種の中に眠る悪夢
~前回のあらすじ~
クリスは調査団を助けた。
ドリーは言った。
捕らわれているのは自分なんだと。
ここは彼女にとって牢獄なのだと。
「牢獄? どういうことか説明してくれ」
木が地に根付いているのは、彼女の意志じゃなく根付いていて動けないってことか?
それなら掘り起こせば……んー、土の部分は掘り起こせるが、迷宮部分の部分にまで根付いていたら無理だ。
迷宮は壊すことができない。
普通に考えれば、壊すことができないなら根付くことも不可能のはずだが――、
天井を貫くように伸びている木。ていうか、明らかに迷宮の天井を貫いているだろうそれを見ると、例外というものが存在するらしい。
もしかしたら、彼女の木は例外なのかもしれない。
天井を貫いているのだから、突出した存在、というほうがいいかもしれない。
魔王だから、迷宮の主だからなのか。
それとも、この迷宮の魔力を吸収し続けた木だからだろうか?
考えは推測の域を出ない。
だから、彼女の答えを待った。
答えを待って答えを考え、また答えを待った。
そして、彼女はその重い口を開いた。
「……私は……この子に捕らわれているんです」
この子。
ユグドラシルの種。
世界樹の種。
72財宝の一つの種。
魔力のこもった種。
ドリーに守られた種。
ドリーを捕らえているという種。
「ユグドラシルの種に捕らえられている?」
ユグドラシルの種を持っているのはドリーだろ?
そういえば、ドリーはユグドラシルの種から魔王の力を貰ったと言っていた。
その時は、俺のようだと思った。
72財宝の一つ、死者の杯から力を貰い、魔王となってしまった俺と同じだと。
望まぬ形で、望まぬ力を貰った俺と同じだと思った。
だが、彼女はさらに、ユグドラシルの種に呼ばれたと言った。
ユグドラシルの種に意志がある、ということだ。
「……ユグドラシルの種に意志が……あるってことなのか?」
アイテムの意志がある。
それは考えたこともなかった。
俺が作った魔法生物のスライムも、命令には従うが、意志のようなものはまるで感じない。
意志があるように見えるアイテムがあるとしたら、アレくらいなものだが。
でも、アレもそのように見えるものなのだろう。
「その種にはあるわよ。意志が。ようやく思い出した。その種がなんなのか」
答えたのは……ドリーではなくルシルだった。
「木の魔王。私はドリー以外にもう一人知っている」
「もう一人?」
「木の魔王エント。お父様から聞いたことがあるわ。とても強大な魔王よ。世界中の植物系の魔物は彼に作られた」
それは……なんとも凄い話だ。
植物系の魔物がどれだけいるかわからないけど。
でも、人間は、全ての生き物は植物がないと生きていけないといわれるし。
「その魔王がどうしたんだ?」
「死者の杯のお父様の前の持ち主だったの」
え?
「え?」
思ったことをそのまま告げてしまった。
「そして、エントを殺したのがお父様らしいの」
「……そうなのか。ん? ルシルは直接見てないのか?」
「見ていないわ。言ったでしょ。聞いただけだって。それで、死者の杯の中はエントの力で満ちたの。他の何も入らないほどに」
待ってくれ、話が見えてきた。
見えてきてしまった。
俺が飲んだのは、エントの力ではない。ルシファーの力だ。
だとしたら、エントの力はどこにいった?
「エントの力をそのまま捨てるわけにはいかなかった。封じる器が必要だったのよ」
「……それで、封じたのか?」
俺が訊ねた。
ルシルに。
「ええ。私が封じたから間違いないわ。お父様に処分してもらったけど」
ルシルは言う。
最初に見たときに思い出せなかったことを不覚に思うかのように。
「確かに、私がエントの力を封じた種は、それと同じ形をしていたわ」
つまり、魔力が溜まるということは。
エントが復活するということなのか。
「ルシル……そのエントってのは、話が通じる奴なのか?」
「優しい魔王だったそうよ。植物に対しては。植物を傷つける生物を全力で潰すそうだけど」
「あぁ、じゃあ植物を伐採する人間とか、野菜を食べる俺とかは嫌いってことだよな」
ベジタリアンを気取るつもりはないし、肉のほうが好きだが。
それでも野菜を全く食べないわけではない。
人間の出す炭酸ガスや排泄物が植物の栄養になるというが、それ以上に生物は植物を食べる生き物だ。
てことは、やっぱり敵ということだ。
「ドリー! そのユグドラシルの種をすぐに離せ!」
「ダメ! この子を離したら、私は二度と元に戻れない! それだけはできない!」
ドリーが種を抱くようにして叫ぶ。
「もう少しなの! もう少しでこの子が復活するの! だから、お願い、それまで私を守って!」
「悪いができない相談だ」
できることならドリーも助けたいがそんなことは言っていられない。
俺はアイテムバッグから轟雷の杖を取り出して、叫んだ。
「雷よ!」




