依頼の品は超精力剤
~前回のあらすじ~
元国王が襲来した。
「ヤッホー、アーちゃんだよぉ!」
……え?
老紳士が、自分のことを「アーちゃん」と呼称しなおした。
さっき、自分のことを、ジンバーラ国元国王だと言い切った男の人が、である。そうなると尊厳もあったものじゃないのだが。
でも、それが嘘ではないのはわかる。
だって、胸のペンダント、マント、靴、そして全ての服装、どれも高価な品である。
彼の来ている服一着で、節約したら私なら10年は暮らせるくらい。
でも、どうして元とはいえ国王様が?
「ようこそいらっしゃいました。何かお探しの品がありますでしょうか?」
私はできる限り平静を装った。
父が店を構えてすぐに、当時のエルフ国の大臣が訪れたときも、父はこんな気持ちだったんだろうか。
私は緊張して声も出せなかったのに、父はいつも通り接客をしていた。
きっと、父も同じだったのだろう。
緊張してどうしたらいいかわからないからこそ、いつも通り接する。
培ってきた商売人としての時間はウソをつかないから。
「うむ、以前、ここにあるという超精力剤をいただいて、できればもう一本いただきたいのじゃが」
超精力剤……また厄介な品が。
あれは効果がありすぎて、販売禁止にした品だ。
「通常の精力剤でしたら、3本の在庫がございます。ですが、超精力剤は、当店では現在扱っておりません。もしよろしければ、仕入れができ次第お知らせいたします」
「ふむ……それで、どのくらいの時間で入荷できる?」
「少々お待ちください。仕入れ担当の者に伺ってきます」
私は倉庫に移動し、通信イヤリングを握った。
そして、思い直す。
ダメだ。私が今はオーナーなのだ。
すぐに倉庫の奥にあるクルトくんの工房へと移動した。
クルトくんが、中でポーションを調合していた。
アンちゃんはお布団で寝ている。絵本を読んでいる途中だったのだろう、ページが開きっぱなしになっている。
「クルトくん。一つ聞きたいんだけど、超精力剤って薬、作れるかしら?」
「通常の精力剤じゃなくてですか?」
「ええ。前にコーマ様が作ったものなんだけど」
「師匠が……あの、超精力剤ってどんな字を書くんですか?」
私は筆と紙の切れ端を使い、その字を書いてみる。
「この字、見たことあります。えっと……はい。作れると思います」
「……どのくらい時間がかかりそう?」
「材料に精力剤が2本、あとイモリの黒焼きがあれば2時間ほど」
「うっ、そんなの使うの?」
「イモリの黒焼きは古来より精力剤としてではなく、惚れ薬としても使われていましたから」
知らなかった。でも、イモリの黒焼きなら、確か――。
私は倉庫に戻り、レモネを見かけた。
「レモネちゃん、お願いがあるの! リュークさんの店に行って、イモリの黒焼きを買ってきて」
「イモリの黒焼き……もしかして、今日の晩御飯ですか?」
「そんなわけないでしょ! 薬の材料よ。もしもイモリの黒焼きがないようなら、ギルドに依頼を出して、イモリを捕まえてきてもらって。報酬は銅貨30枚でいいから」
銅貨30枚。イモリ1匹の値段としては破格すぎる。
イモリは水場でよく見かけるので、依頼をだしたら30分以内には届くだろう。
「わかりました。すぐに行ってきます」
レモネはそう言うと、裏口から出て行った。
そして、私は店に戻り、精力剤2本を確保。
「お客様、当店の薬師に今から作らせます。明日までには用意させていただきます」
「明日までか。よし、では今夜は精力剤を1本もらおうかの」
「かしこまりました」
私は残りの1本の精力剤をお客様にお渡しした。
これが、おそらく私がオーナーになって初めての大きな仕事。
でも、この分だと問題なく終わりそうだ。
「では、この精力剤で、今夜は酒場のハニーちゃんとラブラブしてくるかの」
「パパ、娘の前で私のママ以外の女性の名前を言うのはやめてよ」
「……不愉快」
そんなことを言いながら、元国王のアー様と、スー様、シー様の三人が去って行った。
※※※
だが――3時間後、問題が起きた。
クルト君が青ざめた顔をしてやってきた。
そして、その理由が私にもわかった。
……………………………………………………
惚れ薬【薬品】 レア:鑑定レベルが足りません。
説明1:鑑定レベルが足りません。
説明2:鑑定レベルが足りません。
……………………………………………………
出来上がった薬が、超精力剤じゃなかったのだ。
一体、どうして?
「すみません、レシピ通りに作ったのですが、どうしてか」
「……ねぇ、クルトくん。その尻尾、見せてもらっていい?」
使わなかったイモリの尻尾らしきそれを見て……私は目眩がした。
これはイモリの黒焼きではない。よく似ているけれど、ヤモリの黒焼きだ。
よく間違えられる商品のため、鑑定スキルを持たない店主は、ひとくくりに黒焼きとして販売している。
リュークさんの店もその一つだった。
……失敗した、私がきっちり鑑定しなかったから。
「クルトくん、もう一度超精力剤は作れるかしら?」
「材料があれば。MPもまだ余裕はあります」
「……材料、精力剤がないのよ。一本も」
「それなら、精力剤の材料が必要です。蒸留水はあるので、できれば火亀の血、なかったら寄生茸」
「……わかったわ。寄生茸に火亀の血ね」
私はその足でリュークさんの店に向かい、寄生茸か亀の血がないか調べることに。
寄生茸は、迷宮1階層にいるワーカーアントに寄生する茸で、結構高いアイテム。
火亀の血はマグマ迷宮でしか取れないアイテムなうえ、液体なのでなかなか店に入荷されることがない。
リュークさんの店でも、やはりそれらの商品はなかった。
私は次にギルドに向かい、緊急クエストを出す。
寄生茸2個。報酬は1個につき銀貨30枚。火亀の血も2瓶。報酬は1本金貨1枚。
破格すぎるその値段にレメリカさんは本当にいいのですか? と再度尋ねたが、私は頷いた。
これで手に入らないのなら、値段を上げても手に入らない。そういう値段設定だ。
そして、私はレメリカさんにお願いすると、店に戻った。
それからは何事もなく時間が過ぎて行った。
夕方になり、私は再度ギルドへ向かった。
だが――
「寄生茸、1個はすぐにギルドに届いたのよ。でも、2個目がなかったわ」
「…………そうですか。ありがとうございます」
レメリカさんから言われたのはそんな一言だった。
そして、私は寄生茸を1個持って店へと帰る。
これが、私のオーナーとしての初仕事?
いままで店長として切り盛りしてきて、何でもできる気になっていたのに……。
ううん、こんなことは初めてではない。店を経営する上では必ずあることだ。
そう思おうとし、でも無理だとあきらめた。
そして、私はふと横を見る。
地下へと続く階段。
誰でも入れる階段。
迷宮の入り口。
寄生茸に寄生されるワーカーアントは1階層にいる。
魔物の中では最下級。
ならば――
※※※
私が店に帰ったときはすでに夜だった。
従業員のみんなもすでに寮に戻っている。
その中で、レモネだけが私を待っていた。
「おかりなさい……あの、店長、私……」
「レモネちゃん、お疲れ様。もう上がっていいわよ」
「あの……」
「大丈夫、イモリとヤモリの黒焼きは鑑定スキルがないと見分けるのが難しいし、誰でも間違うものなのよ」
私はレモネの頭を撫でて、寮に帰らせた。
そして――私は自分が手に持つ寄生茸の入った袋を見た。
結局、私は迷宮の中に入ることができなかった。
入る勇気なんてなかった。
こんなんで私は――
「メイベルいるか……っておい、なんで泣いてるんだよ」
店の裏口から入ってきたコーマ様を見て、私は目から涙が溢れた。
~裏でコーマはこんなものを作ってました~
歯車(中)×2×鉄のインゴット×ヌライムの核。
……………………………………………………
ロボヌライムγ【機械生命】 レア:★★★★
機械仕掛けのヌライム。とても固いボディーを持つ。
α、β、γが揃うと超絶ロボヌライムに変形合体する。
……………………………………………………
コーマ「よし、三匹揃ったぞ! よし、早速合体しろ!」
ルシル「何も起きないじゃない」
コーマ「あ! これ、メカスライムじゃない、メカヌライムじゃないか」
ヌライムの核が混ざっていたようだ。
コーマ「ま、まぁ、スライムの核も歯車も鉄インゴットもまだあるからロボスライムγはまた作ればいいんだが」
……ヌライムの核ってどこにあるんだ?
ロボヌライムαとβも(コレクターとして)作らないといけないのだが。
そもそも、ヌライムの核をどうやって入手したのかも覚えていない。
……ヌライムの核の入手方法がわかるのははるか未来。
それまで俺はモヤモヤした気持ちでロボヌライムγを見ることになった。
ちなみに、ヌライムの核で作れるヌライムの種類は、スライムよりもはるかに少ないです。全50種、それらをコンプするのはもっと先の話。




