鍛冶師ギルドの宝剣
~前回のあらすじ~
クイナ、OUT。
突然の処刑宣言(?)に場の空気が凍った。
え? なんで?
「ちょっと待ってください! なんでですか! 私は何もしていない」
「ゼッケン。あの剣をケースから出してくれ」
「あの剣?」
コーマが指をさしたのは、ギルドに飾られていた剣だった。
かつて鍛冶場の結晶コンテストで最優秀賞を取った金の良剣。金の剣のワンダー武器。
「……まさか、この場で処刑するなんて言い出す気じゃないだろうな? そんなのたとえお前でも――いや、誰であっても許されないぞ」
ゼッケンさんの言葉を聞いたからか、クイナさんの顔色がみるみる青ざめていく。
「そんなことはしない。安心しろ」
「……事情は話してくれるんだろうな?」
ガラスケースの鍵を外して剣を取り出したゼッケンさんはコーマに剣を渡す。
「そうだな、百聞は一見に如かずと言いたいんだが、その前に俺からも聞きたい。この剣は金の良剣なんだな?」
「あぁ、そうだ」
「嘘じゃないな?」
「当たり前……おい、マジなのか?」
ゼッケンさんが何かを気付いたかのように呟く。
一体、何に気付いたのか、僕も、おそらくハチバンさんもわかっていない。
「嘘じゃない」
そして、ゼッケンは言い切った。
コーマはその言葉に笑う。そして、アイテムバッグから金床を取り出し、剣を金床の上に置いた。
もう一つ、彼が取り出したのは――プラチナハンマーだった。
「じゃあ、行くぞ」
コーマが呟く。一体何をしようというのか?
予想はできるが、予想ができるだけに信じられないでいた。
「や……」
クイナさんが呟いた。そして、その呟きが叫びになるのには時間がかからなかった。
「やめろおおおぉぉぉぉぉぉぉおっ!」
「やめれるかぁぁぁぁぁぁっ!」
コーマのハンマーが振り下ろされ――金の良剣が……折れた。ぽっきりと。
って、えぇぇぇっ! 何してるの、この人っ!?
あの剣はコーマが作った金の剣のシークレット武器ほどではないが、鍛冶師ギルドで一番の剣だっていうのに、何してるんだ!?
クイナさんは呆然自失といった感じで崩れ落ち、ハチバンさんもその光景を見ていて唖然としていた。
そして、何かを予想していたゼッケンさんは真っ二つになった剣を手に取り――その断面を僕たちに向けた。
……金の剣の中に――鈍い輝きが見えた。
「鉛?」
ハチバンさんがそう言った。そう、あの光は紛れもない鉛の輝きだ。
「それは模造品だ。クイナ、あんたが主犯か共犯かは知らないが、当然、これが偽物だってことは知っていたよな」
コーマが詰め寄る。それに、青ざめた表情をしていたクイナさんが、今度は顔を真っ赤にさせ、
「し、知らない! どうして俺がそんなことをしないといけない! ふざけるな、これは罠だ! そもそも、そこの剣は誰でも取り出せるだろ、なのにどうして俺だけを疑うんだ! 一番怪しいのは鍵を持っているマスターだろうが!」
声を荒げて叫んだ。
僕たちの視線がゼッケンさんに行くが、コーマはクイナにさらに一歩近づいた。
「だって、お前、鑑定スキル持ってるだろ。しかもレベル4、そこそこいい鑑定レベルだ。なのにこの剣が偽物だと気付かなかった、それっておかしくないか?」
「……それは……」
クイナさんはそれ以上何も言えない。
その推理が間違っていないことは明白だった。
「ゼッケン、後は任せていいか? 取り調べは俺の仕事じゃない。まぁ、除名は生ぬるいといったが、剣は返してもらえよ。すでに金に変わっているかもしれないが」
「あぁ、わかった」
「それと、ザード。このプラチナハンマーはお前が持っていけ」
「……いや、僕にはこのプラチナハンマーは持てない」
「大丈夫だ、俺にあれだけ鍛えられたんだ、今のお前なら持てるさ」
鍛えられたといっても一週間だけなんだけどな。
そんなことを思いながら、僕はプラチナハンマーを手に取り――持ち上げられることに気付いた。
一週間前までは扱うことなど不可能だと思っていたプラチナハンマーをしっかりと持つことができる。
「じゃあ、ゼッケン。あの剣は全部こいつが鍛えたもんだから、金はこいつに払ってやってくれ」
そして、コーマは僕の背中を軽くたたいて、鍛冶師ギルドを去って行った。
その後、クイナはギャンブルにのめり込み借金を作ってしまい、その返済のために剣を売ったと明かした。
他にも余罪があると思われ、ゼッケンさんが調査した後、冒険者ギルドに突き出すそうだ。
もちろん、鍛冶師ギルドは除名処分。
あと、僕が打った500本の剣は合計金貨30枚にもなった。今すぐ全額払うことはできないが、冒険者ギルドの口座に入金されるらしい。鍛冶師ギルドにはお金を預ける窓口がないから。
こうして、僕の一週間は終わった。
僕が鍛冶レベル5になったことを言ったら師匠は驚くだろうなぁ。
兄弟子もまだレベル3とか4だから、これは自慢できる。
一番の出世頭だ。
なんて思いながら、僕は師匠の工房の戸を開け、
「ザード、只今戻りました」
そう言うと、師匠――ドワーフのゴロ師匠は僕を怪訝な目で見て、
「何しに来たんだ、ザード」
「え?」
「お前が工房の敷居をまたく事はワシが許さねぇ。とっとと出ていきやがれ!」
「えぇぇっ! なんでですか、師匠! 事情くらい教えてください」
「一週間前、お前がしたこと、ワシが知らねぇとでも思ったのか」
……げっ、ばれている。
師匠は曲がったことが嫌いな一本気な性格だ。僕が他の鍛冶師を貶めるために裏工作をしたことがばれたら許されないだろう。ゼッケンさんは黙っていてくれるといっていたが、どこからかゴロ師匠の耳に届いたらしい。
終わりだ。せっかく鍛冶を心の底から楽しいと思えてきたのに、ゴロ師匠から見放されたら、どこで鍛冶師として生きていけばいいというんだ。
「後、コーマから伝言だ。プラチナハンマーの柄のところに鍵が付いている。しばらく工房を開けるから留守番を頼むって言ってたぞ。置いてある素材も道具も自由に使っていいそうだ」
「え? それって」
本当だ、柄のところに鍵が張り付けられていた。
模様だと思っていたのか全然気付かなかった。
「ふん、とっとと行きやがれ。お前が鍛えた剣を見せてもらった。及第点くらいはやる」
それって、もしかして、卒業ってこと?
師匠が――僕の剣を見て褒めてくれたってこと?
「師匠、今までありがとうございました!」
「とっとといきやがれ」
「あの、でも僕はまだ未熟で、師匠から聞きたいことが山ほどあります。またここに来てもいいでしょうか?」
「うちの敷居はまたぐことは許さねぇって言っただろうが」
ゴロ師匠はそう怒鳴りつけ、
「ワシはこれから酒場に酒を飲みに行く。ドワーフは毎晩酒を飲むが、酔うと誰が誰だかわからなくなる。つい他のバカ弟子と間違えてお前にアドバイスしたら困るからな、酒場にも来るんじゃないぞ、って言ったら酒場のマスターに怒られるから、来てもワシに話しかけるな。酔うとワシから話しかけるかもしれんがな」
それって、酒場では相談に乗ってくれるってことですか。
わかりました、師匠。その時はぜひ、剣について語り合わせてください。
僕は無言でお辞儀をし、短い間だったが世話になった師匠に別れを告げた。
※※※
「コーマ、久しぶりね」
「あぁ、ルシル、久しぶりだな」
一週間ぶりに魔王城に帰った俺を出迎えたのは、タタミでくつろぐルシルだった。
「どうだ、魔力は戻ったか?」
「んー、最大MPは1増えたわ」
「一週間でそれだけか」
ルシルは今、毎日“魔力の神薬”を飲み続けている。
魔力が10%増えるという薬だが、ルシルに対しては思った通りの効果は出ていない。
「ところで、コーマは何してたの?」
「とりあえず、剣を作ってたんだが、んー、正直微妙だったから、鍛冶師になるのはやめておくわ」
「そう……工房はどうするの?」
「適当に留守番に使えそうなやつを見つけたから、そいつに管理してもらうことにした。無料で」
「そう、よかったわね」
「まぁ、不安要素はあるんだけどな」
まぁ、ロリコンだけど、危ないロリコンじゃないから大丈夫か。
そんなことを思いながら、俺はタタミの上に横になった。
んー、タタミ最高。
「あと、今日さ、偽物の武器を作ってたやつがいたからとっちめておいた」
「……あぁ、コーマは嫌いだもんね、贋作師」
正確には、贋作を作って誰かを騙す人間が嫌いなわけだが。
「当たり前だろ? 今でもあの時の悪夢は忘れられない」
ベースボールカードを集めていた時、残り1枚が集まらないままだった俺は、ネットオークションを利用してカードを買うことにした。その時に送られてきたカードが、コピーの贋作だった。クレームを入れても、音信不通で泣きそうになった。
送料込みで500円の損失だ。小学生にとっては500円がどれだけ大金か。
あれから、贋作を作る人間は絶対に許さないと決めていた。
「虚しい勝利だよ。あいつをとっちめても俺の失った500円は返ってこないっていうのにさ」
実はクイナについて情報を得るためにザードを囲ったのだが、彼に使った薬だけでも金貨30枚、3000万円の損失だったということはあえて忘れておこう。実際に金を使ったわけじゃないし。
「で、コーマは何を作ってるの?」
「ん? あぁ、昔に作ったアイテムを……な」
材料が少し手に入ったから2本作ってみた。
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性別反転薬【薬品】 レア:★×6
飲むと男は女に、女は男になる薬。制限時間なし。
元に戻るにはもう一度性別反転薬を飲みましょう。
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さて、何に使うかな。
以上で鍛冶師ギルド編は終了です。
次回からどんな話になるのか。
んー、わからない。




