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第55話 祭りと書いて戦争と読む その1

抜けるような青空と強い日差し、そして30度を超える気温とまさに夏真っ盛りというようなある日の昼下がり。

そんな暑さの中、優斗は自分の周囲が歪んで見える程の湯気に包まれている部屋のキッチンに立っていた。


「…………」


そんなものを前にしてその幼い身体からは当然のように次々と汗が滝のように流れ出てきているが、優斗はその汗でぐちょぐちょに濡れる不快感を全て無視して目の前の事に集中している。

その表情は真剣そのものでこの作業を始めてからというもの無駄口一つ叩いていない。……というよりもただそんなことをしても何の意味もないからやっていないだけなのだが。


とにかくその場で暑さと戦いながら作業を続ける優斗であったが、突然ピタリと動かし続けていた腕を止めて大きく息を吐いた。

それと同時に今までため込んでいた苦労を吐き出すように疲れた表情を浮かべ始めるが、やがてその顔は年相応のかわいらしい笑顔に変わっていた。


ようやくだ、ようやくやるべきことが終わった。このくそ暑い中よくやったものだと自分を褒めてやってもいい。だが、まだ全てが終わったわけではない。特に自分の身の回りなど何が起きるかわかったものではないのだ。油断は禁物、気の緩みなどもってのほか、最後の最後まで全力で取り組まなくてはいけない。


「……よし!」


ここでもう一度緩みきった顔に気合いを入れ直し、最後の作業に取り掛かっていった。




……とまぁ、たかだか昼飯のそうめんを作るだけのことにそんな学校の試験の時のような集中力を発揮するという使いどころ間違えた無駄すぎる労力を使いつつも、それが幸をそうしたのかどうかはわからないが、その後も何者にも邪魔されることなく無事にそうめんを作り終えた優斗は嬉しそうにそれをテーブルまで運んでいた。


「今日はいい日だなー……」


全てを終えて、足を伸ばしながら楽な姿勢で座っていると思わずそんな言葉を漏らしてしまった。そんな言葉が漏れてしまうくらい、今日は良い日だった。


夏休みということで後のことも考えずいつもより少しゆっくりと起きた朝から始まり、眠い頭をそのままにゆったりと朝食を食べて、ゆったりと洗濯と掃除をして、そして今、部屋の中でゆったりと昼食を食べようとしている。

ああ、これはまさしく自分の理想としていた1日、ほとんどそのままだ。そんな高揚感とともにいざ、完成したそうめんを箸でつかみ口の中に放り込もうとした時


チャイムも鳴ることなく玄関の扉が派手な音とともに突然開け放たれた。オレの理想タイム、終了。

こんなことをするのは一人しか心当たりがない。


「優斗。いたわね」

「やっぱ先生ですか……ってその格好いったいどうしたんですか?」


さっきまでとは打って代わってなんとも面倒くさそうな顔をしながら玄関の方に見ると開け放たれた扉の先に立っていたのは予想した通り先生ではあった……のだが、その服装が何時もの白衣ではなく、紫を基調とした浴衣に身を包んでいた。


「ああ、これ? これは今日あとで祭りに行くから着替えただけよ」

「へー、お祭りに行くんですか」


ずるずるとそうめんをすすりながら、そう言えば今日は近くでそんなことをやっていたな、と思いだす。


「へー、じゃないわよ。あんたも準備しときなさい」

「……は? オレも行くんですか?」 

「当たり前でしょ。それともなに? 文句でもあるわけ?」

「いや別に。特にこの後、用事があるわけでもないですし、それなら文句はありませんよ」


いい加減この展開にも慣れてきたのか、ずるずるとそうめんすすりながら、やや投げやりに質問に答える。

だが、自分で言ったように昼食を食べ終えてしまえば、その後はいつぞやの日のように暇を持て余してしまうのだ。そう考えるとこの誘いに乗るのも別段悪くもない。……というか今の先生からは有無を言わさぬ恐ろしいまでの威圧感が放たれており、仮に断ったとしても強制的に連れて行かれる(ボコボコにされるというおまけ付きで)だろうという確信もあるため、結局、優斗はいつものごとくずるずると引きずられながら誘いに乗ることにした。


「わかりましたよ。行けばいいんでしょ、行けば」

「なんかむかつく言い方だけど……まぁいいわ。とにかく現地の入り口に集合ってことで、場所はわかってるでしょ?」

「ええまぁ……って先生もう行っちゃうんですか?」


突然立ち上がり玄関に足を運ぶ先生を見た優斗は思わず呼び止めてしまう。

てっきりこのまましばらく居座るものだとずっと思っていた優斗は少し呆気にとられていた。

それを見た先生は優斗に言った。


「今日はこれからちょっと用事があってね。祭りが始める前には終わらせるつもりだけど少し急がなくちゃいけないのよ」

「はぁ、そうなんですか。すいません、そんな時にわざわざ呼び止めてしまって。お気をつけて」


どの程度かはわからないが、忙しい時に呼び止めたことを謝罪しつつ、先生を見送る優斗。

靴を履いて、いざ部屋から出ようとした時


「あっ、そうそう。祭りってことだから浴衣で来ること、わかったわね? それじゃ」

「え? いや、ちょっと待って……! ってもういないし……」


それを言うと同時にばたん、と扉が閉じられ、優斗は慌ててすぐに扉を開け直すが、そこには既に先生は影も形もなくなっていた。

その神出鬼没っぷりには毎度毎度いったいどのような手口を使っているのだろうか、と気になってしょうがないところなのだが、今考えるべきはそこではない。


「しかし、浴衣なんて……」


そう言って優斗は苦笑いをしながら、服の首元をつまむ。

そして目に入る控え目な胸のふくらみ……じゃなくて、恐ろしいまでに小さくなった服……自分。

こんな自分に合う浴衣を今から買いに行くなんて面倒な上、それを買うお金も今すぐ用意できるか怪しいところだ。だが、ここで浴衣を着て来なかったら、これはこれで、また面倒なことになってしまう。そこに行かないなんてもっての外だ。


「うーん……しょうがない、ここは舞にヘルプをかけるとするか」


どうにかしようにもこの状況では何もかもが足りない。あまり気乗りはしないが、この状況では贅沢も言ってられないと判断した優斗は助けを求めるべく電話を手に取った。






時間は流れ、現在は周りが暗くなり始めた夕暮れ。電柱の蛍光灯もつき始める頃、優斗はお祭りの入り口前に立っていた。


「先生遅いな……」

「遅いわね~」

「ゆ……優斗……! お祭りを前にしてこれ以上の我慢は……!!」

「…………(うずうず)」

「うーん……さすがにそろそろ僕も限界かな?」

「……もうちょっとだと思うから、もうちょっとだけ待とうぜ?」


その優斗の言葉を聞いてそこにいた全員が嫌な顔をしながらも渋々従ってくれた。

かくいう優斗自身もいい加減いつまでも待たせる先生にはさすがにイライラを抑えるのがつらくなってきていた。そこで、優斗はここまでの事を思い出して気を紛らわせることにした。


あの後、舞に話を聞こうとしていた優斗は、そこで『偶然』この時間にこの近くを歩いていた士郎達に『偶然』出くわしてしまい、そして『偶然』先ほどの会話を聞いてしまった、などとなんとも白々しい事を言ってきた士郎達と仕方なく合流し舞の部屋を訪ねる。しかし舞は浴衣なんてないと言ってきたのである。

さて、どうしたものか、とその場で考えていると


「あそこならあると思うわよ。ほら、この前優斗がカットモデルをしたあそこ」


と舞が提案をしてきたのである。もちろん色々ひどい目にあった優斗は猛反対をしたが、それ以外にいい案があるの? という舞の言葉にどうにも反論することが出来ず、いやいやながら、渋渋、本当に仕方なく行くことになった。




「あんらぁ~、いらっしゃ~ぁい!」


入った瞬間に熱烈な歓迎である。全身が折れるのではないかという怪力で抱きしめられ、身動きの取れない青くなっている優斗の顔に追い打ちをかけるようにひげの生えた顎をじょりじょりとすり寄せてきた。

この間わずか数秒。その上、やっと離されたかと思ったら次の瞬間には横から「ひあぁぁ……!」という姫神の悲痛な叫びが聞こえる始末であった。


たったこれだけのことで優斗の体力は8割近くを失うはめになり、はたして自分は無事にお祭りに行くことが出来るのだろうか? と朦朧とする意識の中で割と真面目にどこか他人事のようにそんな考えを浮かべていた。


だが、どこかで運命がねじ曲がったのか、はたまたそこらにある小石よりも役に立たないと思われていた自分の運が役に立ったというのか、なんと今回、ちょうどお客がたくさんいて店が忙しいということで写真を数枚撮られただけで『優斗』は目的の物を手に入れることができたのだ。


そして現在、優斗は濃い紫を基調とした―なぜか自分用に作ったのではないかと思われるほどにジャストフィットしている―浴衣を身につけ、頭の右側にはお面、そして左側には大きなリボンをつけることによってなんとか耳をごまかしている状態で立っていたのである。


「ゆ……優斗さん」


その時、突然姫神が優斗に話しかけてきた。その姿は黒を基調とした浴衣を身に包み、いつも隠れている前髪がかき分けられその顔がよく見えるようになっていた。

これについては美容室のアレが「せっかくのお祭りなんだからそんな顔してちゃだめよぉ~」と言って無理やりやった結果である。


「ん? どうした姫神。悪いけどもう少し待ってくれないか?」

「いえ……そうではなくて……」


なぜかそこで言い澱む姫神。だが、優斗も何を言おうとしているのかなんとなくわかっていた。


「その……舞ちゃんは……」

「あぁ……舞、ね」


その言葉を聞いてちら、と視線を舞に向ける。

そこにいたのはまるで熟したトマトのように顔を真っ赤に染め上げてピンクを基調とした子供向けアニメの浴衣を身に包んだ舞であった。

その幼い顔と身体がなんとも違和感なくそれを着こなしている。

なぜこんなことになっているのか? 理由はあそこにいたアレが舞のために用意した物だからだ。

さすがの舞もこれには嫌な顔をしていたが、せっかく用意してもらったことと「あなたなら絶対に似合うわ!」という猛烈な押しに耐えることが出来ず……今に至る。

だが、身長が小さいとはいえ、大の高校生なのだ。自分と違って元から女とはいえ、それでもこれを着るのは大分きつい。


「ん、まぁ、祭りが始まれば機嫌も直るだろ……たぶん」

「…………」


だが、こればっかりは自分ではどうすることもできないことだと優斗は割り切ってあきらめた。

自分の浴衣と交換すれば問題は解決するが、そんな自分にデメリットしかないことを優斗がするわけがなかった。


「……っと、ちょっと失礼」


その時、持ってきていた携帯が鳴り始めた。ディスプレイに表示された名前は『先生』


「はい、もしもし」

『あ、優斗?』

「ちょっと先生! いい加減いつまで待たせるんですか!」

『悪かったわね。用事は予定通り終わったんだけど、バイク止めるところがなかなかなくてね』

「ああ、そうですかバイクを…………ちょっと待ってください先生」

『なによ』

「オレの記憶が正しければ先生って浴衣を着ていましたよね?」

『それがどうかしたの?』

「…………」


その瞬間、優斗の脳裏にはどこぞの近未来殺人マシーンの乗るような大型バイクで大通りを浴衣姿で爆走している先生という光景が浮かび上がっていた。


『たぶんもうちょっとで着くと思うからあんt(ブツ!』

「あれ? 優斗まだ話声が聞こえていた気がしたんだけど? 切っちゃって大丈夫だったの?」

「いや、気のせいだよ、気のせい!」

「優斗最近その笑顔を多様してないかい?」


優斗は輝くような笑みを浮かべて言っていた。

クロ「どーも、ここ最近まじで時間がないクロです」

優斗(女)「こればっかりはまじだったからなぁ……これ以降も厳しいのがきついい」

クロ「次回もいつになるか……それに最近特に不調なのも重なってきついっす」

優斗(女)「ともかく人物紹介だ。今回は……舞だったな」


名前 音無 舞 年齢 17歳 高校2年生 風由学園所属 帰宅部


身長 135cm 体重 30kg 


髪の毛の色 栗色 髪型 ツインテール 一人称 私


とりあえず幼馴染でしょ! という考えから生まれたキャラ。ただ最近は幼馴染というより暴力担当になりつつある舞さん。どういうことなの……?


家族構成は自分の他に親二人と兄一人。設定はほとんど考えていないが母はいつもはおっとりで怒らせると笑いながらえぐい行動をとるタイプで兄は重度のシスコンで母からいつもお仕置きをされている……といった感じ。父? 知らんがな。


ロリの理由。クロがロリ好きだから。


勉強は得意な方でなく中の下辺り。身体能力は高いが身長が災いしてそこまでというわけではない。ただし戦闘能力は高い。だが他の戦闘力は(血がにじんで読めない)


動かしやすくわかりやすいキャラなのでどうしても出番が多くなってしまうのが悩み。乙女にするかどうかも悩んでいる。


クロ「とまぁこんなところか」

優斗(女)「これはひどい」

クロ「むしろもうちょっと書いてもよかったかも。次回は姫神です。続きます」

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