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聖女裁判

 エルトリアの政治・経済の中心地であるフォルム・ロマヌムの中央広場に、即席の裁判場が設置された。


 ここで行われるのは聖女裁判である。

 裁判と言っても、現役の聖女が聖女として相応しいか、また新たな聖女候補が本当に聖女に相応しいのかを論じる場であり、罪を云々言う場ではない。


 今回の裁判を取り仕切る裁判長は、最高神祇官マクシムス。

 彼はこの会場で最も高い台の上に立つ。

 そして今回の裁判の主役であるリウィアとフリュネを交互に見ると、後ろへ振り返る。

 その視線の先には、調和の女神コンコルディアと正義の女神ユスティティアの石像が並んで建てられており、マクシムスと裁判関係者の神官はこの石像に身体を向けて一礼をした。これはエルトリアでの裁判における正式な手順だった。


「ではこれより、聖女リウィアの不信任を巡る裁判を執り行う!」


 今回の聖女裁判では、リウィアとフリュネの双方に弁護士が付いて議論を重ねるという形式が取られている。

 フリュネの弁護士を務めているヒュペレイデスは、数々の裁判を勝利に導いた雄弁家として知られる人物で、この日のためにクラッススが高額な報酬を払って招いたのだ。


 対するリウィアの弁護士は、タルキウスに泣きつかれる形で法務官マエケナスが務めている。

 本当ならば、タルキウス自ら壇上に上がってリウィアの弁護士をしたいところだったのだが、聖女裁判の慣例として国王は弁護士にはなれなかった。


 マエケナスはなぜ自分がこんな事をしなければならないのか、という顔をしながらも自身の職務を全うすべく堂々としている。


 裁判が始まって真っ先に口を開いたのはヒュペレイデスだった。

「聖女は時として陛下のためにその身を捧げる覚悟でなくてはなりません! にも関わらず、リウィア様の戦闘能力は皆無と言ってよく、これではいざという時、聖女の任を全うできるとは到底思えません!」


 それに対して、マエケナスは持ち前の雄弁さで反論する。

「確かに聖女には、陛下の御身をお守りする最後の盾という役割もありますが、だからと言って戦闘能力の有無は関係無いでしょう。現にリウィア様は幾多の戦場で、その天才的な医療魔法の力を披露して陛下や前線の兵士達の治療を行なったという実績があります」


「しかしそれは裏を返せば、肝心な時は陛下の後ろに隠れている事ではありませんか?」


「そうとも言えますな。ですが、それは考えようでしょう。何しろ我等が国王陛下は最強の魔導師であられるのですから。陛下に必要なのは突出した戦闘要員ではなく、事後処理のできる方だった、と考えればちょうど良い組み合わせではありませんか」

 あまり積極的な裁判で無いにせよ、一度引き受けたからには必ず勝利をもぎ取ってみせる。

 マエケナスとはそういう男だった。


「それは結果論というものでしょう。リウィア様が聖女に適任かどうかとはまた別儀ではありませんか」

 ヒュペレイデスも負けじと応戦する。


 両者は一歩も譲らぬ激しい舌戦を繰り広げる。

 それは非常に見応えのある攻防であり、傍聴席の市民はまるで闘技場で試合を見物しているかのような熱狂ぶり。


 しかし、一向に見えない勝負の行方にクラッススは苛立ちを覚えていた。


「有能な雄弁家というから高い金を払って雇ったというのに何をもたついているのだ。それにマエケナスもいくら陛下のご命令とはいえ、これまであれだけ支援してやったというのに、少しはこちらに歩み寄るのは筋であろうに。……こうなったらやむを得ん。あの手を使うか」



 ◆◇◆◇◆



 裁判が激しい攻防からやや膠着状態の流れを見せ、傍聴席の観客達にもやや飽きた様子を見せ始める。


 凄まじい咆哮と共に突風が吹き荒れた。


 その突風に異様な魔力を感じたタルキウスはいち早く頭上を見上げる。


 やがて何かが日光を遮って中央広場に影を落とした。


「ん? 何だ? ……ッ!! ど、ドラゴン!」


「ドラゴンの襲撃だ!!」


 広間の上空に現れたのは大きな翼を広げ、人一人を丸呑みにできそうな大きな口を開けたドラゴンだった。


「ど、ドラゴンだと!?」


「何でドラゴンがこんなところに!?」


 ドラゴンは人間よりもずば抜けた戦闘能力を誇り、世界最強の生物だと言われている。

 しかし個体数が少なく、また知性レベルが高い事から人間との争いを避けて山奥など人目につかない場所で暮らしていた。


 その一方で、プライドが高い性格で獰猛なため、飼育にはまったく向いておらず、人間の方からも自ら近寄ろうとはしない。


 これにより人間とドラゴンは適度な距離感を保って、それぞれの生活圏を確立するに至ったのだが、そのドラゴンが今、人間の生活圏の中心部に踏み込んでいる。


 ドラゴンは激しい咆哮を上げながら、ゆっくりと中央広場に向かって降下してくる。

 人々は慌てて我先にと逃げ出し、広場は一瞬にしてパニック状態になった。


 この状況をクラッススは密かにほくそ笑む。

「よし。良いぞ。手筈通りドラゴンをここまで誘導できたな。後はウェヌスが公衆の面前でドラゴンを追い払えば、誰も彼女が聖女となる事に異論はあるまい」

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― 新着の感想 ―
[良い点] クラッススの奸計素晴らしいですね。演出としては、とても良い考えだと思いました。そして、聖女としてリウィアが継続されるのか、何らかの窮地に陥るのか。目が離せません。 [一言] タルキウスもこ…
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