通信イヤリングは俺の頭を悩ませる
~前回のあらすじ~
エリエールと森の中であった。
迷宮とは、ラビスシティーの中央に入口がある地下空間のことを言う。
まず、入口から地下10階層まで伸び、10階層より下には大きく枝分かれした迷宮が存在する。
俺達の魔王城があるルシルの迷宮、マユがいた蒼の迷宮、パーカ人形がいっぱい落ちる迷宮や、中にはマグマの流れる迷宮なんていうものもある。
地下11階層は入口ごとに別の空間に繋がっていると推測され、その広さは迷宮によって大きく異なる。
そして、迷宮に住む魔物を倒すと、普通のドロップアイテムの他に、魔石と呼ばれるアイテムを落とす。
この魔石は、多くの魔道具の材料となっており、そして迷宮以外で獲れないため、ラビスシティーにとって最も重要な収入源となっている。
基本的に冒険者が倒した魔物の魔石に関して所持は自由になっているが、町の外への持ち出しが大きく制限される。
いや、禁止されているといってもいい。
特別に許可された商人が限られた量を、定められた交易所に卸す。
それだけだ。
そのため、密輸された魔石は高値で取引されているが、どこかの誰かが作った魔石の反応を調べる魔道具、魔石チェッカーのせいで密輸が難しくなり、さらに値段が上がっているという。
つまり、迷宮がラビスシティー以外に存在を確認できた場合、それは魔石の相場が大きく変動してしまう。
下手したらラビスシティー崩壊の序章と言えなくもない。
というのが表向きの理由。
もう一つ。
迷宮の奥には魔王と呼ばれる存在がいる。
俺やマユも魔王の一人。そして、昨日出会ったあのベリアルも。
ベリアルの迷宮がどこにあるのかはわからない。
そして、マユは言っていた。
魔王は迷宮を全て己の身に受け入れるためにいる。そして、自分の迷宮を全て受け入れたら、今度は他の迷宮を喰らうために動く。
そう言われても、俺は迷宮の喰い方なんてわかっていないんだけどな。
ただ、こうなると、この付近にあるという迷宮、そこにも魔王がいる可能性がある。
そして、ある仮説が浮かび上がる。
ベリアルは、この付近にある迷宮を喰らうために来たんじゃないのか?
となれば、俺達がその迷宮に近付くというのは得策ではない。
むしろ愚策だ。
俺とコメットちゃん、タラはそれぞれ目配せをした。
エリエールを迷宮に行かせてはいけない。
そう纏まった。
「あ……あぁ、エリエールさん、迷宮にはなぜ行くんですか?」
「迷宮があるかを確かめるためです。眉唾物だとは思いますが」
「あぁ、そうだ、眉唾眉唾」
実際は、ベリアルがこの国にいたことで、現実味がかなり高い。
だから困るんだよ。
「では、もう少し探してから――」
「あ、あぁ、俺、エリエールさんと一緒に観光したいと思ってるんだ。この国って教会とか有名なんだよね? 一緒に見に行かない?」
「きょ……教会ですか!? それはどういう意図でしょう?」
ん? やけにエリエールさんが教会にくいついた。
もしかして、興味あるのかな?俺も多少はある。
なぜなら、日本にいたころ「世界の教会」という本を30冊全巻集めたことがある。
メジャーであるが、フランスのモン・サン・ミシェルの景観には感動した。
アイテムマスターとして、8億を越えるアイテム図鑑の項目を埋めるという使命があるが、それが終わったら、世界の教会を全て廻るのも悪くないかもしれない。
俺はそう言おうとして、
「将来の予行として……いえ、なんでも」
俺は思わず口を濁した。
彼女は俺のことをパーカ人形のコレクターだと思っているし、その通りだ。
そんな俺が教会を巡ることを趣味に持っていると知られたら、彼女は俺のことを見下すだろう。
それに、考えてもみれば、俺は魔王だ。魔王が神に祈るなんてどうかしている。
「将来の予行……ですか! わかりました! 行きましょう!」
「え……いいんですか?」
「はい、わたくしもコーマ様と同じ気持ちですから」
なんと! まさかエリエールもパーカ人形集めだけじゃなく、教会を巡る趣味があるとは。
んー、こんな偶然ってあるんだな。
「わ、私も行きます! 私も将来の予行のためにぜひ教会に」
コメットちゃんも乗り気のようだ。へぇ、今は教会がブームなのかな。
って、ちょっと、なんでそんなに急かすんだよ。まだ昼飯もほとんど食べてない。そう思っていたら、俺の通信イヤリングが鳴った。
「あぁ、クリスからだ」
そういえばすっかり忘れていた。
あいつもこの国にいたんだな。
俺は通信イヤリングを手に取った。
耳に当てると、クリスの声が聞こえてくる。
『コーマさん! 聞いてください、私、今どこにいると思います?』
俺の仕える勇者様は、もともとバカだったが、とうとう質問の内容もバカになってしまったようだ。
王城にいるのなら王城だろうし、王城にいないのならどこにいるかなんてわかるわけないだろう。
「あぁ、どこにいるかはわからないが、病院にいるのなら頭を見てもらえ!」
『なんで頭を見てもら――いたっ、頭打った……まさか、コーマさんの仕業ですかっ! だから頭を見てもらえと!?』
「俺はエスパーじゃないからそんなことはできないし、お前がどこにいるのかもわからない。それより、用がないなら通信切るぞ」
『あぁ、待ってください。私のいる場所を聞いてくださいよ』
いつにもましてうざいなぁ。
どこにいるって言うんだよ。
『私、今、谷の底にあった迷宮にいるんです! 凄くないですかっ!? ラビスシティーの他にも迷宮があるなんて!』
……バカクリスがぁぁぁぁっ!
俺は声にならない怒りを感じた。
俺の仕える勇者様はいつにもましてトラブルメーカーだった。
~前回のあらすじ~
エリエールと森の中であった。
……「森の香りのするトイレットペーパー」ですね。




