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遼州戦記 司法局実働部隊の戦い 別名『特殊な部隊』の初陣  作者: 橋本 直
第十一章 『特殊な部隊』の『特殊部隊』的性格

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第34話 粟田口国綱と皆殺しのカルヴィーノ

「邪魔するぜ」


 嵯峨に続いて、長らく店員になりすましていた嵯峨の配下の男がその後に続く。


 二十五階へ上がるエレベーターの内張りは経年で色褪せ、ボタンの周りには指紋の光が残る。外の派手さとは裏腹に、この建物の奥は静かで湿った空気が溜まっている。そこは都会の祝祭から切り取られた別世界のようだった。嵯峨はその差を嫌がらず、むしろ心地よく感じている。


 中では派手なラメの入った、どう見ても『一般市民には見えない』黒い背広を着た男が二人、巨大に見える執務机に座った赤い3つ揃えの背広に黄色いネクタイの男から指示を仰いでいる最中だった。

挿絵(By みてみん)

 部屋の照明は落とされ、机の上の書類やシャンパンの空瓶が不安定な浮遊感を生む。赤い背広の男の黄色いネクタイだけが、血管の色より明るく浮かび上がる。密輸の世界では色使いも威信のひとつだ。外惑星の輸入品に対する『顔見せ』は、彼らにとっての社交儀礼であり、祭りでもある。


 嵯峨は素早く左手に握った『粟田口国綱』を抜刀した。


 刀が抜かれた瞬間、金属と皮の擦れる音が室内の空気を切り裂く。観客の息が一斉に止まり、遠くの喧騒が抜け殻のように聞こえる。嵯峨の動作は雑に見えて非常に正確で、刀の刃が陽光を受けて一瞬銀色に走った。


 二人の男は素早く背広の中に手を入れて中の拳銃を抜こうとした。だが嵯峨の剣が下段から引き抜かれた『粟田口国綱』が宙に舞った。


 一刀目が手前の太った幹部的の喉笛を切り裂き、振り下ろした剣は隣のやせぎすの男の延髄を叩き割っていた。鮮血が部屋に飛び散り、首から噴き上げる血が壁や机を染めた。


 血の匂いが急速に濃くなり、革張りの椅子や高価な(しょう)の匂いと混ざって、独特の重さを帯びる。……気の弱い誠ならば生理的に拒否したくなる光景だが、嵯峨にとってはこれが『仕事の完成』を告げる音である。刃に付着した血は、やがて包帯や布で拭き取られ、記憶として刻まれる。


 カタギの人間なら卒倒しそうな光景を見ても、『皆殺しのカルヴィーノ』は表情を変えず、嵯峨をにらみつけるだけだった。


 カルヴィーノの瞳には驚きも怒りも混じらず、むしろ取引きが狂ったことへの淡い計算が見えた。彼は自分の『ファミリー』と称するものを信じているが、その信仰は金と利害に簡単に(こわ)れることを、嵯峨は既に知っている。


 さすがに彼はこういう『殺し合いの場』には慣れているらしく、すぐさま拳銃を抜いて嵯峨に狙いを定めようとしたが、その手を嵯峨を導いてきた若い男の手に握られた小型拳銃の弾が貫通した。カルヴィーノの手の拳銃は床に転がり、思わず傷を押さえたまま机に伏せてじっと嵯峨のほうを見上げる。


 嵯峨の制服と部隊章が、その男の視界に入った。それを確認すると一度床に視線を落とした後、ようやく合点がいったかのように作り笑いを浮かべる。


 嵯峨の胸元についた『大一大万大吉』の章票は、この場では説明不要の宣言文だ。それは『我々は国家の威を借りた公権力でも軍でもないが、秩序を構築する存在だ』という一種の社会的免罪符であり、相手の計算を崩すための道具でもある。カルヴィーノはその意味を理解すると同時に、自身の選択が間違っていたことを悟る。


「これはこれは……『特殊な部隊』の隊長殿。私でも予想できないようなお早いお着きで驚きましたよ。隊長と呼ばれるのはお気に召しませんか?『甲武国』風に『悪内府』と呼ばれることがお好みで?それともこの業界での隊長殿の2つ名である『人斬り新三(しんざ)』と呼ばれるのがお好みで?私はあいにく銃撃戦は得意でもこういう近接戦闘での剣での時代遅れの戦いは苦手なもので……確かに奥の倉庫には刀はありますが、使い慣れていないので隊長殿の退屈しのぎを務める自信がないもので」


 カルヴィーノの言葉は皮肉だが、その裏には地球圏特有の『名誉と見せ方』がある。地球のマフィアやファミリーは呼称や肩書によって自らの位置を示し、威信を運用する。嵯峨はそれを鼻で笑いつつも、相手の武器である『プライド』を一瞬で砕く術を知っている。


 死体を覗き込んで黙り込む嵯峨は気障な男の言葉にまるで反応しなかった。


「『隊長』も『悪内府』も『人斬り扱い』もどれもうんざり。俺の敵はみんなそんな呼び方をするんだ。そんな言い方には俺はそいつの人間性が感じられないから好きじゃないの。『特殊な部隊』の『脳ピンク』と呼びな。うちの人間味あふれるかわいらしい副隊長は愛情をこめて俺をそう呼んでる。俺はそう呼ばれるのが好きなんだ。別にその言葉に軽蔑の念が乗ってても俺は怒らないよ。俺はプライドゼロだから。お前さん達地球人が大事にする『誇り』や『面子(めんつ)』なんて興味は無いの。そんなもん食べてもお腹は膨れないでしょ?」


 そう言うと、嵯峨は血に濡れた『粟田口国綱』を一振りした。部屋中に血液のしぶきが飛び散る。


 飛び散る血がいずれ店頭に並ぶことになるであろう最上級のティアラのケースにまで及ぶ。ガラスの表面に赤が飛び散る光景を、外の世界にいる人間は想像しがたい。密輸品という舞台で繰り広げられる暴力は、常に『金融と儀礼』が下敷きになっている。嵯峨はその均衡を一刀で断ち切る。


「そうですか。私も祖国ではそれなりの血筋として知られた人間ですから、それに応じた挨拶が必要だと思っていたのですが……それで今日はどんな用事ですか?血を見るには、ずいぶんと早い時間のご訪問じゃないですか……それなりの用でないとあなたの行動は過剰防衛……いくら『特殊な部隊』が殺人許可証を持った同盟機構司法局所属の『武装警察』としてももっとやり方があるはず……違いますか?」


 男はそう言うと人の脊髄を叩き斬った後の刀の刃先を確認している嵯峨を見上げた。そこに覚悟の色のようなものを見つけた嵯峨は、安心したように左手に持った刀を担ぐとそのまま机にしがみついて痛みに耐えている男の前に立った。


 痛みに顔をしかめる男の身体の震えと、嵯峨の落ち着きは強いコントラストを作る。嵯峨は部下を守る『約束』を何より重んじる。遼州人が一億年ものあいだ焼き畑農業を続ける道を選ぶことで育った価値観のひとつは、『集団と個の責任の切り分け』だった。


 それは地球の『ファミリー』概念とも似て非なるものだ。遼州人の個は、集団から与えられた役割以上の責任を背負おうとしないし、集団もまた個に強い帰属意識を求めない。お互いを『極限環境を生きる同志』として見るだけ……その距離感こそが、地球人との決定的な違いと言えた。


 そして純血の遼州人である嵯峨もまたそんな集団への愛着はあってもそれに忠誠心を求めない人間だった。そんな嵯峨にとってこの死の迫った状況でも『ファミリー』への忠誠心を捨てようとしないカルヴィーノの態度は理屈では理解できたが感情的には分かり得ないものだった。そこまで追い込まれてなお『ファミリー』を盾にするくらいなら、とっとと逃げ道を探す。それが嵯峨の感覚だった。そして第二次遼州大戦で目の前の哀れな地球人と同じように遼州人の本能に反して『国家』を盾にした自分を思い出し自然に後悔の笑みが浮かんでいた。


「へえ、これだけ自分が完全に終わった状態になっても平然と皮肉を言えるとはたいしたもんだ。その根性は見上げたもんだよ。地球圏じゃ『皆殺し』と呼ばれただけの事は有るねえ。パレルモの旦那達もアンタを信頼するわけだ。利益確保の難しい地での裏ルート開発で認められて今の地位がある。それも立派なもんだ。地獄の超特急に乗るのかもしれないって言うのに俺をにらみ返すとは、その度胸も尊敬に値するね。なにか用かって……。分かってんだろ?お前さんの『飼い犬』の中の一つの集団がウチの馬鹿を一匹、拉致(らち)った件に決まってるじゃないの。俺の戦術には基本的に『捨て石』は存在しないの。それを知ってての今回の手だろ?だったら俺がここに居る理由も自然と分かるんじゃないのかな?」


 カルヴィーノは悪党らしくニヤリと笑った。そしてそのままよたよたと立ち上がると血が流れている右手で乱れたネクタイを締めなおした。ネクタイを直すその仕草に、彼のプライドが滲む。金と家族と裏社会を生きるものとしての『面子(めんつ)』が絡むこの世界では、傷を負っても姿勢を崩さないことが、次の交渉での生き残りに直結する。嵯峨はその皮膜を一つずつ剥がしていく。どこまでも遼州人の嵯峨にはそれらのすべてのプライドは無価値な嗤うべきものにしか見えなかった。


「何を根拠にそんな……確かに密輸稼業は褒められたものではありませんが、人身売買の嫌疑をかけられるほど落ちぶれたつもりはありませんよ、私は。それに私には守るべきものがある。イタリア人が『ファミリー』と呼ぶものに私は普通の人より強いシンパシーを感じている。家族を平気で斬り殺す貴方には分からない話かもしれませんが……ああ、遼州人にはそれも当然の行為だとあなたが言うのなら理解できる話だ……確かにそれなら理解できる」


 その言葉に嵯峨は全く表情を変えず、カルヴィーノの座っていた机を蹴飛ばした。


 嵯峨はそのままカルヴィーノの襟首を空いた左手で握ると、そのこじゃれたネクタイを思い切りつかみ上げて自分の眼前に引き寄せた。


「舐めんじゃねえぞ糞餓鬼。なにが『ファミリー』だ!そんなもん犬に食わせろ!俺は俺の部下と言う信じるに足る人間を守るという信条を守っているだけだ!東都警察がテメエの配下の下部組織を4つ潰して台所が火の車だってことは分かってるんだよ。どうせこのまま行ったら次の旦那衆の会合次第で、そこに飾ってある家族ともども地球の地中海で魚の餌になる予定なんだろ?今のテメエならカネの為なら何でもすることくらいお見通しだよ。最初に食いつくのはアンタなんじゃないかなあ……とは思ってたよ、俺はな!お前さんは言ったじゃないか……俺は家族すら平気で手をかける人でなしだって……()()()()()?」


 嵯峨の言葉は深い重みをもっていた。表情を変えずにそれを聞くカルヴィーノの肩がかすかに震えていた。嵯峨にとって『矜恃』とは、他人に見せるためのものではなく、自分が勝手に決めたルールを破らない、ただそれだけの話だった。


 カルヴィーノは静かに乱れた金色の前髪を血にぬれた手で撫で付けている。それを見ると冷たい笑みを浮かべた嵯峨が言葉を続けた。


「最近は肝心の薬のルートの密輸の失敗が続いてるそうじゃないの……肝心のそっちがどうにもならなきゃしょうがない……とは俺の立場では言えないんだよね。その一発大儲けの薬で稼ぐ道を閉ざされてケチな地球圏からの東和政府が見て見ぬふりをしている密輸稼業じゃ本国のお偉いさん達への上納金なんてとても納められねえ」


 そう言いながら嵯峨はテーブルにあるシャンパンの瓶を手に取ってじっくりと眺めた。


「それにこの東和じゃ地球人の違法活動には厳しい監視の目が常に付いててすぐに金になる違法薬物や女絡みでの金儲けは東和の地の指定暴力団とまともに商売で競争すれば負けは確実だからな。連中も遼州人の集まりだから地球圏から来たアンタにかつて自分達を支配しにやって来た宇宙人であるアンタ等と手を組むようなことはあり得ない」


 嵯峨はそのままシャンパンのラベルの字を読みながらそう言った。


「地の利のある遼州人の暴力団との競争に勝てないとなると必然的にこの店みたいに東和でも普通にやってる商業活動しかできないわけだが……そんなのマフィアの金の稼ぎ方とは言えねえわな」


 そう言うとそれまで読んでいたシャンパンの瓶のラベルから目を離した嵯峨は瓶を静かにテーブルに置いた。


「まあ、この店の商売じゃ違法ネット取引業者レベルの小銭ばかりと言うことで金に困ったお前さんは、東和の政府機関が手を出す可能性が少ない上に手っ取り早く金になりそうな博打に出たわけだ。東和共和国以外の金持ちの地球政府関係者が探している俺達『法術師』を捕まえて売れば、当然、相当なカネになる。東和の政府機関は『法術師』の危険性を熟知してるからそれが『闇から闇』ということで終わるならこれまで隠し通してきた『法術師』の存在は表ざたにならないわけだからお前さんの行動を黙認する可能性が高い。まだ自覚のないうちの神前はそんな覚醒間近の『法術師』ということでその中でも一番安全パイだったって訳だが……アイツは一応俺の部下でね。一番の安全パイと思ったカモが実はアンタにとっては最悪の地雷だったというわけだ。俺は部下を見捨てないことを売りにしてるんでね。俺もその『法術師』が俺の部下じゃなかったらここにいなかった。アンタの選択は最悪の選択だった……そう言うことだ」


 そう言いながら嵯峨は怯えるカルヴィーノを無視して今度は壁に掛けられた絵に視線を飛ばす。


「アンタの目の付け所はその対象がこの俺の部下ということ以外は俺としては十分合格点だとは思うよ、俺達『法術師』の中でも飛び切り攻撃的な『素質』を持った存在を、生きたまま捕獲する。そりゃあとんでもない金がオメエの懐に転がり込んでこれまでの赤字ギリギリのこの組織は地球圏でも一気にトップの上納金を収める優良組織と成りあがることができる。そうすれば、アンタはその功績を買われて旦那衆から土下座されてトップになれる。そうオメエさんは考えたが……相手が悪かったな。神前は俺がそれなりの苦労をして俺の部下にした『法術師』なんだ。俺は自分のした苦労をただでくれてやるほど間抜けじゃないんだ」


 嵯峨はそう言い終わると、胸ポケットから軍用タバコ『錦糸』を取り出した。


「この部屋は禁煙ですよ……人を率いる身なら世の中のマナーぐらいを守る精神は持っておいた方がいい。それはマフィア云々ではなく人間としての常識です」


 青ざめた顔をしながらも、東都の地球系マフィアを統べるボスとしてのプライドから、カルヴィーノは引きつった笑みを浮かべながらそう言った。


「俺が人間失格?そんなことはさんざん言われてるから俺は気にしない。さっき言ったじゃん、俺はプライドゼロなんだって。聞いてるぜオメエはタバコはやらねえらしいな。そこに立ってるさっきまでお前さんの腹心で本当は甲武国陸軍の諜報員だったお方からその奇癖は俺には完全にお見通し。まったく『この業界』で禁煙主義なんてつまんねえ人生送ったな。『同業者』としては理解不能だ」


 嵯峨はカルヴィーノの言葉を無視してタバコに火をつける。カルヴィーノは肩を落として嵯峨の姿をただ見つめていた。


「その俺をにらむ覚悟の決まった面。どうせこれから俺達の手から東和の警察、そして検事や弁護士の前でも何も話すつもりは無いんだろ?地球系マフィアのその忠誠心はいつも感心させられるよ。遼州系の暴力団連中にも講習会でも開いて教えてやってくれよ、その『美徳』を。かなめの奴が工作員として参加した東都戦争じゃこの国のヤクザ共は裏切りに次ぐ裏切りを続けてたそうだ。連中は既に国の約束事である法を犯してるんだからいまさら仲間を売るなんて当然だって考えてるらしいんだ。たとえ無法者にはルールがあるというお前さんの美徳があれば、東和政府の鎮圧作戦は失敗して東都戦争は今でも続いてたかもしれないねえ。まあそうするとかなめ坊がまだ戦争参加中でうちに引き込めなかったからそれはそれで俺としては困るんだがね」


 そんな嵯峨の皮肉にピクリとカルヴィーノはこめかみを動かした。


「まあ、ここでテメエを斬ってやってもいいんだが……」


 嵯峨はそう言って再び『粟田口国綱』を握りしめた。その様子に覚悟を決めたような笑みがカルヴィーノに浮かぶ。


「『人斬り新三(しんざ)』で売ってる貴方が私を斬らないのですか?東和の警察の尋問方法がどんなものかは聞いていますが私は何も話しませんよ。そんな時間の無駄をするなんてあなたの2つ名に傷が付くんじゃ無いですか?」


 苦々しげに呟くカルヴィーノに嵯峨は不敵な笑みで応える。


「うん、斬らない。アンタは生かしといた方が面白いからな。当局にテメエの身柄がある限りテメエの家族の安全ははどうなるかわからない……そうなればパレルモの旦那達はアンタの家族に何をするか……ああ、それは言わない約束だったな。俺としても地球人の弱点である『家族愛』に付け込むなんて……アンタも俺を酷い奴だと思うだろ?いいよ、そう言っても。俺は別に気にしないから」


 そう言って嵯峨は憐れむような笑みをカルヴィーノに投げかける。一刀で終わらせてやるほど、嵯峨は甘い男ではない。

 

 それが嵯峨なりの、部下を『商品』扱いされたことへの『釣り合い』だった。


 カルヴィーノはムキになったように嵯峨の手を振りほどいた。


「言うな!それとなんだその目は!そんなに家族を思う人間が不思議に見えるか!この非情な異星人が!」


 感情にかられたカルヴィーノの叫びがシャンデリアの吊り下げられた部屋に響いた。嵯峨の手から解放されたカルヴィーノは、思いつめたような表情を浮かべてネクタイを締めなおす。


「だから、俺をいくら悪く行っても無駄だって何度言ったらわかるのかな?事実はお前さんの思惑は全部外れた。そして俺の望み通りお前さんはこれから東和の警察官に連れていかれる。目で見た物だけがリアル。いい加減夢なんて見るのをやめて現実を認めなよ。まあ、落ちた『極道の行先』は地球圏も遼州圏も同じで『地獄』って決まってるんだ。完全黙秘で刑期を終えりゃあ女房の葬式には間に合うだろ……営利目的誘拐……しかもその指示を出していた人間が地球人だとなればこの国の裁判所は情状酌量で減刑なんてことは絶対にしないからな。きっちり最高刑期を刑務所の中で過ごすことになるわけだ……おそらくファミリーは放射能除去装置のある奇麗な環境からお前さん達の家族を地球の一般市民が暮らしてるような放射能だらけの環境に追放する。そうすりゃあ……皮膚ガンって地球人の死亡率では第5位らしいね。まあ、1位で2位が自殺ってのがいかにも格差社会の地球らしいや」


 嵯峨がそこまで言った時、アメリア麾下の運航部の女性隊員達がそれぞれ小銃を手に部屋になだれ込んでくる。


「動くな!」


 長身のアメリアが手にした拳銃を素早く構えてカルヴィーノの額を狙う。

挿絵(By みてみん)

「おお、ご苦労さん。まあ、これから完全黙秘を貫こうとする『アウトロー世界の勇者』だ。丁寧に扱ってくれよ!しかもカミさんも娘もあと5年で放射能によるガンで死ぬという悲しい運命を背負ってるんだ」


 嵯峨の言葉を聞くとアメリアの部下達はカルヴィーノを引き立てて部屋を出ていく。


「一件落着ってことか……いや、これからが問題か……」


 嵯峨はそう言うとゆっくりと刀を鞘に収めた。


「アメリア、一応、これで東都警察はこの密輸店を『黙認』できなくなるだろうからな。今頃、丸の外署ではマル暴の特殊部隊が出動準備の最中だろう。連中との折衝はお前さんがやってくれ」


「了解しました」


 紺色の髪に青いベレー帽をかぶった指揮官らしい姿のアメリアに嵯峨はそう言った。


 彼はタバコを咥えたままこの店の『真の主』がいた部屋を後にした。


「さあて……これはこれで一件落着。神前は結局俺の手持ちのカードからはこぼれなかったわけだ。こちらのカードは順調に良い手になるように集まってる……さあ、俺と勝負をしている旦那衆よ。そっちのカードの手は何だろうな……今度はアンタ等が手札を晒す番だよ……どんな手が出て来るか楽しみだな」


 そうつぶやくと嵯峨は煙草の煙を天井に向けて吐いた。




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