最強に抗う2本の剣と2本の短剣
~前回のあらすじ~
エントが復活した
「面白いぞ、お前。前よりも確実に強くなってるし、そっちのコボルトも強いじゃねぇか。世界は広いな」
強くなっている。強い。
そんな言葉はこっちからしたら皮肉にしか感じられない。
毎日、力の神薬などを飲み続けて、力は何倍にも何十倍にもなっているはずなのに。
それでも全く通用しない。
相手の強さの底が見えない。
最初からそんなことはわかってる。
「おい、こいよ」
そうはいっても私達は簡単に攻撃することはできない。
そもそも、私達の目的は時間稼ぎだから。
タラがこちらを見てくる。
正確には、私の腰にあるその武器をちらりと見た。
おそらく、ベリアルの裏をかくことのできる唯一の武器。
コーマ様から預かってるその武器。
「こないならこっちから行くぞ」
ベリアルが一歩、また一歩とこちらに近付いてくる。
足に力が込められた。
詰められる――前にタラが地を蹴り、剣を薙いだ。
だが、ベリアルは嬉しそうに跳ね、あろうことかその剣の上に乗ってタラを蹴飛ばす。私の方向に。
私はタラがとんでくるのを見ながら、死角からナイフを投げる。
「こんなもん効かねぇ」
ベリアルがナイフを楽々と受け止めた。
その時――ナイフを受け取ったその手に血が飛び散った。
もちろん、ベリアルの血だ。
当たった……私はそれに歓喜する。
「おいおい、なかなかすげえな」
ベリアルは笑いながら、右目に刺さったそのナイフを抜いた。
私が放ったナイフはベリアルの右目にしっかり刺さっていた。
「見えないナイフか……面白れぇじゃないか。しかも無臭の毒まで塗ってるのか、少し痺れてるな。3時間は右目が使い物にならねぇ」
見えないナイフ。これが私の奥の手。
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裸の王様ダガー【短剣】 レア:★★★★
バカには見えないダガー。バカじゃない人には見えます。
判断の基準は短剣の気分で決まります。
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ベリアルに通じるかはわからなかったが、コーマ様からもしかしたら使えるんじゃないか? と言われて預かっていたそのナイフ。
私にもタラにも普通に見えていました。
正直通じるか半信半疑でしたが、これでなんとかなるかもしれない。
致死性の毒が通じないうえ3時間で治るというのには驚きだけど、片目なら遠近感がわからなくなり、相手の攻撃はあたりにくく、こっちの攻撃はあたりやすくなる。
そう思ったのに――そう思っただけだった。
目の前のベリアルが消えた。
そう思ったのは、私が飛ばされて木に激突した時だった。
「やっぱり調子でねぇなぁ。寸止めに終わらせる予定だったんだが、掠っちまったか」
霞む意識の中、タラがベリアルに斬りかかるのが見えた。
そして、それはあっけなくかわされ、アッパーを――今度こそ寸止めでしたのだろう。
空気による衝撃でタラが上に飛んだ。
「だいぶコツがつかめて来たな」
落ちてきたタラを掴み、ベリアルはその身体を蹴飛ばした。
これが……ベリアルの本気。
さっきまで、全然本気をだしていなかったっていうの?
しかも、まだ獣化もしていないのに。
「さて、どうしたものか。リベンジを待つのも悪くないが、どっちか一匹殺しておくか」
ベリアルが不敵な笑みを浮かべ、私とタラを見比べる。
「復讐に憑りつかれたほうが強くなるかもしれないしな。そうだな……メスコボルトのほうは俺様に手傷を与えたわけだから、褒美に――」
ベリアルはタラを見据え、
「メスコボルトのほうを先に殺してやるか」
近づいてくる。
2度目の死の足音が。
それでも、やれることはやった。
あのとき、今の私の半分である人間だったコメットが、タラの半分のゴーリキに殺された時とは違う。
やれるべきことをやった。
ただ、心残りはやっぱりコーマ様だ。
私が死んだ時。コーマ様が魔王城で苦しんでいたのを私は見ていた。
グーとして、そして魂の存在として。
「……タラ……伝えて……お願い」
私は倒れて動けないタラに言った。
「……コメットのことを褒めてくださいと。苦しまないでくださいと」
私はそう言い、そのまま死を待つのみかと思った。
だが――
「諦めるのはまだ早いですわっ!」
一本の剣が駆け抜けた。
ベリアルがその剣を指で受け止めた。
「なんだ? お前も俺様と遊びたいのか?」
「……最強の魔王ベリアル。貴方と遊ぶつもりは毛頭ございませんわ」
エリエールさんがその手を離した――刹那、剣がまばゆい光を放った。それに私は思わず目が眩む。
その時、私の身体が持ち上げられた。
エリエールさんが私を持ち上げたのだ。おそらくエリエールさんはその後タラを助けて逃げるつもりなんだろう。
だが――、
「おいおい、俺様の獲物をどこに持っていくつもりだ」
光がおさまった時、目の前にいたのは悪夢でしかなかった。
回り込まれていた。
「もう面倒だ。全員殺すか……」
万策尽きた……かに思われた。
だが――世界が揺れた。
何が起こっているのかわからない。大地の揺れとともに、木々から鳥が飛び立つ音が聞こえた。
「……ちっ、時間切れか」
ベリアルはそう言うと、私達のことを一瞥し、
「また遊ぼうぜ」
そう言ってベリアルが消えた。
普通に走って去ったのだろうが、私には消えるように見えた。
……助かったの?
そう思った――だが、そうじゃないことはすぐにわかってしまった。
「……なんですの……この気配は」
わかりません。わかりませんが、嫌な気がしました。
エリエールさんの持っていた癒しの剣で斬られて回復した私とタラは、近くの木を登り、それを見ました。
木が……西の空を覆い尽くすほどに広がっていた。




