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私の中のにいた、あたなの面影

 私が応募するオーディションの「写真」の撮影日が来た。


 撮影は、私の部屋へ維澄さんを招いて、彼女にお願いすることになった。


 すると、そこには私の想像を絶する維澄さんの姿があり、色々と面食らうばかりだった。


 まず維澄さんは、私の予想を大きく上回るほどの「撮影ノウハウ」を持っているようで、私の部屋に即席の簡易スタジオを作ってしまった。


 数点の照明器具に背景用の大きな白い模造紙、その他、よく分からない三脚みたいなもの等々……。


 そして前に聞いていた、一眼レフ。


 さらに維澄さんは私の家に来るなり室内を物色し始めて、キッチンの椅子だとか花瓶だとか、ぬいぐるみやサッカーボール……色々な物を持って来ては模造紙の前に並べ始めた。


「これは何なんですか?」


「え? 撮影に使うアイテムだけど?」


「は? そ, そこまでやるんですか?」


「まあ、ね……せっかくだから」


「なんか維澄さん、楽しんでませんか?」


「そ、そうじゃなくて、これも檸檬が一次選考を通るための重要なステップで……」


 いや、絶対楽しんでるでしょ?


 フフ……やっぱりこうやってモデルという仕事に関わっている維澄さんは、ドラッグストアでつまらなそうに(?)している時よりずっと生き生きしている。


「衣装はどうする?」


「え?……制服で良くないですか?」


「なに冗談いってるの!!」


「じょ、冗談?……全然真面目にいってるんだけど? 第一、私、写真撮影に使える衣装なんて持ってないよ?」


「ちょっと見せてくれる?」


「え、いや、それはちょっと……ほら、やっぱここはJKブランド押しでいきましょうよ?」


「ダメよ。制服だと檸檬の良さが出しきれない」


「そ、そんないつもの制服姿の私が魅力ないみたいじゃない」


「いつも可愛いわよ。でも檸檬の可愛さはこんなもんじゃないんだから……」


「なっ、何恥ずかしいことさらっと言って……今日の維澄さん、テンションおかしくないですか?」


「私の前で今更何をはずかしがってるのよ?」


「今更って……何が今更なのよ? まだ維澄さんと何もはじまってないのに」


 そこまで言うと、維澄さんは不思議そうに首をかしげて……。


「そういえばそうか」


 と、微笑みながら呟いた。


 な、な、なんだ? 今の反応は?


 ぜ、ぜったい今のは……。


 ”そうかもう檸檬とつきあってるつもりだったけど、そうじゃなかったね?ウフッ!”


 って感じだよね? そうだよね?


 悲しいかな、私はこの維澄さんのたったこれだけのリアクションでテンションが上がってしまい、結局、維澄さんに自分の持っている服を大公開してしまった。


 それからというもの……。


 維澄さんの異様な熱に押されながら、私は持っている服をとっかえひっかえの”着せ替え人形”状態になった。


 お昼過ぎに始まった”撮影会”が終了したころには、窓の外はすっかり暗くなっていた。


 私は最初こそ、維澄さんのテンションにつられて興奮しながら為すがままに撮られていたけれど、さすがに途中で疲れてしまい、何度も彼女に檄を飛ばされた。


 ほんと、何なのよこの人? 普段はやる気ない雰囲気しかないのに、今日は全然テンションが衰えない。


 維澄さんは撮影を重ねるごとにますますエスカレートして、「姿勢の指示」はむろんのこと、「目線」「足の角度」「腕の位置」「表情」……いちいち細かく指示してきた。


 まったく、このまま維澄さんに”じゃあ檸檬脱いで”と言われれば、私はヌードにだってなってしまった自信があるよ……。


 全く、危なかった。


 しかし、そんな中で私が一番興奮させられたのは……実はメイクだった。


 今日は維澄さんが私のメイクをしてくれた。


 メイクを終えた自分の顔を鏡で見てビックリした。


 私の顔は、維澄さんとは顔のイメージが全く違う。


 ……でも、思った。


「あ、維澄さんだ」


 その鏡に映る私の印象が、ことごとく維澄さんとそっくりだった。


 メイクが似るとここまで印象が変わってしまうんだと、改めて驚かされた。


 そして、私はしばらく自分の顔に見とれてしまった。


「ね~綺麗でしょ?」


 維澄さんは上機嫌に言った。


「はい」


 私は素直にそう応えていた。


「フフフ……」


 維澄さんは嬉しそうに微笑みながら、鏡に映った私を見つめていた。


 維澄さんが自分の一部になったような、不思議な感覚。


 自分でも恥ずかしいほどに”そのこと”に興奮してしまった。


 自分の顔で興奮するなんてかなりヤバイんだけど、あまりに嬉しすぎて、涙が出そうになってしまった。


*  *  *


 数日後、維澄さんは写真をプリントして仕事場に持って来てくれた。


 写真を見て、改めてびっくりした。


 維澄さんだっておそらく、何度も見てきたカメラマンの見よう見まねで撮影してくれただけだと思う。


 それなのに、素人の私から見たら雑誌に掲載される写真と変わらないクオリティーに見えてしまった。


 それとやっぱり、私の印象がことごとく「維澄さん」であったこと。


 こんなことを言うと「ナルシスト」と思われそうだが、私は自分の写真に惚れてしまいそうなほど、写真を見てドキドキしてしまった。


 写真はたくさんある中から、維澄さんと一緒に選んだ。


 私は正直どれも「できすぎ」に見えたので、最終的には元プロの維澄さんの意見を尊重して選んだ。


 私の「檸檬」という名前を強く印象付けるために、薄い黄色のワンピースを着て、キッチンから持ってきたウッドの椅子に座って撮影したカット。


 結構前半に撮影した写真なので、私はまだ少し照れているように見える。


「睨まないでよ」


 と友達からよく言われる「キツめ」のイメージはそこにはなく、本当に「あ、恋してるな」というのがバレバレの写真。


 そういえば前に美香から「恋する乙女の顔になっている」とからかわれたことがあったが、確かにそれはその通りだったのかもしれないと思った。


 後は応募して結果を待つのみ。


 でも、なんとなく予感がしていた。


 きっと一次審査は通る。


 それはそうだ。


 維澄さんと二人で作り上げた「私」という作品。


 もちろん、維澄さんが元プロのモデルだからこそ可能だった要素は大きいと思う。


 でもそれよりも、私の維澄さんを思う気持ち。


 それがこの写真の中に表現されていないわけがない。


 自分の外見がいいとか悪いとかという次元の話ではなくて、間違いなくこの日の私は「私の人生の中で」一番綺麗だったという自信がある。


 だって、愛する人が私のためにずっとずっと一生懸命になってくれていたんだよ?


 そんな私のことを思ってくれている彼女を……。


 ずっとずっと、私は見ていたんだよ?

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