第九十九話
「それじゃよろしくなフレイムドレイク……ところで名前はないのか? 種族名じゃなく、個体名」
『我個人の名前ということか? それならば持ち合わせていないな。今までそれが必要となったことがないからな』
アタルの問いに首を振ったフレイムドレイクが答える。バルキアスの時と同じパターンだなとアタルは考え込む。
「なら、アタル様がつけてあげればいいじゃないですかっ。私がバル君の名前をつけた時のように」
良いことを思いついたというように話すキャロの提案を受けたアタルはそれで構わないか? という視線をフレイムドレイクに送った。
『ふむ、お主が我の契約者なのだからそれが良いだろう』
許可というよりも、フレイムドレイク自身もそれを望んでいるという風だった。
「俺が命名か……少し考えてみよう。とりあえず山を下るぞ」
アタルはそう言うとひらりと身をひるがえし、ぶつぶつと考え込みながら先頭を歩いていく。
「ア、アタル様っ! ぼーっとしていては……」
危ない、そう注意をしようとするキャロだったが、アタルは考え込みながらも敵の気配には気を配っているようで、よどみない動きで銃を駆使し、魔物の頭部を撃ち抜いていた。
『……あやつは一体どういうやつなんだ』
アタルの後ろをキャロたちと共についていくフレイムドレイクは彼の無駄のない動きを見て驚いていた。
「あれがアタル様なのです。我々の主人ですよっ!」
キャロにとっては、奴隷契約を解除した今でもアタルは主人であり、今後も許される限りともにあろうと決めている。自慢の主人であると嬉しそうに話している。
『アタル様はすごいよ! キャロ様もすごいけどね!』
バルキアスは両者のすごさを別のものとして感じているため、その両方をすごいと言い切れていた。
『なるほどな……これからあやつがどう進んで行くか見ていくのも一興だ。ゆえに、主と認めるのも悪くないかもしれないな』
フレイムドレイクにとって、現在のアタルは同等の契約を交わしたものという繋がりだった。しかし、彼を主としてあおぐのも楽しいだろうなとも思い始めていた。
一行はこの様子のまま、ふもとへと向かって行く。道中の魔物は登った時よりも少なく、その全てをアタルが倒していた。
「やはり、アタル様はすごいですねっ」
魔物が現れてから対処するのではなく、現れるであろう場所に銃弾を撃ち込み倒していた。そんな先読みする力にキャロは感嘆していた。
「さて、それじゃそろそろ名前をつけるか」
ずっと考え込んでいたアタルが振り向いて言ったのは、安全な場所に出てからだった。
『おおう、急な話だ。それでお主は我にどんな名前をつけてくれるのだ?』
不意をつかれたフレイムドレイクは驚きつつもアタルが決めた名前に内心わくわくしていた。その証拠に、小さな尻尾が左右に揺れていた。
ちなみに、フレイムドレイクは小型サイズのままで来ており、バルキアスの背中に乗っていた。
「フレイムドレイク、お前の名前は……イフリアだ」
アタルが最初に思いついたのはゲームに出て来た炎の属性の精霊イフリートだった。炎を操る姿からそれが頭に浮かんだのだ。そして、その名前をもじったものにした。
『イフリア……ふむ、悪くない。我の名前として不足ない響きだ』
「……どことなく女性的な名前ですね」
名を聞いたキャロは気になった部分をぽつりと言った。
「あぁ、そうだな。精霊ってのは性別がないと思ったから、そのあたりは気にせずつけてみたんだが。気に入らなければ考え直すぞ?」
念のためアタルは別の候補を頭の中で考えながらフレイムドレイクに確認する。
『いや、我は気に入った。今よりイフリアを我の名前とする』
気に入っていることがわかるくらいにはイフリアの尻尾は左右に揺れていた。それを感じ取ったバルキアスも嬉しくなったようで同様に尻尾を横に振っていた。
「気に入ってくれてよかったよ。これで俺たちの一つ目の目標が達成できたな」
「あ、そういえば、イフリアさんは精霊ということですが……どの分類になるのでしょうか?」
聖獣、霊獣、神獣と契約しようと決めて探し求めた結果がイフリアとの出会いだった。その目標が達成できているのかをキャロは気にしていた。
『ふむ、そうだな。我を分類するとしたら霊獣が近いかもしれんな。我より格の低い精霊であればよくて聖獣どまりだろうが、我くらいになれば霊獣になるであろうな』
他の精霊とは違うのだと少し得意げな様子のイフリアは胸を張っている。
「そうか、ちなみにイフリアが乗っているバルキアスだが、そいつは神獣フェンリルだぞ」
気づいていないようなのでアタルがそれを指摘する。
『な、なんだと!?』
驚いたイフリアは思わず飛び上がり、空中で待機しながらバルキアスのことを見ていた。
『はーい、フェンリルのバルキアスです。よろしくね! 母さまは神獣としてふさわしかったと思うけど、僕はまだまだだからそういうの気にしなくていいと思うよ! だから、よろしくねイフリア!』
自分が神獣であることは気にしないでくれ、ただし年上だとわかっても対応は変えないよ? というバルキアスからの先制パンチだった。無邪気さの中にも抜け目がないバルキアスであった。
『ふ、ふふふ、さすがだな。我が仲間に加わるのであればこれくらいであるのが相応しい』
動揺交じりに笑うイフリアは自分以外の面々が自分にふさわしいだけの格を持っていると喜んでいた。
「ま、まあよくわからないが、納得してくれているようでよかった。改めて自己紹介するが、俺はこのパーティのリーダーのアタルだ」
「私はアタル様の従者のキャロですっ。バル君の契約者になります。ウサギの獣人です、よろしくお願いしますっ」
『僕はバルキアス、キャロ様と契約してるフェンリルだよ!』
それぞれが自己紹介をして、改めてパーティになったという認識を強めた。
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