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魔眼と弾丸を使って異世界をぶち抜く!(Web版)  作者: かたなかじ


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第九十話


「さて、街に戻る前にやっておくことがある」

「そうですね」

『うん……』

 三人の視線が集まったのは母フェンリルの遺体だった。彼女をあのままにしてはおけない、それが三人の考えたことだった。


『時間かかるかもしれないけど、僕が穴を掘ってあげてもいいかな?』

 自分で母を埋葬したいという気持ちをにじませたバルキアスのその提案に二人は無言で頷く。

 優しい眼差しでアタルとキャロはバルキアスが穴を掘っている姿をただただ見守っていた。


「掘れたか」

 アタルの問いかけに頷いたバルキアスを見たアタルとキャロはそっとフェンリルの身体を持ち上げて、掘られた穴にゆっくりとおろしていく。そのまま上に柔らかく土をかぶせ、祈るように三人はその地面を見つめる。

『母さま……さようなら』

「バル君のことは任せて下さい」

「じゃあな」

 三人はそれぞれの言葉で別れをすませると、振り返らないように思いを振り切って森の入口へと向かった。




 森の入り口まで戻ると三人は繋ぎとめていた馬車を解放すると、乗りこんでいく。

「アタル様、バル君も馬車に乗せてあげていいですか?」

「あぁ、いいんじゃないか? 俺たちだって土足で乗ってるんだからな」

 アタルの許可を受けたバルキアスはきょろきょろと視線を巡らせ、匂いを嗅いだりしながら初めての馬車に乗り込んでいく。


『これが馬車かあ、すごいなあ!』

 目を輝かせているバルキアスは何がすごいのかは言葉にできないようだったが、乗り物という考え自体初めてであるため、なにやらカルチャーショックを受けているようだった。


「キャロ、御者は俺がやるからお前はバルに事前情報を与えておいてくれ。馬車一つでこの驚きようだと街に戻った時の驚きは計り知れないからな」

「そうですね……バル君、街に着くまでお外を眺めながら街のお勉強をしておきましょう」

 アタルの指摘を受けてキャロはそれはまずいと考えて、バルキアスへと向き直る。


『うん! キャロ様、よろしくね!』

 しばらく馬車の中を歩き回っていたバルキアスだったが、二人の会話を聞いて状況を理解したため、素直にキャロの指導を受けることにする。

「まずは街についての説明ですね。街というのはですね……」

 わかりやすい言葉を心掛けつつ、キャロは基本的なところから話を始め、バルキアスはそれを真剣に聞いていた。時にその役目は入れ替わり、バルキアスが念話の方法を指導をすることもあった。

 その様子は微笑ましく、アタルは柔らかな笑顔になりながら馬車を操縦していた。




 そうして街に戻ったアタルたちは馬車を宿に預けて、食堂で食事をとることにする。神獣とはいえ、さすがにバルキアスを店の中に連れて行くわけにはいかず、馬車とともに外で待機させておく。

『僕のことは気にしないでゆっくりしてね!』

 キャロの適切な指導もあってか、このあたりもわきまえているようで、バルキアスは文句ひとつ言わずに待機していた。


 店に入った二人は案内された席につく。そこでの話題はバルキアスのことだった。

「バル君ほんっとうに可愛いですっ……気も使ってくれるしほんといい子ですよね」

 キャロはバルキアスのことを思い出しながらとろんと頬を緩ませていた。

「確かに……母親の育て方がよかったんだろうな。キャロたちが馬車で話してる声が聞こえてきたが、ある程度は人の暮らしに対する知識もあるようだったな」

 全てではないが、フェンリル以外に生きているものたちの情報もバルキアスは与えられていた。それも偏った知識ではなく、冷静に判断した上での情報だった。母フェンリルはきちんと彼が一人でも生きていけるようにと世話をしていたのだろう。


「はい、おかげさまでだいぶ助かっちゃいました。新しい知識についてもどんどん理解していくので、説明がとても楽でしたっ」

 アタルだけでなく、キャロもバルキアスの頭の良さに脱帽していた。

「バルに関しては、誰かに絡まれた時も逃げろと伝えてあるから心配はないな。問題はどこまであいつに報告するかだな……」


 今回のことを素直に話すとすれば、森の奥に行ったら神獣フェンリルがいました。フェンリルは死ぬ寸前であり、最後の子どもを託して亡くなりました。そしてその子供とはキャロが契約しました。

 という内容になる。


「そのまま話して問題がない相手なのかどうかが判断難しいところだな……」

「ミランさん、悪い人ではなさそうでしたけど……」

 良い人間であれば、情報を全て渡しても良いというものでもない。それは二人とも理解していた。だが依頼された以上、何も報告しないわけにはいかないという気持ちがある。


「お兄さんたち、難しい顔をしているねえ。何か悩み事かい?」

 大らかな雰囲気をもった声音でそう声をかけてきたのは料理を運んできた女性店員だった。彼女は宿の主人の妻であり、食堂の給仕係を担当しているようだ。


「あぁ、まあな。とある報告をこれからしなくちゃならないんだが、その人物がどこまで信頼できる人物なのかわかっていない。だから、どこまで情報を渡していいものかと悩んでいるんだ」

 彼女の雰囲気に促されるようにアタルは一瞬だけ考えてから根幹の部分は伏せて、大まかの流れを説明していく。


「ふーん、その人っていうのは怪しい人なのかい? こう、秘密を持っています! とか裏の顔があります! みたいな怪しい雰囲気というか」

 女性店員の演技交じりのその質問にアタルとキャロは揃って首を横に振る。

「演じている部分はあると思うが、そういう後ろめたい部分はなさそうに見えた」

 ふとミランと会った時の印象を思い出しながら、アタルが答えた。色々な事情からミランが自分というキャラクターを作っているのはアタルはあの時の彼女を見てなんとなく察することができたのだ。


「そうだねえ……だったら、いっそそう考えているということを言っちゃうのはどうだい?」

「ほ、本人にですか?」

 にっこりと笑みを深めてはっきりと言い放った女性店員の言葉にキャロは驚いた。

「ふふっ、人間素直に心を開いてぶつかると案外、道が開けるもんだよ。悪い人じゃないなら余計にね」

 経験したかのように語った彼女は茶目っ気たっぷりにウインクをして次の給仕に戻って行った。


「なるほどな……それも悪くないかもしれない」

 アタルは彼女の言葉に光明を見出していた。


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