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つながり

「最近、放課後何してんの?部活全然出てないでしょ?」


 ついに美香に聞かれてしまった。


 ことさら"秘密にしている”という意識はなかったけど、どこか私と維澄さんの関係に、誰にも……それは親友の美香であっても極力入ってきてほしくない、おそらくそんな心理が働いていたのだろうと思う。


 だからこの時も咄嗟に誤魔化してしまった。


「もともと私の部活なんてあってないようなものだし、もう出る意味ないかなって」


 美香は、”するどい娘”なので私が嘘をついても直ぐにバレる。


 そんな時美香はきまって”分かっていて”騙されたふりをしてくれる。


 今回も、美香は私の嘘を見抜いているのであろう。


 しかし──


「それは前からでしょ?」


 美香にしては”珍しく”食い下がってきた。確かにその通りだ。かつては家に帰ってもやることがない私は適当に時間つぶしに本を読んで美香と帰ることもよくあった。


 今はそれを全くしなくなっている。さすがに、維澄さんに会ってからは、美香には嘘をつきすぎていて私に対する不信感がピークに達しているのかもしれない。


「ほら、だって日も短いじゃない?だから最近は特に早く帰ろうかなって」


 それでも私は結局嘘を貫き通してしまった。


「まあ弟くんも大変だしね、お迎え」


 美香も諦めたのか、私の"嘘”に話を合わせてくれた。


 美香はいつものように少し寂しそうな顔を見せ、話題を変えた。


 でもこんな風に私の放課後の行動を気にして聞いてくるのは美香ぐらいしかいない。そんな唯一の友だちにもこんな薄情な事をしてしまう自分を思うと、自分の醜さが嫌になる。


 私も自分から積極的に相手の会話に入っていくタイプではない。だから私の周りにはあまり人はいない。


「檸檬はさ、絶対損してるんだよ?いつも近寄りがたいオーラ出してさ。もっと大勢に檸檬の良さがわかってほしいわよ」


 やっぱり美香は優しい。なんで美香はこんな私にまで優しく接してくれるんだろう?


「いいのよ。私は大勢と上手くやるなんて器用なことできないから、学校では美香がいればいいかな」


「な、なによ急に」


「あれ?嬉しかった?赤くなっちゃって……フフフ」


「フン!」


 その時の美香は珍しく結構本気でむくれてしまった。


 ほんといい娘だ、美香は。私が男子だったら絶対惚れてる自信あるな。


 でも、私ったら男子でないのに女性の維澄さんのこと好きなんだっけ。


 そんなちぐはぐな想像をしていることに私は苦笑した。


 *  *  *


 私は平日はほぼ毎日、アルバイトのシフトを入れている。


 もちろんお金が欲しいわけではない。


 ただ維澄さんに会うという不純な動機。


 できれば維澄さんも、迷惑と思っていなければいいのだけれど。


 でもこの日、出勤してみるとめずらしく維澄さんの姿が見当たらない。


 今日は維澄さんの代わりにレジには店長が入ってた。


「やあ、神沼さん。助かった。午後、碧原さんが休みの日は大変なんだよ」


 今日は維澄さん休みか。どうしたんだろう?具合でも悪いのかな?


 先日は、自分の苛立ちを制御できず維澄さんのことをまた怒鳴りつけてしまった。


 その気まずさもあり、少し時間を置きたかったから、維澄さんに会えないのは寂しいが、少しホッとする自分もいた。


 そして小さな事を気にしすぎと思うのだが、維澄さんが私のことを「檸檬」と呼んだことが頭から離れない。


 あれは何だったのか?


「店長、維澄さんどうしたんですか?」


 ちょっと心配になったから聞いてみた。


「ただの有給休暇だよ。彼女、月に何度かは平日に休み入れるから」


 維澄さんは土日は休んでいる。土日だけパートに来れる人は多いらしいので、維澄さんは休めるようだ。もちろん私も土日の勤務は入れていない。


 私はふと、あの維澄さんは休みの日に何をしているのだろう?と想像した。


 あまり積極的に外を出歩くようには見えない。


 でも地方の田舎の特権として、維澄さんがかつての伝説的なモデルであることに気づける人はいないだろう。だから人目をはばかる必要もないとも思う。


 だからこそ、維澄さんもこの地を選んだのだと思う。


 私は維澄さんのプライベートを想像するだけで気持ちが高揚してしまった。


 その想像にはこの店の風景とは違う維澄さんがいる。どんな姿をして、どんな表情をしているのだろう。


 そこに万が一にも私が入り込めるスペースはあるのだろうか。


 そんな妄想で頭がいっぱいになった。


 私の妄想が捗っていると、店長はさらに続けた。


「ほら、碧原さん、君のこと気に入ってるじゃない?」


 はあ?


 この人はまた、いきなりなんてこと言うの?


「そんなことないと思いますけど?仕事以外の会話はほぼ皆無です」


「そう?碧原さん、君が来てずいぶん表情柔らかくなったと思ってさ。少なくとも碧原さんは君の事好きだと思うけど?」


 やめて!


 "君のこと好き”とか。


 この店長、ホンっとに!!言葉に責任がなさすぎる!


 その言葉でどれだけ私が動揺して、心が乱されるのを少しは分かってほしいわよ!


「あれ?神沼さん嬉しそうだね?やっぱ同性からみても碧原さんてちょっと憧れたりするの?」


 この人のこの空気を読まない感じはホントに頭来るけど、嬉しすぎてにやけがとれない。


「見た目は綺麗ですよね。でも危ういというか、子供っぽいというか、護ってあげたくなるみたいな?」


 自分でも想像していなかった台詞が口から出ていた。


 彼女が子供っぽい?私はなぜそんなことを言った?


 私は彼女のことをそんな風に思っていたのか?


「凄いね神沼さん。碧原さんにそんなこと言えるのは君だけだな。結構みんな近寄れなくてオドオドしてるのに」


「私だっていつも緊張してますよ」


 自嘲気味にそう応えていた。


「そうなんだ。そうは見えないけどね……でも、せっかくだから連絡先交換してみたら?」


「は?」


 急に何言ってんの?この人?


「そんな簡単に聞けませんよ」


 そういうと渡辺さんは不思議そうに首を傾けた。


「仕事のシフトの相談とか普通に必要でしょ?」


「……」


 私は一瞬フリーズした。


 確かにそうだ。午後のシフトは私か維澄さんしかいない。


 そんな私なら連絡先を聞く立派な大義名分が立つ。


 職場の先輩、後輩という間柄なら別に交換しても少しも不思議はない。


 店長の無遠慮な発言に色々頭来たけど、この話はいたって普通だ。


 私が過度に彼女に接近してはいけないという防衛線を貼りすぎて、距離感がバグっているかもしれないとその時思った。


 今日の店長は”グッジョブ”だ。


 次の目標は維澄さんとの個人的な繋がり。


 今度、絶対、絶対……維澄さんの連絡先をゲットしてやろう!


 私はそう心に誓った。顔は、まだまだ……気持ち悪いほどにニヤついていた。

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