好きだったのはいつ
「あの話、本当だったの?」
維澄さんが少し驚いた顔で聞いてきた。
あの話とは、私が維澄さんに最初に泣きながらカミングアウトした話だ。
「もちろんですよ。泣きながら嘘はつきません」
「……」
維澄さんは黙ってしまった。
少し照れているように見えたのは、気のせいだろうか?
「じゃあ、姉弟そろって芸能人が好きってことか、なあ檸檬」
「あ、いや、その……」
きっと翔は冗談のつもりで言ったのだろう。
でも私は、本人を目の前にそれを冗談と受け取ることができず、顔が熱くなるほどに動揺してしまった。
「檸檬?」
維澄さんに呼ばれて、私は“ギクリ”と背筋が伸びた。
「前から聞きたかったんだけど」
私は、維澄さんが何を言い出すのか怖すぎて、言葉が出てこない。
「檸檬が好きなのは、モデルだった頃の私だよね?」
そうだと言えばいいのは分かっている。
でもそれは自分に嘘をつくことになる。
維澄さんの前で嘘をつきたくない。
でもそれを言ったら、もう告白だ。
「そうだよね?檸檬?」
な、なんで今日の維澄さんは、追及が厳しいの?
「いや、維澄さん、違う違う!今でも檸檬は維澄さんにゾッコンです!!弟の俺が言うんだから間違いない!!」
翔は、さも得意げにそう言ってしまった。
「だろ?檸檬?」
「……っ!!」
「そうなの?檸檬」
そんな真剣な目で見ないでよ、維澄さん。
「も、もちろんですよ。前に中年男をやっつけた時も言ったじゃないですか」
怖い。
維澄さんの反応が怖い。
維澄さんは、私の顔を少しだけ見つめてから──
「そう」
とだけ言った。
なになに?
そのリアクション?
わかんないよ。
もう私はプレッシャーに耐え切れず、話題を変えた。
「わ、私のことじゃなくて、翔の話をしてたんだから……」
私はここぞとばかりに、目付きの悪い目で“これでもか!”というくらいに翔を睨みつけた。
ただ、私の顔なんか見慣れている翔に、そんな“睨み”が通用するわけもなく……
翔は、勝ち誇ったかのように顎を上げて、不敵な笑みを浮かべている。
な、何なのよ?その顔?
もしかして、自分のお陰で維澄さんとの距離を縮めてやった、とか思ってるんじゃないでしょうね?
ていうか、なんで私が維澄さんに惚れてることが翔にバレてるのよ?
言った覚えないのに……
いや、でも目ざとい翔のことだ……
私の、維澄さんを前にした“立ち振る舞い”を見れば分かるか。
姉弟だもんね。
確かに、翔の思いがけない言動で、維澄さんとの関係性が動いている気がする。
驚いたことに、翔の前で維澄さんは、元モデルであったことを普通にカミングアウトしていた。
まさか翔が、本当に私のために道化を演じてくれたわけではないと思うが。
一歩間違えれば、今頃とんでもない暗い空気に包まれていたかもしれない。
だが、幸いにもそうはなっていないのが救いだ。
まさに綱渡り。
でも、確かにあんなに不安げだった維澄さんが、いつのまにか落ち着いた表情を見せてくれたのは、翔のお陰と言えばそうかもしれない。
今回は、特別に許してやろうか……




