あなたの心に痺れる薬
~前回のあらすじ~
クリスがなんで迷宮にいるの?
リーリエちゃんと楽しい食事をした後、重要な会議があるからと謁見の間を出ていった。私も一緒に会議に参加してほしいと言われましたが、私が会議に出ても意味がないと思うので、当然断りました。
質素倹約をよしとしているリーリエちゃんも、客間は高価なベッドがあり、久しぶりに寝ることができた。
……高価なベッドなんだけど、寝心地は、フリーマーケットの寮のベッドのほうが断然にいいです。
一体、あのベッドはどこで入手したんでしょうか?
夜中にリーリエちゃんが泣きながら「クリス様、スリーサイズを、スリーサイズを教えてください」と言ってきたけれど、私が扉を開けて、「リーリエちゃん、友達やめますよ」と言ったら、リーリエちゃんは今度は泣いて謝った。
サイモンさんに、困ったときに使え、と言われていた秘密の言葉で、効果は覿面のようです。効果がありすぎて、結局リーリエちゃんが可哀そうになったので、スリーサイズを教えてしまいました。
今後、その7つの数字は国家の金庫の暗証番号にするとのことです。素直にやめてほしいと思いますが、リーリエさんはさっそく金庫の番号を変えないといけないと去って行ったので、ゆっくり眠れそうなのは助かります。
翌朝、朝食も楽しみにしていると、リーリエちゃんが自ら料理とコーヒーを運んできました。
どう見ても女王の姿ではありません。
ちなみに、リーリエちゃんが作ったのはパンの耳のラスクとパンの耳のミルフィーユのようです。
……凄いのは凄いのですが。
「リーリエちゃん、少しいいですか?」
「なんでしょう? クリスお姉さまの仰ることでしたらリーリエは一言一句一呼吸から心臓の鼓動まで聞き逃しません!」
心臓の鼓動くらいは聞き逃してほしいですが。
「パンの耳のラスクって、節約料理のようであって、油を大量に使いますから、実は節約じゃないんじゃないですか?」
「あ……さ……さすがクリスお姉さま……リーリエとしたことが、素材の安さを気にするあまり、油について全く考えていませんでした」
このあたりはやはり女王様なんでしょうね。
私なら、油を買いに行く時に気付きそうです。
そう思いながら、テーブルの上のラスクを食べた。
塩が軽く振られていて、油もしっかり切られています。
コーヒーもおいしいですし、いい朝ごはんですね。
「おいしいですよ、リーリエちゃん。でも、私、今度は節約料理以外の料理を食べたいです」
「節約料理以外ですか? わかりました、このリーリエ、クリスお姉さまのために誠心誠意を込めて料理を作ります」
「あぁ、高すぎない料理にしてくださいね」
リーリエちゃんは良くも悪くも極端だから。このあたりは注意しておかないといけません。
私のせいでリーリウム国が財政難になって滅んでしまったら困りますから。
ラスクを10本ほど食べて、最後にミルフィーユを食べます。
あ……甘くておいしい。でも、砂糖がこれだけ使われたら、やっぱり高くなるんじゃないのかな? とは言いませんでした。
「リーリエ様、そろそろ……」
付き人さんがリーリエちゃんに何か耳打ちをしました。
すると、リーリエちゃんは嘆息を漏らし、今までとは違った女王陛下としてのまなざしを私に向けました。
「クリスティーナ様。実はリーリウム国から勇者であるクリスティーナ様に依頼を申します」
リーリウム国からの依頼ということは、前にリーリエちゃんから依頼された「同性婚を国の法で認めさせますから、結婚してください」とは別の依頼ですね。安心しました。
なら、私も勇者として答えましょう。
「リーリエ女王陛下の願いとあらば、この勇者クリスティーナ、できうる限り、いえ、不可能と言われることでもやり遂げましょう」
「不可能と言われることでも! では、議会で再三に渡って否決されている同性婚でもよろしいのですかっ!?」
「リーリエちゃん、女王の立場、女王の立場で話してください」
「……わかりました。ではその話は後日で」
後日でもいやですよ。
「一週間前から森の魔物の動向がおかしく、5日前から国の調査団が3度、森の奥地に調査のため赴いているのですが、3度とも誰も帰ってきていません。なので、クリスティーナ様にその調査団の捜査をしてもらいたいのです。クリスティーナ様に依頼を出すことは議会で決まりました。ただし、受けるか断るかはクリスティーナ様の自由です」
依頼書と、調査隊がいなくなった場所の地図を受け取りながら、リーリエちゃんの目を見ます。
彼女の瞳には、依頼を受けないでほしい、という願いが見て取れました。
私の安全を第一に考えてくれているようです。
……本当に、彼女はいい友達です。
「このクリスティーナ、その依頼を受けます」
「クリスお姉さま! おやめください」
「ごめんね、リーリエちゃん。5日前から調査団の人が行方不明だって言うのなら、私は行かないといけないの。勇者として……」
「……リーリエの愛したクリスお姉さまなら、必ずそう仰ると思っていました。説得も無理ですよね。なので――」
なので?
そう思った時、私の身体の動きが悪くなる。
これは……痺れ毒!?
「お姉さまのコーヒーの中に痺れ薬を入れておきました。これでお姉さまは――」
「甘いですね、リーリエちゃんならここまでしてもおかしくないと思い――」
私はアイテムバッグから、コーマさんから預かっている麻痺解除ポーションを取り出して飲みました。苦いです。
同時に……私の借金が銀貨5枚増えました。
仕事以外で薬を使えばその代金は私の借金に上乗せされるそうです。
コーマさんが言うには「トヤマの薬売り」という商法だそうです。
トヤマさんが考えた商売なんでしょうね。
「もう麻痺毒は解除しました。では、行ってきます」
「クリスお姉さま! こうなったらもうリーリエは止めません!」
リーリエちゃん、わかってくれたんですね。
ならば――
「近衛兵、クリス様を全力で止めるのです!」
「えぇぇぇぇっ! リーリエちゃん、それはちょっと」
やりすぎです。
私が言おうとしたところで、付き人さんがリーリエちゃんの頭を叩きました。ハリセンで。
「……何をするのです!?」
「リーリエ様、やりすぎです」
「そうではなく、女王の頭をそのような凶暴なもので叩くなんて」
「私の恋人がラビスシティーに行った時に見つけて私に買ってくれたんです。叩いても全く痛くない武器だそうです」
「あなたの恋人って、ゴルゴ・アー・ジンバーラ元国王よね。あの人、まだ生きてたの?」
「はい、クリス様の従者からいただいた薬のおかげで病気が治ったとおっしゃってました」
……えっと、付き人さんの恋人さんが、南のジンバーラ国の元国王?
で、その元国王の病気を治したのがコーマさん?
……女王の付き人が他国の元国王の恋人って問題にならないんでしょうか。
そう尋ねたら、「あぁ、あの人なら大丈夫よ」とのこと。んー、政治の世界は難しいです。
「クリス様は御存知なかったのですか?」
「全く知りませんでした」
今度、コーマさんに会ったら詳しく聞きましょう。
あと、近衛兵のみなさんがどうしたらいいのか困っているうちに、私は食堂を出ていきました。
「クリスお姉さま! リーリエは、リーリエはいつまでもお姉さまのお帰りをお待ちしております」
んー、帰らないでおこうかな。
この時は本当にそう思いました。




