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帰り道での距離感

「今日は、維澄さん“うち”に泊まってもらった方がいいんじゃないの?」


 これにはさすがの私も凍りついた。


「ば・ば・ば」


 馬鹿なこと言ってんじゃ……ないわよ!!


 と叫びたかったが、あまりのショックに言葉にならなかった。


 維澄さんまで、不安な表情がどこかへ吹き飛んだように、目をまんまるに見開いて翔を凝視してしまっていた。


「あれ? 俺、なんかまずいこと言った?」


「それはそうで……」


 “それはそうでしょ!”と言いかけたのだけれど、私は言葉を止めた。


 いやいや……ちょっと待って?


 そうか、それが今できるベストな選択かもしれない。


 でも、維澄さんがうちに泊まるだって?


 それを想像すると、ああ……また心拍数が上がってきた。


 でもこれだけ怯えている女性を、今はそのまま一人で返すわけにはいかない。


 余計なことを考えている場合ではない。


 果たして維澄さんの答えは……


「いや、それは申し訳ないから……」


 と顔をやや引きつらせながら言った。


 その表情からは本心は見えない。


 単に遠慮からなのか?


 個人的な関係性に距離を取りたがる維澄さんらしい拒否反応なのか?


 もしくは、維澄さんの過去を知る私を“いまだ”警戒しての反応なのか?


 ただ、先ほど警官の前で見せた、彼氏の存在を“きっぱり”否定した時のような強い意思は感じられない。


 だから“答えに逡巡している”ことは間違いない。


 おそらくそれだけ、まだ“恐怖”が消え去らないから、一人になるのが怖いのだろう。


 だったらここは、私が押し切ってあげるのが親切ってものだ。


「だめですよ、維澄さん!」


「え?」


 私がまるで“叱りつけるように”そう切り出したので、維澄さんは一瞬“ぽかん”としてしまったが……


 私は間髪入れずに、一気に言い切った。


「維澄さんを、今日は家に強制連行します!」


 翔の何気ない提案に乗じて、私は強引に維澄さんを私の家に連れて行くことにしてしまった。



 私の家は交番から自転車で20分程度はかかるが、大通り沿いなので、三人で歩いて行けば、維澄さんが不安を感じるようなことはないだろう。


 空手有段者の翔がいるのも心強い。


 ただ“そこそこ”の距離はあるので、はじめは「維澄さんだけでもタクシーで」という選択も考えたが、結局、私が維澄さんを自転車の後ろに乗せて「二人乗り」をして帰ることになった。


「檸檬? 体力的に俺が乗せた方がよくね?」


 翔がもっともなことを言ったが、そんなこと私が許すはずない。


「だめよ! こんな美しい女性を後ろに乗せるなんて、ずうずうしい」


「バカ!! そんなこと少しも思ってね~よ! 俺は檸檬が大変だろうと思って言ってやったんだぞ!」


 翔が照れ隠しで、妙にテンションを上げて言い返してきてしまった。


「私はやっぱりタクシーで」


 維澄さんは私と翔の口論を聞いて、居心地が悪くなったのか、またそんなことを言い出してしまった。


 でも今日の私は強気なのだ。


「だめです。維澄さんは私の後ろに乗ってください」


 ピシャリと言ってやった。


 そしてその勢いで、言わなくてもいいことまで翔に言ってしまった。


「翔は、未惟奈ちゃんだけに優しくしてればいいんじゃないの?」


 私は少し意地悪に、翔の好きな娘をネタに持ち出した。


「おい!! 余計なこと言うなよ!?」


 あら?! 翔があんなに赤くなってる。


 私が維澄さんのことで赤くなったり青くなったりを経験してくると、翔のこんな狼狽ぶりになんだか親近感が湧いてくる。


「随分と姉弟仲いいのね?」


 維澄さんは私たちの会話を見て、そう言ってきた。


 さっきまで暗い表情だった維澄さんが、私と翔のやり取りで気持ちが和らいだ感じだ。


 これは好都合だ。


 翔には悪いけど、維澄さんの心の安寧のため、君のプライベートを犠牲にしてもらおう。


「ほら、最近TVにもよく出演している天才美人空手家。維澄さん、知ってます?」


「ああ、知ってる! あのハーフの綺麗な娘でしょ? そうなの? 翔くん?」


 あれ? サラッと翔のこと、名前で呼んだ?


 なにそれ?


 ってか、維澄さんって割と名前呼びするよね。


 私のことも檸檬って呼ぶし。


「ええ、実はそんな感じです」


 根が真面目な翔は、維澄さんへの問いかけには馬鹿正直に答えてしまっているのが可笑しかった。


「檸檬、維澄さんって、檸檬が写真立ての人だよね?」


 や、やばい……。


 翔に気づかれた。

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