これで村は救われました」
「聖女様が昨日下さった薬のおかげで、靭帯を切られて二度と自分の足で立つことができないと言われた夫の足が治りました。今はリハビリのためここに来ることがかないませんでしたが、夫に代わりお礼を言わせてください」
「聖女様はまさに神の使いだ」
うわぁ、また凄い事になってる。
神の使いじゃなくて、魔王なんだけど。
「あ、あの、本当に気にしないでください。それより、とても美味しそうな野菜ですから、どうでしょう? この野菜を使った料理を食べさせていただけないでしょうか?」
「そうじゃ! 皆の者、聖女様にとびっきりの野菜料理をご用意するんだ!」
「あ、いえ、本当に、普通にサラダとかでいいんで、大袈裟にしないでください。あ、私、塩ゆでしたとうもろこしとか食べたいです」
朝からそんなに食べられない。
女の身体になってから胃が小さくなったからなおさらだ。
「聖女様は塩ゆでしたトウモロコシを御所望だ!」
「村長! 塩がありません!」
「ないなら汗を流せ! 汗から塩を作るのじゃ!」
「やめてぇぇぇっ!」
俺の心からの悲鳴が村中に響き渡った。
塩は俺が提供。ついでに一袋(約10キロ)をそのままあげることにした。
「重ね重ねありがとうございます、聖女様。なんてお礼をいったらいいのか?」
「い、いえ、気にしないでください」
その前に汗から塩を作ろうなどとしたことを謝罪しろ、とは言えない雰囲気だった。
それに、今の俺は心優しい女性だ。
「それより、皆さんも食べましょう。採れたてのトウモロコシほどの御馳走はありません。大地の恵みに感謝しましょう」
「なんと勿体なきお言葉。ですが、それらは――」
「神は暴食をよしとしません」
一人で50本も食べられるわけないだろ! とは言えない雰囲気だった。半分以上は俺自身が作り出した雰囲気なんだけど。
とりあえず、聖女としての言葉を使わしてもらうことにした。
「なんと……さすがは聖女様です。皆の者、それぞれ一本トウモロコシを持って食べるんだ」
「はい!」
村人達は全員一本のトウモロコシを持ち、それにかぶりついた。
それにしても――何か忘れているような気がするんだが。
「も……戻りました」
目の下に隈を作ったクリスが、トカゲを2匹背負って現れたとき――
『あ』
誰もが彼女の存在を忘れていたのに気付いた。
そして――、
「おぉ、勇者様もありがとうございます、これで村は救われました」
「すでに救われている雰囲気なんですが」
クリスが、蘇った作物、井戸から溢れる水、そして元気に動く村人達を見て呟いた。
「いえいえ、イグアーナトカゲの干し肉は珍味としてかつてこの村の名物でしてな、これから加工させていただきます」
「えっと、今食べるってことは?」
「イグアーナトカゲの肉は処置をきっちりしないと臭みが強くて、よほど空腹でないと焼いて食べるなどは……」
「そ……そうなんですか」
クリスはそう言って、その場で倒れた。
悪いな、クリス……本気で忘れてた。だって、お前のことは心配する必要ないと思ってたからな。
とりあえず、クリスが持ってきたのはこの二匹だけじゃないだろう。
アイテムバッグからイグアーナトカゲを全て取り出し、村長さんに預けた。
「……村長さん、ベッドをお借りしますね」
俺はクリスを抱え上げ、彼女を休ませるべく村長の家へと向かった。
※※※
聖女生活は楽ではなかった。
クリスが寝ている間、村から出ていくこともできないので、近くの植物を見に行こうかと思ったら、
「聖女様、どこかにでかけるのでしたら、ぜひ護衛を――」
と必要もないのに誰かをついてこさせようとするし、
「聖女様、ぜひ私の赤ん坊の頭を撫でてください」
「聖女様、今度生まれてくる我が子に名前を」
と子供関係の頼みがあったかと思えば、
「聖女様、ぜひうちの息子と結婚を――」
などと縁談を申し込まれそうになる。やめてくれ、男と結婚なんて死んでもごめんだ!
それで、近くに、かつて水の精霊が生まれた泉があると聞き、俺はそこに行くことにした。
沐浴したいからといい、誰とも一緒に入ることが許されないとウソを言って一人で水浴びをすることに。
近くまで護衛を付けると言ってきたので、
「神の加護があるかぎり、魔物や盗賊に襲われ命を失うことはありません。ご安心を」
と適当に言い訳をして一人ででかけた。
泉は村から歩いて10分くらいの場所にあったのだが――枯れていた。
当然だ、川の水が干上がっているのにここだけ無事だなんてことはない。
でもまぁ――それは村長さんからも聞かされていたんだけどね。
ということで、湧き水装置を使い、泉をきれいな水で満たし、俺はその中に入った。裸で。
湧き水装置の水温は調整できるので、27度に調整している。
だから、冷たすぎることもない、遊泳にももってこいだ。
「気持ちいいなぁ」
水を手で掬い、肩にかける。
ふと、視線を下にずらし――微かな膨らみを見て、ドキッとなった。
(何してるんだ、自分の体だろ)
とはいえ、んー、誰もいないし。
うん。
俺は自分の足を開き、ひっしに目を凝らす。
「うーん、もう少し――」
「何がもう少しなの?」
「うわっ」
突然声をかけられ、俺は思わず声を上げていた。
そして、振り向くと、困った顔のクリスがいた。
「ごめん、コーリーちゃん、驚いた?」
「え、クリスティーナ様、どうしてここに?」
「村長さんが、聖女様は沐浴をなさるため泉に向かったと教えてくれたの」
あぁ、口止めしてなかった俺が悪い。
「すみません、クリスティーナ様は気持ちよさそうに寝ていたので、私一人できちゃいまして」
「大丈夫ですよ。それより、コーリーちゃんは凄いですね。聖女様だなんて崇められて」
「いえ、私はフリーマーケットの商品を店長に無断で使っただけなんですよ。あとでメイベルさんに怒られちゃいます。クリスティーナ様、一緒に謝ってくださいね」
「そうなんですか、わかりました。でも、メイベルならきっとわかってくれますよ。それより、きれいな泉ですね。私も入らせてもらいますね」
「え?」
そう言って――クリスは――
〔中略〕
「どうして背中を向けてるんですか?」
「ええと、これには深い事情がありまして」
「なら、私から前にいっちゃいます」
「きゃっ、ク、クリスティーナ様、なんで裸、え? スイカ!?」
〔中略〕
「うわぁ、コーリーちゃんのおっぱいかわいいです」
「ひゃ、やめてください、クリスティーナ様」
「まぁまぁ、いいじゃないですか。コーリーちゃんも触っていいですよ」
「え……ええと、いえ、やめておきます」
〔中略〕
「ふう、汗を流してすっきりしましたね」
「そうですね……」
俺は汗が止まらないよ。
絶対に正体をばれたらいけない。
心からそう思った。




