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魔眼と弾丸を使って異世界をぶち抜く!(Web版)  作者: かたなかじ


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第九十二話


「……フェン、リル? あ、あの、神獣と言われているフェンリルですか!?」

 知識としてはフェンリルのことを知っているようで、ミランはあんぐりと口を開けて驚愕しているようだった。

「みたいだな。こいつの親がそう言っていた」

「話したんですか!?」

 そして神獣と言葉を交わしたことが余程衝撃的だったらしく、ミランは思わず立ち上がってしまっていた。


「あ、あぁ、そんなに驚くところなのか? 神獣とまで言われてたら話すくらいはしそうだがな」

 表情にはわかりにくいかもしれなかったが、アタルは反対にミランのリアクションに驚いていた。

「だ、だって、神獣といったら伝説上の生物なんですよ? そもそも、本当に存在するのかも怪しいといわれているくらいなんですから!」

 淡々としたアタルへ食い気味に迫りながらミランは立ったまま、身振り手振りで熱く語っている。


「そ、そうか。それで、森でみかけられたという巨大な狼のような魔物というのは恐らくその親フェンリルのことだと思う。それくらいには大きなサイズだった」

 それでもアタルが冷静に報告を続けたことで、ようやくミランも落ち着きを取り戻したのか、すとんと力が抜けたようにソファに座りなおす。


「な、なるほど……。確かにそれは外には出せない情報ですね。ちなみにその親フェンリルはどうなったのですか? 子どもを連れてきているということはまさか……」

 神獣たる存在を殺したのか? そう彼女は聞きたいようだったが、アタルは静かに首を横に振る。


「俺たちが発見した時には親フェンリルも元気そうだったんだが、それは残った生を使い果たして強くふるまっていたらしい。そして、そっちの子フェンリル。名をバルキアスというんだが、バルを俺たちに託してすぐに亡くなった」

 それを聞いたミランは一瞬ハッとした表情になった後、申し訳なさそうな顔で頭を下げた。


「失礼なことを言いました。申し訳ありません」

「いや、気にするな。逆の立場だったら、俺も同じ予想をしていたと思う」

 そんなミランをアタルが慰めたように見えるが、彼はそうするだろうと予想して気にした様子もなく口にしただけだった。その亡骸はアタルたちが埋葬してきたことを伝えるとミランから感謝された。


「それよりも、これで依頼完了ということでいいのか?」

 だからこそあっさりとアタルは話を本題に戻す。

「え、えぇ、色々と驚くことがあって混乱していますが、元々の依頼は森で見つけたという魔物の調査でしたからね。それ以外のことは私の関与するところではないので、完了でいいと思います」


 動揺しながらも頷いて答えたミランのそれはドライな判断のようにも聞こえるが、アタルたちがフェンリルと契約したことは外には漏らさないし、それに対して何かを言う事もないという意味を含んでいた。

「それならよかった。次は山のほうに行ってみるつもりなんだが、そっちも向かって問題はないか?」

「あぁ、翼の生えた巨大な魔物の目撃情報というものですね。もちろん、そちらも私がお二人に提供した情報ですので向かって頂いて問題ありませんよ」

 

 にっこりとほほ笑みながらミランは特に咎める理由はないと答える。それを聞いたアタルはすぐに立ち上がった。

「なら、今度はそっちだな。今日は買い物をしたら宿に戻って明日出発しよう。最初の一件目で神獣なんていう大物をあてられたんだから、次も期待できる」

 アタルは楽しそうな笑顔をミランに見せた。今回はキャロに契約を譲ったため、次は自分の番だと今から楽しみにしているようだった。


「お二人とも気をつけて下さい。森は比較的落ち着いているようですが、山のほうは反対に最近魔物が増えてきているという話を聞きます」

 それもギルドに寄せられた情報だった。ミランはきっと彼らならば大丈夫だとは思いながらも、そう声をかけずにはいられなかった。それほど彼らに信頼を寄せているという証でもあった。


「あぁわかった。そう聞いていれば注意していくことができる。助かる、ありがとう」

 いまだ柔らかな表情を浮かべているアタルから思わぬトーンでの礼が返って来たことで、ミランは少々戸惑っている様子だった。もっと冷たい返しが来ると思っていたからだ。

「い、いえ、あの、えーと、お二人のご無事を祈っています!」


 挙動不審なミランの見送りを受けてアタルとキャロ、それにバルキアスはミランの家をあとにした。家を出る際に、ふとバルキアスが振り向いてぺこりと頭を下げたのを見たミランは部屋に戻るなり、何かをこらえるようにソファに座り込んでしまった。

「……な、なにあれ、かわいいいいっ!!」

 たったの一動作でミランは心をわしづかみにされてしまっていた。





「さてと、それじゃあ山に向かう準備を始めるか」

「わかりましたっ。バル君、私かアタル様の側を離れないようにしていて下さい。テイムしている魔物を連れている方も珍しくありませんが、単独で行動していると悪い魔物と勘違いされてしまうので」

『了解です!』

 バルは念話で二人に返事を返していた。はた目には可愛らしい子狼がガウッ! と吠えたようにだけ見えるので、周囲からは微笑ましい視線を送られていた。


「……この様子なら成長するまでは周囲にはばれなそうだな」

「そうですねっ」

 二人はちらりと周囲をうかがうが、バルキアスを見る視線のほとんどが愛玩動物を見るような視線であったため、ほっとひと安心していた。


「さて、それじゃバルの装備も含めて買い物をするぞ」

 改めて三人は次の依頼に向けての買い物のために店を回っていく。バルキアスは自分の分まで何かを買ってもらえると思っていなかったため、買ってもらうたびにどんどんテンションがあがり、尻尾を大きく左右に振りながら二人のあとをついていった。


 そうして買い物をしながら、二人は山の情報を集めていく。

 店には冒険者の出入りも多く、色々な情報を聞くことができる。そこで集めた情報によると、ミランが言っていたように山は魔物が多い時期らしいということがわかった。

 強い魔物がいると、それに惹かれてさらに魔物が集まってくることもあるとのこと。


「森の場合は魔物じゃなかったからあまり多くなかったんだろうな……」

 そう言いながらアタルは母フェンリルのことを思い出していた。対峙した際に威圧を受けても禍々しい印象は受けず、むしろ神聖な空気を感じていたことに気付く。きっとあの空気が魔物を寄せ付けなかったのだろう。


「じゃあ、魔物がまた増えるかもしれませんね……」

 しょんぼりと耳を垂らしながらキャロは不安に思っているようだった。母フェンリルが安らかに眠れるかどうか、それを心配しているようだ。

「……確証じゃないが、多分大丈夫だと思う。あの墓からおぼろげながら神聖な力を感じることができたからな」

 フェンリルの墓の様子を思い浮かべたアタルは、うっすらとだがあの場から確かに力を感じ取っていたことを伝えた。


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