百合は綺麗に咲き誇る
~前回のあらすじ~
女王は百合だった
「リ、リーリエ女王陛下……あの、そろそろ離れてくれませんか?」
「嫌です! 前みたいにリーリエちゃんとお呼びください!」
……クリス、女王陛下……いや、当時は王女だったのか。どっちにしても王女をちゃん付けで呼んでたのか。
「こ、コーマさん! 違うんですよ、私が望んだんじゃなくて、そのですね、身分を隠すために」
「名前を呼んだら意味がない気がするが……」
クリスが俺に声を掛けたためか、リーリエが俺の存在に気付いたようだ。
「おや、今日一緒にいるのは、あのペテン師じゃないんですね」
あ、ダメ女王かと思ったけど、一応人を見る目はあるようだ。
やっぱり、普通の感性があれば、サイモンはペテン師だよな?
「もう、リーリエちゃん。サイモンさんは詐欺師じゃないですよ」
クリスは女王陛下を「ちゃん付け」で窘め、
「彼は、私の従者のコーマさんです。鍛冶師でして、私の剣もコーマさんが作ってくれたんですよ」
鍛冶師? あ、そうそう。鍛冶師だ。
「コーマです。女王陛下にお会いできて光栄です」
「ペテン師がペテン師かどうかは永遠に平行線を辿りそうなので追及するのは辞めますね」
女王陛下は、俺と同意見のことを言った後、俺をつま先から腹の当たりまで見て、またつま先まで見た。
頭のてっぺんまで見ろよ。
「うん、いいでしょう。見るからに童貞の人畜無害そうな男です。特別にクリスお姉さまの従者であることを許可します」
童貞は余計だ! 何様だよっ! あ、女王様か。
「クリス様、そろそろ例の手紙を……って背筋を震わせないでください。私が敬語を使ったらおかしいですか」
「だ、だってコーマさんですし」
せっかく人が気を遣ってやっているのに。
「コーマだっけ? いつも通りでいいわよ」
「よろしいのですか?」
「ええ。問題ないわ」
うん。じゃあ、いつも通りいかせてもらおう。
「いい加減にクリスから離れろ百合女王! あとクリスもとっとと手紙を渡せ!」
そう言い、俺はアイテムバッグからハリセンを取り出してどつきまわした。
何故か、背後の兵たちは駆け付けるどころか拍手していた。
※※※
「全く、女王を叩くとは……全く痛くなかったから問題にはしないけど、本来なら死刑よ」
謁見の間に移動しても、リーリエはぶつぶつ言っていた。
「女王なら女王らしい態度で接しろ……ったく」
「人畜無害と言ったのは間違いね。お姉様、こんな粗暴な輩、とっととクビにしてください」
「えっと、クビにしたら、借金の返済が」
そう、俺が従者じゃなくなったらクリスには即刻全額支払ってもらうと言っている。
まぁ、冗談みたいなものだが。
「まぁ、金でお姉様を縛ってるのですか! いくらですか! 私が今すぐお姉さまの解放を致します」
「え、いいですよ! 大した金額じゃないので」
「それなら尚更です。いいから言ってください!」
クリスは詰め寄られ、ひきつった笑みでその金額を答えた。
「金貨87枚と銀貨50枚、銅貨3枚です……」
「なるほど……わかりました。私が代わりに支払います」
支払ってもらうというのなら支払ってもらおう。
それでもクリスの従者をリストラされるとは思えないが、もしリストラされたら、スーの従者になるかな。
……なんか、今の発言、完全なヒモ男だな。
それにしても、流石は女王だな。豪気なことだ。
「端数――まけなさい」
訂正。かなりケチな女王だった。
「構いませんよ」
「では、これを」
女王陛下は、がま口の財布……女王なのに赤いがま口の財布を取り出し、
「では、これで」
銅貨3枚を俺に渡した。
「ってなんでだよ! 端数をまけろじゃなくて、端数だけにまけろって意味か!」
「仕方ないでしょ! リーリウム国は財政難なのよっ! 女王だからって自由にお金を使えるとは思わないで!」
「コーマさん、リーリエちゃんは女王として善政を敷くにあたって、まずは自分の私財を全部売り払って政策に使っているんです」
……へぇ、意外としっかりした女王なんだな。
「同情の目はやめてよね。ただでさえ、リーリウム国は教会派と王族派で揉めてるのに、お父様の代で身内同士が揉めて、いろいろと大問題なのよ」
リーリエはそう言って、クリスから受け取った手紙を見て、
「でも、財政的にはなんとかなりそうね」
「え?」
「リーリウム国とラビスシティーの同盟の申し出よ。同盟を受けたら1000キロの魔石を毎年援助してもらえることになるわ。ていうか、同じ内容が教会経由で届いているからその会議もしないといけなかったのよ」
あぁ、門のところで謁見を全て断っていたのはこのためだったのか。
まぁ、こんな大事な内容の手紙だ、クリスだけに任せているということはなかったか。
「1000キロ……そりゃ豪快だな」
確か、10グラムで銀貨1枚くらいだったから、1キロで金貨1枚、1トンだと金貨1000枚か。
10億円……いや、10グラム銀貨1枚というのもラビスシティー内の金額であって外では十倍程度になるという。
ならば100億円?
それが毎年、確かに凄い収入だ。
「で、見返りにこの国は何をするんだ?」
「武力協力ね。ラビスシティーが攻められた時、私達も援軍を出す。いいえ、出さざるを得ない。ラビスシティーが他の国に乗っ取られでもしたら、この毎年の援助は打ち切られるのだから」
「……受けるのか?」
俺は率直に訊ねた。
つまり、自国民を戦争の危険に晒す代わりに援助を受ける、ってことだよな?
「……ここで決めることじゃないわ。議会で話し合って決める。最終的な判断は私の意見が尊重されるだろうけど」
リーリエは俺を見て、
「どうして、この話をあなたにしたかわかる?」
「……どうしてだ?」
「この決断には凄い重圧がかかる。胸が押しつぶされそう」
とても辛そうな顔で言った。
国一つを背負う者の言葉がそこにあった。
百合女王だとバカにしていたが、俺にはできないことだ。
日本人的には、100億円の国家予算のために、数千人を戦地に送るなんて、何を考えてるんだ! とか思うだろう。
でも、ここはそうじゃない。
国の状況はわからないが、1000人が命がけで戦うことにより、10000人の飢えがなくなる、と思ったらどうだ?
結果的に9000人が助かる。
国を背負うというのは、国民を数と質で天秤にかけた政策をとるということなのだ。
「だから、お願い! 私の癒しのために、クリスお姉さまを私の傍に!」
「うん、いいぞ! ていうか、流石だな、女王様。もう俺とクリスの関係性に気付いたのか」
つまり、俺とクリス、どっちが本当の主人かを見抜いたってことだ。
「まぁ、羨ましいけど、その通りよ。じゃあ、そういうことでお姉さま、私と一緒に執務室へ」
「そういうことだ、クリス! 頑張れよ! 俺は一人で観光してるから! 会議が終わったら通信イヤリングで連絡してくれ」
「え? どういうことですか、リーリエちゃん! コーマさん!」
一人混乱しているクリスを捨て置き、俺は一人、リーリウム国の城下町へと繰り出した。
昨日もお伝えしましたが、ブラックバスのあとがきは、別枠連載となりました。
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ネタ作品ですので早めに完結させます。




