表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/80

子供のような

 維澄さんとデートした次の日の午後。


 私は維澄さんと、ドラッグストアのレジにいた。


 昨日は、結果的には「楽しいデート」だったのだと思う。


 だが自分でも予想だにしない方向と距離を進んでしまって、未だに昨日の維澄さんとの会話が現実なのか夢なのか、疑ってしまう自分がいた。


 維澄さんは、自分の過去をすべて私に打ち明けてくれた。


 これは、当初の私と維澄さんの関係からすれば、奇跡といっていい。


 そして私は改めて、モデルを目指すことと、維澄さんがそれを全面的にサポートするということまで確約をもらった。ちょっと強引だったけど。


 でも、私にとって最も大きなことは、「私にしかこの維澄さんを救えない」という事に、私自身が気付けたこと。


 いや、気付くというか、思い込んだだけなのだが。


 我ながらこの結論に達することができたことに、拍手を送りたい。


 いままで曖昧模糊としていた私と維澄さんの関係が、はっきりした。向かうべき目標も、はっきりしたのだ。


 ただ、こんなハイテンションの私とは裏腹に。


 維澄さんは、昨日たしかにあれだけディープな話をしたはずなのに、いつも通りなのがちょっと寂しい気がする。


 でも心持ち、顔色は明るい。


 そう思うのは、私の色眼鏡が過ぎるのだろうか。


 そんな、いつもの私と維澄さんがいるドラッグストアに、一人の来客があった。


*  *  *


「お~い!檸檬~!」


 右手を大きく振り、「彼女らしい」ハスキーボイスで私の名前を呼びながら、浅沼美香が店内に入ってきた。


「あれ。もう部活終わり」


「いや、檸檬が愛する私に会いたいって言うから、無理して早退してきたんじゃない」


 何の躊躇いもなく、そう大声で話す美香の目線は、当の私より維澄さんに向いていた。


 美香と私の間には、既に蟠りはまったくない。


 でも、どうやら美香と維澄さんの間には、まだちょっとしたモヤモヤがあるようだ。むろん美香の一方的なものだと思うのだが。


 美香の維澄さんへの目線は、明らかな「対抗心」のようなものが感じられた。


 ホント、いやな予感しかしない。


 維澄さんは、美香の意地悪な目線に負けて下を向くのでは。


 と思っていたが、意外にも、美香の視線をガッチリと受け止めて、むしろ美香を睨み返していた。


 な、なんだこの緊迫感は。


「ちょっと、美香。そういう意地悪な言動はやめてくれる」


 私はこの緊迫感を和らげるべく、おどけた調子でカットインした。


「え。意地悪。誰に対する」


「だから、それは……」


 その先は、維澄さんのやきもちを肯定することになるので言いにくい。


「ハハ……最近の檸檬は面白いね」


 私は別に、振った後ろめたさがあるわけでもないのだが、ちょっと強く出れない。


「ところで維澄さん」


 美香が突然、維澄さんに話の矛先を向けた。


「はい」


 美香は意地悪く維澄さんを見据える。


「な、なにかしら」


 維澄さんは美香の視線に耐えながら、緊張しつつも臨戦状態のように見える。


 ナニナニ。美香は何を言おうというの。


 私はハラハラしながら話に入ろうとしたが、美香が先に話を続けてしまった。


「檸檬ってさ。ただ見栄えがいいだけじゃなかったでしょ」


「は」


 維澄さんは一瞬、驚いたように目を見開いて疑問の表情を見せたが、すぐに下を向いてしまった。


「フフフ……否定しないか」


 そう言い返す美香に対しても、維澄さんは表情を動かさない。


 その沈黙が意味することが、美香の質問に「首肯している」のは明らかだった。


 私が見栄えがいいだけじゃない。


 維澄さんは私に、何を見ているのだろう。


「聞いてるんでしょ。私が檸檬に告白したことは」


「なっ。何を言い出すのよ、美香……」


 私は驚いて美香を制した。


「檸檬は黙ってて。私は維澄さんに聞いてるんだから」


「ええ、聞いたわ」


 維澄さんは意外にも即答した。


「聞いてるわよ。あなたが告白した次の日に、朝一番で私に伝えに来たから」


「え。朝一に。そうなの、檸檬」


「ま、まあ……」


「え~、それちょっとショックだな。私が告白した翌日の朝でしょ。そうか、朝にはもう私より維澄さんに気持ち奪われてたのか。ああ悔しい」


 私自身も、当時それを想わないでもなかったので、ギクリとした。


 維澄さんも、正直に言わなくなって。


「檸檬は意外に面倒見がいいでしょ」


 美香は一瞬、大げさに落ち込んだように振舞ったが、すぐに維澄さんへの質問を続けた。


 維澄さんは美香にそう尋ねられると、私へチラリと視線を向けた。なぜかその顔は、少しむくれているように見えた。


 私は、維澄さんが何と答えるか気になり、この辺で美香の暴走を止めるべきだという思いを押しとどめて、維澄さんの答えを待ってしまった。


「まあ、そうね」


 維澄さんは不機嫌そうに、一言だけ呟いた。


「ハハハ……なんかかわいいね、維澄さんって」


「美香、その辺にしないと怒るよ」


「ゴメン。でも、これくらいの意地悪、許してほしいな」


 そう言われるとまた私も強く出れない。でもいいかげんに「これ」をネタに強請るのは勘弁してほしい。


 相変わらず勘のいい美香は、私の「怒気」を察知して、いままで緩めなかった維澄さんの視線をようやく緩めた。


 美香は場を荒らすだけ荒らして、部活で使うであろうテーピングを数本買って、早々に帰っていった。


 しばらく気まずい雰囲気が残っていたが、珍しく維澄さんから口を開いた。


「檸檬」


「ん」


「檸檬はいつも……誰にも、その……昨日みたいにするの」


「え。昨日みたいにって」


「だから、色々相談にのって、一緒に解決していこう、みたいな」


「ああ、あれ。するわけないじゃない」


「……そ、そうなの」


「そうでしょ。伝わってないのかなあ。昨日、散々言いましたよね。私は維澄さんのことしか頭回らないって」


「そんな言い方はしてないと思うけど。でも、美香さんとは付き合いも長いし、仲もいいし」


「美香。ああ、美香ね。美香は特別だからね」


「ほら、私だけじゃない」


「あれ。もしかして、やきもちやいてくれてるとか」


 ちょっと調子に乗って言ってみたが、案の定、維澄さんは横を向いて澄ました顔になってしまった。


 こういうところが、この人はずるい。


 人には散々言わせておいて、自分は肝心なところで逃げる。


 ほんとに、この人は逃げの体質、直さないとこの先、社会で生きていけないよね。


「もう、逃げてばっかり」


 私はつい口に出してしまった。


「な、なによ」


「昨日、逃げないで向き合おうって言ったじゃない」


「昨日は、檸檬は余計なこと言わないから、モデルのことだけ向きあえって言った」


「ま、まあ、そうだけど」


 なんなのよ、駄々っ子みたいに。


 ああ、まただ。


 これでまた護ってあげたくなってしまう私が、負けなんだろうなあ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ