4
ようやく足輪がはずされた。足輪をつけてるところが擦れて傷になってたからね。ちょっとだけなんだけど。傷はもちろん舐められた。
3日ぶりくらいで部屋を出て、クイさんとエルテくんに会った。エルテくんは少しほこりっぽくなってて、あのふかふかな毛が少しへたっている。
「エルテくん、ちょっと……ほこりっぽいよ。あとでお風呂はいろう?」
エルテくんはお風呂が好きだ。いつも入れるとうっとりしてて可愛い。それなのに、入れてもらえなかったんだろうか。
「はいっ、了解っす!」
びしっと背を伸ばして、張りのある声を上げた。会えない間どうしてたか心配だったけど、どうやら元気に過ごしていたらしい。
すこしべたつく毛をなでなでしていたら、それを振り切るかのようにクイさんにぎゅーぎゅー抱きしめられて、すりすりされた。そういうのはヘルさんひとりでお釣りが来るほど間に合ってるのですが。
「久しぶりだね、マリカ。3日も閉じ込められて可愛そうに。いくらなんでも長すぎるよ。退屈だったろう。何してたんだ?」
「本を読んだり、言葉の勉強したりしてたよ」
「あたしもマリカと二人っきりでイチャイチャ過ごしたい。なんでヘルベルクランが独占するんだ。あたしだって従者なのに。おかしいよ。これから3日はあたしと過ごしてくれるよね、マリカ」
あれー。なんだかクイさん様子がおかしい気がする。すごくギラギラしてらっしゃるような。腕をつかまれて、見てみるとヘルさんが険しい顔をしていた。
「クイグインネ、お前発情してるだろう」
「あたしが? ……ああ、少しはしてるかもね。前兆があったし。でも相手もいないし、元からあまり反応しないんだ、平気だよ」
「どこが反応してないだ。マリカから離れろ」
「なんでそんなことを指図されなきゃいけないんだ」
「気づかないのか? お前、マリカに発情してるじゃないか」
なんだか二人で険悪な雰囲気だ。二人につかまれ、引っ張られて体が少し痛いです。はつじょう……私に、ですか。クイさんとはごにょごにょして、まあそういう仲であるといえなくもないけど、こうなった場合私から積極的に仕掛けることになるのだろうか。できますかね。
「……なるほど」
沈黙の後、クイさんはため息と共にそういった。
「そうかもしれない。こんな風になったのは初めてだ。相性のいい相手を探せって、こういうことか」
「駄目だ。マリカは私のものだ」
「マリカは、お前のものじゃないよ。マリカ自身のものだ」
おおっ……クイさんいいことを言う。そうだそうだ。ヘルさんは旦那様だからってちょっと横暴だ。もっと言っちゃえ!
「マリカが望まないことは、しないよ。ヘルベルクランだけがいいと心から思うなら、それでもいい。でも、本当に? あたしが、マリカに触れたのは、本当に、嫌だったのかい?」
「え、えええー、うーん……」
「マリカは私以外とは嫌だと言った」
「ヘルベルクランはだまってろ」
二人の間で緊張感が漂っている。見えない火花が飛び散っているようです。私をはさんでにらみ合い。はらはらするのでやめてほしい。
うーん、うーん。私が何か言うまでこの状態は続くんだろうか。エルテくんをちらりと見ると、姿勢よくたっていて、ぴくりともしていない。ゆるぎない。なんてたのもしい。
「あのー……誰彼かまわずっていうのはもちろん嫌だよ。私を取り合うとか、そういう景品がわりにとか、ゲームに使われるのも嫌。あの、でも、好きあって、そうなるなら、いいかなって。アレの話とか、人に知られるのも、嫌だから、そういうのも、やめてほしいけど……。
クイさんのことは好き。女の人同士でそういう関係って考えたこともなかったからよくわからないけど、こっちではそういうのもあることならいいんじゃないかな。恋人が複数ってのは、だいぶ抵抗があるんだけど……そういうもの、なんだよね?」
ヘルさんに閉じ込められて過ごすより、複数恋人がいるほうがましな気がする。
「あ、あ、でもでも、あの、ヘルさんも好きだよ! 一番好き!」
つかまれた腕が折れるかと思った。きっと恐ろしい顔をしていると思うからみないよ、私は。
「マリカ……あたしが側にいることを、許してくれるかい?」
「うん。いいよ」
クイさんは真面目な顔をしていた。私も重々しく了承しようと思ったけど、なんだか軽い言葉しか出なかった。それでも嬉しそうな顔をしてくれたからいいか。
さて、ヘルさんはどうしようか。
「俺も、マリカさまとずっと、一緒って約束したっす」
「うん! エルテくんも……」
あれ。あれあれ。一緒にいようってのは、プロポーズ的な言葉なんだよね。エルテくんに、私から、言ったような気がする。
このまえの、逃亡時のエルテくんのプロポーズをどうするかで悩んでたけど、それ以前に私からしていたと思われてたりして? もうすでに結婚していると思われてるんだったり? それじゃああのときの言葉は、俺だけにしておけよみたいな?
結婚相手が、いつのまにか3人になっていた。迂闊なことがいえない怖い世界にきてしまったと痛感した。




