すれ違うも残すは殺戮の香り
~前回のあらすじ~
食道楽開催
私は、リーリウム王国の王城の中の食堂で、二人きりで食事をしていた。
長いテーブルに二人切りという最高に贅沢な場所。
だが――
「えっと、リーリエちゃん、いつもこんな食事を?」
「いえ、今日はクリスお姉さまがいらっしゃると聞いたので、特別豪勢にいたしました」
特別豪勢……ですか。
パンとサラダとワイン。
……昨日宿屋で食べた食事には、ここにさらに厚切りの肉が乗っていました。料金は全部コーマさんが支払ってましたけど。
それに比べたら質素すぎる。
硬いパンに、サラダはほとんど野菜の切れ端だ。
「あ、ワインは頂き物ですので……全く、名前を書かれたら売る訳にはいきませんから」
ワインには「エドワードから、リーリエに贈る」みたいなことが書かれている。
きっと、これがなかったら、彼女は喜び勇んでワインを売り払っていたんだろうな。
「リーリエちゃん、ちょっとやりすぎでは?」
「いえ、あの時のクリスお姉さまの言葉にリーリエは感動いたしました! 王たるもの、率先して民の模範となるべきだと! だから、私は民の模範となるべく、一人の時は質素倹約して生きております!」
……あぁ、お願いします、コーマさん。
ツッコミ役のあなたがいないと、私一人では対処しきれません。
レモン水を注ぎに来た顔見知りの給仕人さんに、私は小声で囁きます。
彼女はリーリエさんの付き人を兼ねていて、リーリエちゃんと一緒に私が誘拐した人で、その時はいろいろとお世話になりました。
(リーリウム国の財政はそんなに悪いんですか?)
(いえ、リーリエ様が女王になられてから右肩あがりです)
(なら、どうしてここまで?)
(クリス様の言葉が原因ではあると思いますが、もはやこれは趣味ですね。周りも迷惑をしています)
……趣味ですか。
なら仕方ありませんね。
「ところで、クリス様にお尋ねしたいことがあります」
質問ですか。
そういえば、酒場でもよくこういう時に男の人から質問されることがあります。
最近特に多いことですが、それでしょうか?
「3サイズですか?」
「それは後程伺い……いえ、今お教えください」
リーリエちゃんが詰め寄ってきました。
えっと、前にサイモンさんに「売れる情報をただで教えるな」と怒られたので、話しちゃだめなんですが。
「リーリエ様。話を続けてください」
付き人さんに言われ、リーリエちゃんは彼女を睨みつけましたが、私が少し困った顔をしていたのに気付いたのか、
「そ……そうですね。では、クリス様、3サイズの件は後程」
そういって、椅子に深く座りました。
「クリス様、ゴブリン王を御存知ですか」
「えっと、魔物の王ですよね? 魔王とは別の……多くの魔物を従える能力を持ち、世界に混乱をもたらすという。子供のころにおとぎ話としてお父さんが話してくれました」
2000年も前に現れた、とか。
その時に100を超える町と7つの国、そして一つの大陸が滅んだ、とか。
おとぎ話としては誰でも知っています。
「そのゴブリン王の話は、嘘ではありません」
「嘘じゃない? ゴブリン王は本当にいたんですか?」
「いいえ、ゴブリン王はいませんでした」
……?
言っていることが矛盾しています。
コーマさん、やっぱりツッコミのあなたがいないと話がまとまりませんよ?
「えっと、じゃあ、ゴブリン王はいないのに、ゴブリン王の伝説は本当、ということですか?」
「はい、そうです」
ますます意味がわかりません。
とりあえず、スープを飲んで話を聞きます。
「あ、このスープおいしい」
「本当ですか!? お姉さま、このスープはリーリエがお姉さまを思って昨日から下ごしらえをしていたんですよ」
「え? このスープ、リーリエちゃんが作ったの?」
「はい、誰でも簡単に作れますから。クリスお姉さまにも作り方教えますよ」
※※※
なんだろ、無性にツッコミを入れたくなってきた。
「おい、コーマ! 飲んでるかぁっ!」
上機嫌で八百屋の親父が俺に声をかけてきた。
手には半分ほど減った酒瓶が握られている。
「だから、言ってるだろ、俺は酒は飲めないんだって。それより、料理がまだまだ残ってるんだから、とっとと食べてくれ!」
「おうよ、うまいな、この唐揚げ」
「ちがう、それはザンギだ! 俺も違いがわからないが、鑑定ではそう出てるんだからザンギなんだよ」
本当に俺には違いがわからない。
唐揚げも別にレシピは存在するので、別の料理な気がするんだけど、見た目も味も唐揚げとかわらない。
とにかく、俺はアイテムバッグの中から、まだまだある料理を出していく。
向こう側で、
『クリスティーナ様、かんぱーい』
『勇者様、かんぱーい』
『クリスティーナ様、かんぱーい』
『勇者様、かんぱーい』
とクリスをたたえる乾杯が続けられている。あいつらも出来上がっている。
はぁ、酔っ払い用の場所と酒を飲まない人用の場所をわけていてよかった。
あんな馬鹿な大人を子供には見せられない。
なんだと、あいつ。
ライオンみたいな金色の髪型して、樽ごと酒を飲むなよ。
金貨1枚で足りるのか?
あとで酒場のマスターに聞いて、足りない分は支払わないといけないな。
「……ん?」
俺はライオン鬣の男を見て、眉をひそめた。
筋肉質の2メートルはあるかという巨漢の男。
獣の毛皮と半パンを履いてる獣のような男。
一体、どれほど強いのか? そんなことを思ってみた。
【HP8700/8700 MP0/0】
【咆哮レベル10・百裂咆哮撃レベル10・ど根性レベル10・一撃必殺レベル10・剛力レベル10・肉体強化レベル10】
「すげぇな、あいつ……」
ぽつりとつぶやいた。
その時、男の耳がピクピクと動いた。
そして俺を笑って見てきた。
「おい、お前かっ! 俺様のことをすげぇって言ったのは!」
うわ、でかい声で話すな。
ていうか、俺のつぶやきが聞こえるって、どんな聴覚だよ。
「あ、あぁ、凄い髪型だなって思ってさ。まるで百獣の王だな」
「ん? おぉ、わかるか? まぁ、俺様は百万獣の王って感じだがな」
ガハハハと笑う男は、俺の肩をバンバンと叩く。
いて、いてぇよ。
「お前か? このパーティーの主催者は。いやぁ、俺は普段金とか持ち歩かねぇからよ、酒とか飲めねぇんだわ。ほら、無銭飲食とかって情けないだろ?」
「なら働けよ……っていてぇよ」
「がはは、いいから褒めさせろ。俺様が人間を褒めるなんて珍しいんだぞ」
人間を褒める?
「まるで人間以外を褒めている様子だが」
「おう、前はうちで前飼ってたワンコを褒めたぞ?」
「あぁ、そうか……頭が痛くなる」
「お、頭痛か? なら酒飲め、酒飲んで吹き飛ばせ、ガハハハっ!」
悪いやつじゃなさそうなんだけどな。
でも、とてもうざい。
「よっしゃぁ、おめぇら! 今日はとことん飲むぞ!」
男はそう言って笑って去って行った。
本当にあいつ、何者なんだ?
そして、パーティーは夜遅くまで続いた。
結果、料理は9割なくなり、酒の金額は金貨3枚まで跳ね上がった。
酒場のマスター及び、酒屋は俺からの受け取りを拒否したんだが、クリスに怒られると適当にウソをついて金貨2枚をきっちり受け取らせた。
だって、金貨2枚って大金だろ?
ということで、楽しい日は続き、宿屋の安い部屋に戻った俺は、魔王城に戻ったのだが、
「あ、コーマおかえ――って、コメット、タラ、どうしたのよっ!」
俺が魔王城に戻ると、コメットちゃんとタラが大きく後ろに飛びのいた。
今までに見たことのない警戒心を出している。
え? もしかして俺のことを忘れた?
「コメットちゃん、タラ、どうした?」
俺が訊ねると、コメットちゃんが……
「す、すみません。コーマ様から、あの方の匂いがしたので」
あの方?
「……主よ……主の背中から、ある匂いがする。主はその者と出会ったのではないのですか?」
タラが言う。
ある匂い?
背中?
「一体、誰の事だ?」
俺が訊ねると、タラは冷や汗を流して、その名を俺に伝えた。
「暴虐の魔王……ベリアル……某とコメットがかつて仕えていた魔王の名前でございます」




