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突然の来訪者

先日の維澄さんとの『夢のような』撮影会を経て、ようやくオーディションの応募までこぎ着けた。


 盛岡は12月も中ごろとなり、本格的な冬に突入した。


 今日は日曜日で久々にアルバイトのシフトもないので、暇な一日を過ごしている。


 私は暇つぶしに、”撮影会”で維澄さんに撮ってもらった自分の写真を眺めていた。


 最近、暇さえあればパソコンで自分の写真を眺めては”うっとり”するのが習慣になってしまっている。


 誤解のないように言っておくが、自分に酔っている訳では決してない。


 私にメイクと衣装合わせをしてくれた維澄さんの雰囲気を纏った自分を見て、あくまで『私そのもの』ではなくて『維澄さん』を想像してうっとりしているのだ。


 それはそれで”怪しい行動”であることは理解している。


 そんな自分の写真を見て悦に浸ってる休日の午後に、来訪を告げるチャイムが鳴った。


 ”え?こんな雪が積もった日に?”


 と驚いた。


 宅配便だろうか?


 たまたま一階にいた翔がインターフォンで対応し、玄関に向かっていく足音が聞こえた。


 すると程なくして私は翔に呼ばれた。


「お~い!檸檬!」


「なに?」


「お客さん」


「え?私に?……誰なの?」


「え~と、綺麗な女性?」


 え?


 もしかして……


「維澄さん!?」


 私は大声で叫んでしまった。


「残念ながら違うよ。維澄さんは俺も知ってるから、維澄さんなら維澄さんって言うよ」


「そ、そうだよね。じゃあ、誰なのよ?」


 私は露骨にガッカリした口調でそう応えてしまった。


「知らないよ、とにかく出れば?」


「ああ……うん」


 全く心当たりがない。


 こんな雪が積もった日にわざわざ訪ねてくるような人は私にはいないはずだ。


 少しだけ警戒しつつ玄関から外に出た。


「すいません、お待たせしました」


 そう言いながら家の門まで行くと、その女性は、真っ赤なロングレザーコートという”いでたち”で、一人佇んでいた。


 盛岡郊外の田舎町にはおよそ不釣り合いな、その”ド派手さ”は、周囲の風景から浮き上がって見えた。


「突然訪ねてしまって、ごめんなさいね」


 私はその女性の姿を見た瞬間、驚きのあまり言葉を失ってしまった。


「あなた、神沼檸檬さんよね?」


 なんで?


 なんで?


 目の前にある光景が、とても現実のものとは思えない。


「その驚いた態度からすると、私のこと知ってるみたいね?」


「……は、はい」


 私はそれだけ言うのが精いっぱいだった。


 確かに知っている。


「なら話は早いわね……フフ。でも、もう聞くまでもなさそうね」


「な、何がですか?」


「私を見てそれだけ驚けば、もう私の知りたいことがあなたの顔に書いてあったということ」


 私はあまりの緊張で胸の心臓の鼓動が激しく打ち続け、耳の奥にその振動が伝わっていた。


 ど、どういうことよ?


 なんなの?


 この異常事態は?


 これは現実なのだろうか?


 夢ではないのか?


 私は確かにこの人を知っている。


 でもこの人が私を知っているはずがない。


 私を訪ねてきた?


 なんで?


「どうして私があなたのことを知っているのか不思議よね?」


 人の心を丸裸にしてしまうような、この鋭すぎる眼光に私は萎縮した。


 こ、怖い。


 なんて恐ろしい人なんだ?


「あなたの応募を見させてもらったのよ」


 その答えを聞いて私はようやく”ああ”と思った。


 そういうことか。


 だから私の住所を知っていたのか。


 ただ全国からのたくさんの応募があるなら、ただの高校生の私が”この人”の目に留まるとはとても思えない。


 でも私には予感があった。


 この人が私を訪ねてきた理由。


 間違いなく維澄さんだ。


 でも、どうして、私から維澄さんに辿りつけたんだ?


 私の応募を見て?


 そうか……


 私は俯いていた顔をその女性に向けた。


「フフ、ようやく気づいたみたいね」


 ああ、まただ。


 また読まれてる。


「その通りだよ。私はIZUMIを探している」


 とてもじゃないが即答できる答えを用意することができず、混乱し、また言い淀んでしまった。


「そんな怖い顔して悩まないで。でも一つだけ教えてくれる?」


「な、なんでしょう?」


「さっきのあなたの驚きから想像するに、あなたは今、IZUMIと知り合いってことよね?」


 私はその問いに、答えることを躊躇した。


 でもすぐに否定できなかったことで、逆に『その答え』が相手に伝わってしまった。


 つまり私が維澄さんと知り合いであるという事実が。


 だからその女性は当然のようにその事実に気づき、続けた。


「そう、そうなのね……生きてるのね?あの娘」


 いままでは挑みかかるような恐ろしさしか見せていなかったこの女性が、突然、声を震わせて涙ぐんでしまった。


 え?


 な、なに?


 今度はなんなの?


 維澄さんが生きてるとか……


 そんなの聞くまでもないでしょ?


 そんなことはあなたも知っているでしょ?


 ……いや、もしかして知らないってこと?


 どうして?


 それはおかしいでしょ?


「はい、維澄さんは私のアルバイト先にご一緒させていただいています」


 私はその女性の涙に同情した訳ではないが、このことは伝えておくべきだと咄嗟に判断した。


 それは間違っていない。


 むしろこの人がそのことを知らないってことが異常すぎる。


 私はおおよその話が見えてきた。


 この女性は私のオーディションの応募写真を見て、私の写真からモデルIZUMIの存在に気づいた。


 それはそうだろう。


 私ですら鏡に写った自分を見てすぐに”維澄さん”とイメージが似てしまったことに驚いたほどだ。


 だから『この人』が気づかないはずがないのだ。


 当たり前だ。


 あの伝説のモデルIZUMIを生み出したのはまさにこの人……


 上條裕子に他ならないのだから。

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