ドラゴン退治
突然のドラゴンの登場に、中央広場はパニックに陥った。
その様子を見て、タルキウスは小さく溜息を吐く。
「まったく。たかが羽根の生えたトカゲ一匹に大騒ぎしやがって」
その時。ドラゴンは口を大きく開けて、膨大な魔力を集束し始めた。
それを目にしたタルキウスは椅子から立ち上がってリウィアの下へと駆け寄る。
「た、タルキウス様、あれは一体何なのですか?」
「閃弾だよ。ドラゴンの使う攻撃魔法さ。あれが放たれたら、一撃でここ等一帯が吹き飛ぶかもな」
「そ、そんなッ!」
「でも安心してよ。発射する前に仕留めるからさ!」
そう言って無邪気に笑うタルキウス。
タルキウスにとってドラゴンは強敵でも何でもないのだ。
複雑な紋様の真紅色をした魔法陣が浮かび上がり、そこから一本杖が姿を現す。
エルトリウス王家に代々伝わる神器【雷霆の杖】である。
タルキウスは杖を頭上のドラゴンに向けて掲げた。
一瞬にして、ドラゴンの閃弾をも上回るほどの膨大な魔力が杖の先に集束する。
その魔力は燃え上がる炎となって上空に向かって打ち上げられた。
膨大な規模と熱量を持った炎に襲われて、海竜は悲鳴のような咆哮を上げる。
集束しかけていた閃弾の魔力は暴発して、ドラゴンの口元で大爆発を起こす。
タルキウスの攻撃、そして自分の魔力の暴発をまともに受けたドラゴンは、体勢を崩して広場に落下。背中から地面に身体を叩き付けられた。
幸い、広場にいた市民は避難していたので、ドラゴンの下敷きになってしまう者はいなかった。
だが、ドラゴンが落下した事で舗装された地面が砕けて吹き飛び、周囲に石や砂埃が飛び散ってしまう。
その様を見物していたクラッススは唖然としている。
「そ、そんな。ドラゴンをたったの一撃で……」
完全に目論見が外れてしまったクラッススは、どうしたら良いのか分からなくなった。
「へえ。あの子、中々やるわねぇ」
対するフリュネこと女神ウェヌスは、試合観戦でもしているかのように楽しそうに見物している。
一時、気を失ったドラゴンが目を覚まして起き上がった。
そしてタルキウスの姿を目視する。
「何だ? まだやるってのか?」
強気の姿勢で一歩前へ踏み出すタルキウス。
するとドラゴンは、恐れおののいて翼を広げて大空へと逃げていった。
「ふん! デカい図体の割に大した事ねえな」
「タルキウス様、お怪我はありませんか?」
「大丈夫大丈夫! あいつ、全然大した事なかったからさ!」
「ふふ。タルキウス様ったら。頭や肩に砂埃がかかっていますよ」
そう言ってリウィアはタルキウスの頭や肩にかかった砂埃を払う。
◆◇◆◇◆
結局、聖女裁判の結果はリウィアの続投という形で決着した。
その決め手なったのは、ドラゴンの襲撃で少なからず発生した怪我人の手当てを率先してリウィアが行なったからだ。
それが市民の好感を呼び、リウィアに票を集める結果となった。
「おのれ! 策が裏目に出るとは……」
ドラゴンを中央広場に放つという策を繰り出したクラッススは邸でやけ酒を飲んでいた。
裁判に勝てなかった事よりも、自分の策が結果として敗北の決定打となってしまった事が悔しかったようだ。
「まあまあ良いじゃないの。私はけっこう面白かったわよ」
クラッススのやけ酒の相手をしている女神ウェヌスは、負けたというのにむしろ清々しいという表情を浮かべている。
「ウェヌス様は負けて悔しくはないのですか?」
「ま! 悔しくないと言えば嘘になるわね! でも、あのおチビさんとリウィアちゃんの仲の良さを見たら、割って入るのは申し訳ないかなって気がしたのよ。私、これでも愛の女神だからね」
「……では、あなたは今後どうなさるのです?」
「今回はこの身体の本来の持ち主の意思を尊重して、あなたの指示に従ったけど、もう義理立ては充分でしょう。尤もあなたがお望みなら、私の美貌とテクニックを存分に味合わせてあげるわよ」
「ッ! い、いや、遠慮しておこう」
フリュネの美貌で破滅した男をクラッススは大勢知っている。
そんな彼女に愛の女神の手練手管が加わった今、もう若くないとはいえ、クラッススも理性を保てる自信はなかった。
「ウェヌス様が望むのなら、私の別荘の一つでも与えましょう。身の回りの世話をする奴隷も手配致します」
「あら。悪いわね。それじゃあお願いしようかしら」
「……」
彼女の美貌は、いざという時には貴重な武器になる。
今回はこれを手に入れられただけでも良しとしようとクラッススは前向きに考えるのだった。




