ヘルベルクラン 3
兵営に行くため浮遊艇に乗り込むと、楽しそうに窓から外を眺めている。浮かれてはしゃいでいて、なんて可愛いのかと頬が緩む。
あんなところに連れて行きたくはなかったが、マリカが喜ぶなら悪くない。
兵営では警備員達がすでに整列して待っていた。マリカが丁寧な挨拶をする。今日の案内役は部隊長のテルデルミヤナだ。あの女マリカの手を握ってニヤニヤしている。さっさと離せ。
「……あの、獣姿のひともいるんですね」
ゲオルのことを気にするマリカに、部隊長はやつらを呼び寄せる。あんな毛深く獣染みたやつらを私のマリカに近寄らせないで欲しい。
マリカは興味深げにゲオルたちを見て、話しかけている。少しモジモジしたかと思うと、とんでもないことを言い出した。
「さ、さわっ、さわってもいいですか」
駄目に決まっている。ゲオルどもも断れ。ちょうどマリカの目の前にいる灰色のゲオルを睨みつける。断れ。断るよな。マリカに触られるなんてそんなうらやましいことを私の目の前でやるつもりか。
しかしあのけだものはにやりと笑って言った。
「どうぞ、ご存分に」
駄目に決まっている。ゲオルなぜ断らない。わかっているだろう、私のマリカはお前らがちょっと珍しくて声をかけてしまっただけなんだ。断るべきだろう。
しかしマリカはべたべたとけだものたちを撫で回している。あいつらの何がいいんだ。あの毛がいいのか? 毛深いのが好きなのか? 私ではいくら頑張っても、あのように毛むくじゃらにはなれない。種族の差は大きい。ゲオルをうらやましく思う日が来るなどと思ってもみなかった。ねたましい。涙まで出てきてしまった。ゲオルなど滅びればいい。
「ど、どうしたの……?」
驚いた様子のマリカが駆け寄ってくる。
マリカ、マリカ、マリカ……。抱きしめると苦しかったのか腕を叩かれた。駄目だ今は離れたくない。ゲオルのところになどいかれたら何をするかわからない。
小さな頭がもぞもぞと動いて、私の顔に柔らかいものが触れた。
「大丈夫だよ」
それはマリカの唇だ。言いながら先ほどこぼれた涙を舐め取られる。これは……マリカが好きなのは私だけ、だから大丈夫、ということか。そうなのか、マリカ。
「マリカ様。ここは社ではありませんよ」
マリカが照れて顔を隠した。続きは後にしよう。抱き上げて部隊長の案内に任せて見て回った。
その後応接室でマリカが昼の食事をしているとき、マリカの食べたがっていた料理のことを聴くことにした。
「そうだ。ここは他の種族がいるだろう。マリカが食べたがっていたごはんやパンというのに似たものを食べているかもしれない。話を聞きたい」
「先ほども会ったゲオルの三人とエーリエーが一人しかいないが、それでいいだろうか」
アレか……。あまり近づけたくないが、情報は欲しい。
「かまわない」
しかし私はすぐに後悔した。エーリエーの男が、マリカに言い寄り始めたからだ。ここのやつらはどいつもこいつも教育がなっていないのではないか。マリカを誰だと思っているんだ。私のものだというのに気安くするんじゃない。
そのエーリエーがパンに似ているものを知っているというので、作らせる。ぼんやりとした味であまり美味しくはなかったが、マリカは気に入ったらしい。フタフ粉を使った食べ物ということなので、探させよう。
別れ際にありがとう、といいながらゲオル達に抱きついていた。マリカ、やはりその毛がすきなのか?
屋敷でようやく二人きりになれたとき、聞いてみた。
「私にもゲオルのように毛があればよかったのに」
あんな風に積極的に触られたい。やつらがうらやましくてならない。マリカの柔らかい体を撫でながら、マリカにがやつらのように毛が生えていなくてよかったと思う。私はマリカのこのしっとりした肌が好きだ。毛皮はいらない。
「今のままのほうがいいよ」
マリカがぴったりと体を寄せながら言う。よかった。私も今のままのマリカがいい。




