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猫とのご縁、おつなぎします。~『あわせ屋』ミケさんと猫社の管理人~  作者: 香散見 羽弥@コミカライズ版『夜の聖女』7/17配信開始!


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26.夕暮れの異変


「ん……」



 ふわりと意識が浮かび上がる感覚がして(まぶた)を開く。

 体をゆっくりと起こし大きく体を伸ばすと、腕の骨が軽い音をたてた。


 外を見るとすでに暗くなり始めており、どこかでカラスが鳴いている。



「ずいぶん寝ちゃったんだ……」



 怠かった体は随分と軽くなっていて、頭もすっきりとしていた。

 アメのおまじないが効いたのか、異様にリラックスしていたらしい。



「起きたか」

「え?」



 隣から声が聞こえて振り向く。

 そこにはいつからいたのか、人型のミケが座っていた。




「うあああああ!?」




 のけぞって絶叫した紡生にミケは飛び上がった。

 相当驚いたようで、瞳孔(どうこう)をまん丸にして髪の毛を逆立てている。



「な、なんだ!?」

「あっ、ミケさんか、ミケさんね!?」

「ミ、ミケですが?」




 思わず敬語になるほど驚いたらしい。



「ご、ごめん。ちょっとビックリしちゃって」

「そんな驚くところあったか?」

「いやあ、ははは」



 慌ててごまかす。


 寝起きに美丈夫の顔を見てしまったがための絶叫だったのだが、まさか本人に面と向かって言えるわけがない。

 というか、寝起きに美形は心臓に悪いからやめてほしい。切実に。

 ミケは自分の顔の良さを自覚していないのか、なおも首を傾げていた。



(……ていうか、私この人の前でぐうすか寝ちゃったってこと!?)



 はたと気が付くと急激に恥ずかしさがこみ上げてくる。

 いびきとか変な寝言とか言っていなければいいけれど。



「おい? 熱でもあるのか?」

「へえ!?」



 どうやら羞恥で赤く染まった顔を、熱があるからだと勘違いしているらしい。

 ミケは心配そうにこちらを見上げてきた。



(え!? この人だれ!?)



 紡生の知るミケはひねくれていて、こんな風にダイレクトな心配はしないはずだ。

 なんて大変失礼なことを考えていると、ミケは手を伸ばしてきた。



「……熱くはないが」

「ちょっ!」



 額に手を置かれ、体温を測られる。

 母親のような仕草に羞恥心(しゅうちしん)天元(てんげん)突破(とっぱ)し、慌てて距離をっとった。



「ち、ちち違うから! 大丈夫大丈夫! ちょっと布団が暑かっただけ!」

「そうか? まあ確かに今日は冬にしては温かい方だが」

「全然! 全然平気! そ、それよりも、アメちゃんとイブキさんがいないけど、もう帰っちゃったの?」



 強引(ごういん)に話題を変えると、ミケはああと頷いた。



「あいつらは五社会議(ごしゃかいぎ)に行ってる。今日は帰ってこないだろうな」

「五社会議?」

「神余の管理している近隣五社の(こま)が集まる会議だ」

「へえ。そんなのがあるんですね。ミケさんは行かないの?」

「……やつらが集まるとうるさくてかなわんからな。オレはいかない」



 ミケは何かを思い出したのか渋い顔をした。過去に何があったらしい。



「まあ今日は緊急の会議だし、よっぽど無駄口は叩かないだろうがな」

「緊急会議って……なにかあったのかな?」

「……さあな。アンタは知らなくていいことだから気にするな」


「……そう? それならいいけど……。というか今更だけど寝かせてくれてありがとうございました。布団ってどうすればいい?」

「とりあえずたたんで壁側置いといて。後でしまっとく」

「了解」



 妙な間があったし、引っかかりは覚えるけれど、今聞いても答えてくれない気がする。

 紡生は黙々と布団を整えて運ぶことにした。



 お礼も伝えられたし、陽も沈みかけているし、そろそろ家に帰らなくては。

 そこまで考えて、はたと気が付く。



「ん? あれ。そう言えば私のリュックは?」



 いつも動きやすさを重視してリュックを背負っているが、寝かされていたときは当然ながら背負っていなかった。

 近くにあるかとも思ったけれど、部屋の中を見回してもそれらしいものはない。



「ああ、あれ。外の門の下」

「え、外? なぜに」

「なんかピコピコ鳴っててうるさかったから」

「ん? ピコピコって……」



 音の出るものなんてスマホくらいしかなかったはずだ。

 もっと言えばメールの通知はサイレントにしてあるから電話がかかってきたときくらいなのだが。


 紡生はなんとなく嫌な予感がして門扉へと走った。



「うわっ、鬼電(おにでん)来てる!!」



 やっぱりというべきか、電話が来ていた。

 しかも待ち受けに表示される通知がびっしりになるほど。



「えええ、なに~? ん、夏姉(なつねえ)から? しかも昼間からずっと!?」



 何があったのだろうか。

 紡生は不安になりながらかけ直すも繋がらなかった。



「ごめんミケさん。なにかあったみたいだから今日は帰るね!」

「待て。オレもいく」

「は?」



 予想もしない発言に目が点になる。



「な、なんで?」

「倒れた後の人間を一人で帰らすバカがいるなら連れてこい」



 ミケは嫌そうに眉を吊り上げた。



 そう言えば倒れた後だったんだった。

 となれば確かに一人で帰らせるのはちょっと気が引けるし、送るというのも納得だ。


 納得なんだけど……。



(ミケさんが普通のこと言ってる……!!)



 紡生の身に、衝撃が流れた。


 ミケが人に気を遣うなんて思っていなかったのだ。正直意外過ぎる。

 でもそれを素直に伝えてしまったら、きっとまたへそを曲げてしまう。


 紡生は驚きを飲み込んで頭を下げた。



「じゃあお願いします」

「ああ。さっさと行くぞ。日が暮れる」



 ミケはそう言うと門をくぐって先に出ていってしまう。

 紡生は慌ててその背を追いかけた。



◇ ◇ ◇



 夕暮れの中を並んで歩く。



「……そう言えばアンタ、夕暮れは平気なのか?」



 珍しくミケから話し掛けられた。



「え?」

「赤いものがだめって言っていただろ」

「ああ」



 一瞬なんのことかと思ったけれど、そういうことか。

 紡生は少し考えて頷いた。



「平気だよ。ほら、夕暮れっていろんな色が混じっているでしょう?」



 赤とかオレンジだけじゃない。

 ピンクや黄色、もっと言えば青や紫まで様々な色が複雑に絡み合っている。



「だからかな。よく夕暮れと炎は似ているとか言われるけど、全然違うよ。というかむしろ、夕暮れは結構好き」



 すべての生命を飲み込もうとする理不尽(りふじん)さを感じないし、夕暮れの光はそっと包み込むような優しさを持っているから。



「ふーん。そう言うもんか」

「うん。そう言うもんです」



 よくわからなくても「そう言うもん」と言えばだいたい納得される。


 お互い感覚の違いや分からないことがあっても受け入れられる距離感。

 この距離感が紡生は結構好きだ。


 気を遣いすぎる必要がないというか、踏み込まれ過ぎる心配もないからかもしれない。



「……それにしても珍しいね。この時間なのに誰も人がいないなんて」



 ふと辺りを見回すけれど、人っ子一人いない。


 いつもなら部活から帰る学生や夕飯の買い出しをする主婦とすれ違うのに、今日はどういう訳か誰ともすれ違わなかった。

 並んだ家からは夕飯の支度をしている音は聞こえているのに、人の姿だけが街から消えてしまったみたいだ。



「……」



 ふとミケが足を止めた。

 不思議に思って振り返ると、眉をひそめて遠くを睨んでいる。



「ミケさん?」

「……アンタ」

「ん?」

「もう家近いだろ。後は自力で帰れ」

「ええ!?」



 さっきと言っていることが百八十度変わっているではないか。

 抗議の視線を向けるけれど、ミケは遠くを見つめたままだ。



「……その先になにかあるの?」

「アンタには関係ない。帰れ」

「……」



 そんな風に言われると、何を見ているのか余計に気になるではないか。


 紡生はムウっと頬を膨らませ、ミケの視線の先に足を向けた。



「っおい!」

「寄り道してもいいでしょ」

「ふざけている場合じゃ!」

「……あれ?」



 ミケを無視して歩くこと数分。

 紡生の視線は電柱の下に置かれた黒いゴミ袋へと注がれた。


 ゴミの日でもないのに捨てるなんて。



 などと思っていると――ゴミ袋が、わずかに動いたのが見えた。



「……え」



 なんだ、あれは。


 もぞもぞと動いた? 袋なのに?

 なにか動くものが捨ててある……?



 戸惑う紡生をよそに、ミケは諦めたようにため息をつき、その袋に近寄っていった。


 そして封を解く。



「……うそ」

「――ギン」



 中に入っていたのは――ぐったりとして泡をふいた《《猫》》だった。





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