友との戯れ
エルトリア王国王都ローマの中心部に建設された黄金大宮殿。その広大な敷地内の一角に設けられているロレム離宮。
そこは離宮というより闘技場である。
中心部の中庭を囲うように四方を黄金で築かれた分厚く高い、まるで城壁のような壁に覆われており、この中庭で奴隷や猛獣でも放って殺し合わせ、壁の上から国王や貴族が観戦でもする場所なのかと初見の者は誰でも思うだろう。
そこでは今、二人の幼い少年少女による対決が行なわれていた。
空中では魔法の矢が無数に飛び交い、ぶつかり合った矢は凄まじい勢いの爆発と共に消滅する。
複数の魔法をたった一人で同時使用するのは高等技術だ。それを二人の少年少女はどちらも数十数百というとんでもない規模で行なっている。
その様はもはや魔導師同士の対決というより戦争と言った方が相応しい戦いぶりだった。
そんな戦いを披露している少年こそエルトリアを統べる黄金王タルキウス・レクス・エルトリウスである。
艶のある綺麗な黒髪をした少年は、まだ幼さを残した愛らしい顔立ちをしているものの、真剣な顔つきで戦うその姿は歴戦の勇士そのものだった。
タルキウスは黒色のトゥニカを身に纏い、右手には王家に代々伝わる黄金製の杖が握られている。長さはタルキウスの幼い身体と同じくらいで、先端には大きなダイヤモンドが取り付けられていた。
そんなタルキウスと対峙しているのは、足下まで伸びる桃色の髪をした少女パンドラだった。
見た目こそ幼い少女だが、“人類最古の魔女”という異名持ち、その名の通り人類史上初の魔女とされる。
そのため実年齢を知るのは彼女本人のみ。
しかし、パンドラは見た目相応の少女らしく、楽しそうに笑みを浮かべながらタルキウスとの戦いに興じている。
真っ赤な瞳は常にタルキウスの一挙手一投足を捉えて逃さず、その動きを的確に見切っていた。
可憐な美貌を持つ彼女だが、ある意味でそれ以上に目を引くのは、首から下の装束だった。
彼女は首から足首までを白い拘束衣に包まれていたのだ。
その上から幾つもの黒いベルトで全身を縛られて身体の自由を奪われている。
両手は胸の下辺りで交差し、袖は背中の方に回されていた。
両足はピタッと閉じた状態で三本のベルトでしっかりと縛られ、足首には鋼鉄の枷が嵌められている。
身体の自由という自由を剥奪された彼女は、それでも不自由そうな様子を一切見せない。
魔法の力で宙に浮かび、まるで見えない椅子に座るかのような仕草をする。
そんな二人は、今も休む間もなく戦い続けていた。
それは魔法と魔法、魔力と魔力のぶつかり合い。そしてどちらの集中力が上かを計る戦い。
しかし、その戦いに終わりは見えず、一向にどちらも隙を見せる事は無く、集中力を切らす事は無い。
「くそッ! こうなったら!」
集中力は切れていないが、この膠着状態に業を煮やしたタルキウスが戦術を変えた。
「ふふ! 堪え性の無いのはタルキウスの悪い癖よ!」
パンドラはニコッと笑いながら忠告をする。
「偉そうにしてやれるのも今の内だぜッ!」
負けじと笑みを作って返すタルキウス。
二人は戦いながらも楽しそうだった。
なぜなら、どちらも互いに全力を出し合える相手が他にいないからだ。
互いに目の前にいる相手が初めてだった。
全力を出して正面からぶつかり合える、文字通り対等の存在に向き合えるのが。
◆◇◆◇◆
「くっそ~。また引き分けかよ~」
全身から汗が噴き出しているタルキウスは、汗まみれになった黒いトゥニカを脱ぎ捨てて、程よく引き締まったその肉体を露わにすると、その場に寝そべった。
「……それは、私の台詞よ」
パンドラもタルキウスの傍まで浮遊してくると、流石に草臥れたようで、地面に落下するように倒れ込む。
二人は仲良く横に並んで地面に寝そべり、離宮の中庭に吹く風で温まった身体を冷やす。
「もう! タルキウスの馬鹿魔力はどうなってるのよ。その小っこい身体のどこにそんな魔力があるんだか」
「小っこいは余計だ。それを言うならパンドラの方が俺より小さいだろ!」
「些細な差よ! それに私が真の姿に戻ったら、ものすごいなんだからね! 胸だって、こうッ!」
両手両足を拘束衣で縛られているパンドラは、身体を蛇のようにバタつかせて目一杯表現しようとする。
「へいへい。その話は何度も聞いてるよ」
「む~! 信じて無いわね!」
たわいも無いやり取り。
それは本当に子供らしい言い合いだったが、二人は心底楽しそうだった。




