隷属の首輪はカチリと外れ
~前回のあらすじ~
もう超精力剤が作れない
事情を話すと、コーマ様は静かに聞いてくれました。
話している間に、私もまた落ち着きを取り戻し、恥ずかしくなった。
失敗談を延々と話したのだから。
「それで泣いてたのか。ていうか、怒っていいか?」
「はい、コーマ様が信用して私に店を任せてくださったのに、いきなりこんな大失態を」
「そうじゃない。メイベル、地下迷宮に入ろうかって思ったって言っただろ」
……はい。私は地下迷宮に入って寄生茸の採取を行おうとしていたけれど、勇気がないせいで迷宮の前で悩んだ挙句、何もせずに店に戻った。
「全く、危ないことするなよ。メイベルは戦闘能力ないんだから。迷宮1階層といったって、魔物は普通の人より強いんだぞ」
「え? あ……はい」
思わぬことを注意された私は驚いたけれど、頷いた。
そして、コーマ様は嘆息を漏らすと、キノコを3本、そしてイモリの黒焼きをアイテムバッグから取り出した。
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寄生キノコ【素材】 レア:鑑定レベルが足りません。
説明1:鑑定レベルが足りません。
説明2:鑑定レベルが足りません。
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「コーマ様、これ……」
「ていうか、困ったことがあれば俺に相談しろよな。こんなものなら大体は持ってるんだから」
「でも、コーマ様はもう店のオーナーではないですし、私がオーナーとして頑張らないと」
そうです。もうコーマ様と私の関係は、オーナーと雇われ店長ではないんだし、もうすぐ主と奴隷でもなくなってしまう。
「いや、オーナーじゃなくても俺はメイベルが困ったら助けるぞ?」
「え?」
「だって、俺がオーナーじゃなくなっても、メイベルが奴隷じゃなくなっても、メイベルはきっとバカだから俺の無茶な頼みくらい平気で聞いてくれるだろ?」
「バカって何ですか、バカって!」
もちろん聞きますよ。
コーマ様に頼まれたら、無茶どころか不可能と思えることだってやってみようと思います。
だって――コーマ様は私に――大切なものをいっぱい下さったんですから。
「だから、俺もメイベルのためにできることはするよ。だって、俺はメイベルとの絆が無くなることが一番の損だからな」
「……損?」
「あぁ、俺は損得勘定でいえば、店の権利とか、メイベルとの主従関係とかなんて関係のない二人の絆を保つことが一番得だと判断したんだよ」
……あ。
あれは、私がコーマ様の奴隷になる前。私がコーマ様に言ったセリフだった。
『コーマ様に損得勘定があるとすれば、この店を引き払ったら損だと思わせるほどに店を大きくしてみせます』
結果的に、コーマ様にとって店のオーナーであることは得だとは思えなかったようだ。
でも、それ以上に私との絆を大切だと、得であると仰っている。
それは、とてもうれしくて……とても光栄で……とても怖い。
絆ほど不確かなものはない。それなら、私はこのままコーマ様の奴隷として……この首輪をつけたままいたほうが。
「メイベルはこの店をどんな店にしたいんだ?」
「え?」
「メイベルの理想の店って、どんな店なんだ?」
私の理想の店?
私は、ただお父さんが経営していた店を失いたくなくて。
お父さんのお店。
商品を買う人全員が笑顔になれる店がとても好きで。
それを見ていると私も幸せになって。
あ、そっか。
「…………私、自分のために店を経営したかったんだ」
死んだお父さんのためだとか、私を信用して店を預けてくださったコーマ様のためじゃない。
ただただ、私はみんなを笑顔にすることで、私が幸せになりたかったんだ。
「じゃあ、俺と一緒だな」
コーマ様は笑顔で言った。そして、その笑顔はどこか寂しそうです。
「俺が生きてるのも、結局は俺のためなんだろうな。あいつのためだとか言ってもそれは変わらないんだ。あいつはそんなの求めていないから」
“あいつ”が誰かわからない。でも、私も一緒なんだろう。お父さんのためといっても、お父さんはきっと私には自由に生きてほしいと祈っている。
そして、私は自由に生きた結論がこの店だった。
ここが、私のための私の場所だから。
「……コーマ様、私、この店で頑張っていいんですよね」
「ああ、いいよ。ただし、頑張りすぎて変な方向に行きそうになったら止めてやる。それくらいの役目は俺がしてやるよ」
そう言って、コーマ様は私の首を優しく触りました。
カチッという音がして、私を今まで縛っていた隷属の首輪がきれいに外れました。
コーマ様はその首輪をアイテムバッグの中に入れ、代わりに何かを取り出しました。
手のひらに握られていて、それが何かわかりません。
「なぁ、メイベル。俺とメイベルが出会ったきっかけなんだけどさ、実はプラチナリングを大量に手に入れて、それを売った金が元だって話したっけ?」
「いえ、初めて聞きました」
「そっか。まぁ、だからというわけじゃないんだけどさ、俺とメイベルの出会いを記念して、友達リングでも贈ろうかと思うんだけど」
「友達リング……?」
友達。
その言葉に私は少し落胆しました。
でも、コーマ様から指輪がいただけるのはとてもうれしいです。
男の人からの初めての指輪。その相手がコーマ様だなんて、幸せです。
「じゃ、右手の薬指を出してくれないか?」
「右手薬指ですか?」
左手薬指は愛を意味すると聞きましたけど、右手薬指はどういう意味だったでしょうか。
「ああ。右手の薬指は自分らしさを意味するらしいからな。メイベルにちょうどいいだろ?」
「自分らしさ……?」
「いやぁ、本当はペアリングにしようとか思ったんだけどさ、俺とメイベルはすでにイヤリングで繋がってるしな」
コーマ様は左手で自分の耳を触りました。
そこには三つの通信イヤリングがつけられています。
……コーマ様は私以外にも多くの人と繋がっている。
でも、私とも繋がっている、いまはそれだけで十分ですね。
私は右手をだすと、コーマ様は左手を私の手の下に添え、指輪を……私の薬指にはめてくださり――
「ミ……ミ……ミ……ミス……ミ……はう」
私はそのまま意識を失った。
気を失う直前に見たのは、
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ミスリルの指輪【装飾】 レア:鑑定レベルが足りません。
説明1:鑑定レベルが足りません。
説明2:鑑定レベルが足りません。
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夢にまでみたミスリルの指輪だった。
そして、夢が現実になったとき、私は当然現実を受け止めきれなかった。
※※※
「で……コーマ様。これはどういうことでしょうか?」
「いや、ほら、俺、工房とか持ってなかったし」
翌日、ジンバーラ国元国王に超精力剤をお売りした直後、私はコーマ様を呼び出しました。
一階は、錬金術の設備。遠心分離機や何十種類のフラスコ、試験管、書物が置かれている。
正直、どこの王立研究所? という設備だった。
奥の部屋には、二人分のベッドと勉強机、そして絵本や玩具が置かれているし、シンクなどの台所やトイレやお風呂などの生活に必要なものが全て揃っている。
これは全てクルト君とアンちゃんのために用意されたのでしょう。
二階は鍛冶工房になっていた。炉や金床、金鎚などが置かれている。
部屋の造りはクルトくんの部屋とほぼ一緒だが、ベッドが一つしかない。
ここはコーマ様の工房ということなのだろう。
とても重そうなものばかり置かれているのに、床は抜けないのだろうか?
そう思ったけれど、まぁ、コーマ様なら大丈夫なのでしょうね。
だが、問題はそこじゃない。
その工房のあった場所が、昨日まで更地だったということだ。
「いやぁ、一日で建てるのは苦労したんだけどさ、クルトはともかく、アンちゃんを空き巣の入る倉庫で寝させるのは今更ながら危ないと思ってな」
「一日で……昨日、疲れたと言ったのは」
「昼間のうちに外装は終わってたんだけど、気付かなかったのか? そういうわけで、今日からお隣さんだからよろしくな、メイベル」
「……はぁ……コーマ様、一つだけ言わせてください」
私は疲れたので本当に一つだけ言いました。
「少しは常識の中で行動してください!」
そう怒る私の右手薬指には、ミスリルの指輪が輝いていました。
~やっとコーマはこのスライムを作りました~
歯車(中)×2×鉄のインゴット×スライムの核。
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ロボスライムγ【機械生命】 レア:★★★★
機械仕掛けのスライム。とても固いボディーを持つ。
α、β、γが揃うと超絶ロボスライムに変形合体する。
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ついに集まったロボスライムα、ロボスライムβ、ロボスライムγ。
三匹が一か所集まり
コーマ「合体するな! Bボタンキャンセルだ!」
思わぬ妨害にあったロボスライム3匹は、固まって動かない。
コーマ「お前らは保存用だから合体したらダメ。今度は合体用を作るから」
俺は何かを集めるとき、余裕があれば、
「保存分」「使用分」「交換分」
を集める。余裕があるから、あの三匹は保存分に決まりだ。
これがコレクターの性。
というわけで、超絶ロボスライムが誕生するのは、もう少し先の話。




