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好きだから……

 店長が去った後も、私は苛立ちがおさめることができないでいた。


 維澄さんも、まだ動揺して少し顔も青ざめていた。


 そして興奮した私は、こともあろうか怒りの矛先を維澄さんに向けてしまった。


「簡単に男に触れられてんじゃないわよ!!」


 これで維澄さんを怒鳴りつけるのは二回目だ。


 さすがにヤバイ女認定されかねない。


 しかし今はそんなことを心配する余裕もない。


 いきなり怒鳴られた維澄さんはさすがに面食らったように目を見開き私を凝視した。


 私は例によっておそらく”目つきの悪い目”でそれこそ鬼の形相で睨みつけていたに違いない。


 苛立ちの根源。


 それは私がずっと神聖視してた女性の身体にあんなくだらない男が易々と触れたことへの怒り。


 単なる私のエゴだ。


 そのエゴを大切な人にぶつけていることの自己嫌悪で心が壊れそうになる。


 でも私は維澄さんに伝えざるを得なかった。


「もっと……自分のこと大事にしてください」


 そう言った私は、怒りのあまりついに悔し涙を流してしまった。


「なんで、そんな私のことであなたが怒っているのよ?」


 維澄さんは、私の突然の激昂に困惑しながら口を開いた。


「そんなの……好きだからに決まってます」


 私は興奮を抑えきれていなかったからなのか、つい本音を口走ってしまった。


 一瞬”しまった”と思ってが、すぐに”いや大丈夫だ”と思い返した。


 私が今口走った”好き”という単語が、維澄さんに"愛している”という意味で伝わっているはずがない。


 これが異性に向けた言葉なら伝わり方もまた違ったものになったのだろうが。


 私がモデル時代のIZUMIに憧れていたことは既に知っている訳だし……


「す、好き?それはどういう意味なの?」


 しかし維澄さんは、なぜか狼狽えてそう聞き返した。


 もしかして少しくらいは動揺してくれたのかな?


 そんな訳ないか。ついつい都合よく解釈したくなる自分が嫌になる。


「私にとっては、怒るくらい重要なことってことですよ」


 私は自嘲気味に、そうつぶやいた。


「私の勝手な想いなんで気にしないでください」


 さっき興奮してしまって感情の高ぶりの行き場がなくなり、急に悲しくなってしまって言わなくてもいい、そんなことまで言ってしまった。


 維澄さんは少しだけ戸惑った様子のまま口を開いた。


「れ、檸檬、た、助けてくれてありがとう」


 そして維澄さんは始めて私を檸檬を呼んだ。

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